10話 大森林の脅威、オーガとの遭遇
大森林に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
「......濃いな」
翔太は、思わず呟いた。
木々は途方もなく巨大で、幹の太さは翔太の身長の何倍もある。枝葉が空を覆い、昼間だというのに薄暗い。そして、空気そのものに重みがあるように感じられた。
「これが大森林か......」
「魔力が濃いのよ」
ランマが説明した。
「強い魔物がたくさんいる場所は、自然と魔力が濃くなる。ここは、そういう場所」
翔太は、頭の上のプルンを見た。プルンは、いつもより身体を硬くしているように見える。
「大丈夫か、プルン?」
プルンは、小さく震えた。怯えているわけではないようだが、緊張しているのは確かだ。
「ナーガは川に戻ったし、ここからは俺たちだけだな」
「うん。でも、何かあったら呼べば来てくれるでしょ」
「そうだな」
翔太は、森の奥へと歩き始めた。
しばらく進むと、プルンが反応した。
「魔物か?」
プルンは、ある方向を示した。だが、その震え方が尋常ではない。
「......かなり強いみたいね」
ランマの声にも、緊張が滲んでいる。
翔太は、身構えた。
——木々の間から、巨大な影が現れた。
「っ!」
それは、人型の魔物だった。
身長は三メートルを超え、筋骨隆々の身体は岩のように硬そうだ。顔は醜く歪み、口からは鋭い牙が覗いている。手には、巨大な棍棒を握っていた。
「オーガ......!」
ランマが、息を呑んだ。
翔太は、ステータスを確認した。
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【オーガ】
Lv. 35
・怪力
・硬化
・咆哮
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「レベル35......」
翔太の顔から、血の気が引いた。
今の自分はレベル24。またしても十以上の差がある。しかも、この魔物は見るからに戦闘向きだ。
「逃げるぞ」
翔太は、即座に判断した。
「プルン、ランマ、走れ!」
だが、遅かった。
オーガは、翔太たちを見つけるなり、咆哮を上げた。
「グオオオオオ!」
その声は、森全体を震わせるほどの轟音だった。思わず身体が硬直する。
「くっ......!」
翔太は、なんとか身体を動かそうとした。だが、足が言うことを聞かない。
「咆哮のスキル......!身体が麻痺する効果があるのよ!」
ランマが叫んだ。
オーガが、棍棒を振り上げた。
このままでは、叩き潰される——
その時だった。
「ぷるっ!」
プルンが、翔太の頭から飛び出した。
そして、オーガの顔面に向かって——自らの身体を発射した。
「プルン!?」
プルンは、オーガの目に張り付いた。
「グオッ!?」
視界を奪われたオーガが、棍棒を振り回す。だが、狙いが定まらない。
隙が生まれたのか、翔太の身体の麻痺が解けた。
「今だ、逃げるぞ!」
翔太は、ランマの手を引いて走り出した。
「でも、プルンが——」
「プルン、離れろ!」
翔太が叫ぶと、プルンはオーガの顔から離れ、ぴょんと跳ねて翔太の元に戻ってきた。
「よし、このまま——」
だが、オーガは諦めなかった。
「グオオオオ!」
怒りの咆哮と共に、オーガが追ってくる。その速度は、見た目に反して恐ろしく速い。
「まずい、追いつかれる......!」
翔太は、必死に走った。だが、オーガとの距離はどんどん縮まっていく。
このままでは——
その時、翔太の頭にある考えが浮かんだ。
「ランマ、あの木の方に走れ!」
「え?」
「いいから!」
翔太は、近くにあった巨大な木を目指した。
その木の根元には、大きな穴が開いている。おそらく、何かの魔物の巣穴だ。
「あそこに隠れるの? でも、オーガに見つかったら——」
「隠れるんじゃない」
翔太は、穴の前で立ち止まった。
そして、振り返ってオーガと対峙した。
「翔太、何を......!」
「賭けだ」
翔太は、オーガを睨みつけた。
オーガが、棍棒を振り上げる。
翔太は、動かない。
棍棒が振り下ろされる——その瞬間、翔太は横に跳んだ。
棍棒は、翔太がいた場所を通り過ぎ——巣穴の入り口に直撃した。
轟音と共に、穴の周りの地面が崩れる。
そして、穴の中から——何かが飛び出してきた。
「グギャアアア!」
それは、巨大な蜘蛛だった。
八本の脚、無数の目、そして鋭い牙。体長は二メートルほどもある。
巣穴を壊されたことに激怒した蜘蛛は、目の前にいるオーガに襲いかかった。
「グオッ!?」
オーガは、突然の襲撃に驚いて後退した。
蜘蛛は、糸を吐いてオーガの動きを封じようとする。オーガは、棍棒を振り回して応戦する。
二体の魔物が、激しく戦い始めた。
「今のうちに逃げるぞ!」
翔太は、ランマの手を引いて走り出した。
オーガと蜘蛛の戦いの音が、背後で響いている。
***
十分ほど走り続けて、ようやく翔太たちは足を止めた。
「はあ......はあ......」
翔太は、木の幹に手をついて息を整えた。
「助かった......」
「すごいわね、翔太」
ランマが、感心したように言った。
「あの状況で、あんな作戦を思いつくなんて」
「たまたまだ。巣穴があることに気づいてなかったら、終わってた」
翔太は、頭の上のプルンを撫でた。
「プルン、ありがとう。お前のおかげで助かった」
プルンは、嬉しそうにぷるぷると震えた。
「でも、あのオーガ......レベル35か。この森には、あんなのがゴロゴロいるのか?」
「たぶんね。大森林は、弱い魔物が生き残れない場所だから」
「......厳しいな」
翔太は、自分のステータスを確認した。
レベル24。スキルはそこそこ増えたが、オーガには到底敵わない。
「正面から戦うのは無理だな。罠を使うか、他の魔物を利用するか......」
「賢明ね。無謀な戦いは避けた方がいいわ」
翔太は、森の奥を見据えた。
この森には、強い魔物がたくさんいる。それは、危険であると同時に——チャンスでもある。
「うまくやれば、強い従魔を増やせる」
「そうね。でも、無理はしないでね」
「わかってる」
翔太は、再び歩き始めた。
今回は逃げることしかできなかった。だが、次は——
必ず、あのオーガを従えてみせる。
そう心に誓いながら、翔太は大森林の奥へと進んでいった。




