09話 河蛇との戦い、知略の勝利
ゴブリンたちの拠点を後にして、翔太とランマは北へと進んだ。
森は次第に開け、やがて大きな川が姿を現した。
「おお......」
翔太は、思わず足を止めた。
川幅は五十メートルほどもあるだろうか。透き通った水が、ゆったりと流れている。対岸には、さらに深い森が広がっていた。
「あれが大森林よ」
ランマが、対岸を指差した。
「あの森には、この辺りよりずっと強い魔物がいるはず。レベルアップには最適ね」
「問題は、どうやって渡るかだな......」
翔太は、川を見渡した。橋らしきものは見当たらない。泳いで渡るには、川幅が広すぎる。
「浅瀬を探すか......」
その時だった。
頭の上のプルンが、激しく震え始めた。
「プルン? どうした?」
プルンは、川の方を向いて、怯えるように身体を縮めた。
「何かいるみたいね......」
ランマが、警戒の色を浮かべた。
翔太は、川面を注視した。
最初は何も見えなかった。だが、目を凝らすと——水の中で、何かが動いている。
「あれは......」
巨大な影だ。川の中を、ゆっくりと泳いでいる。
そして、その影が水面に姿を現した。
「っ!」
蛇だった。
だが、普通の蛇ではない。全長は十メートルを超え、鱗は青黒く輝いている。頭部には、鋭い角が二本生えていた。
「河蛇......リバーサーペントね」
ランマが、声を潜めて言った。
「水辺に棲む魔物よ。かなり強いわ」
翔太は、ステータスを確認した。
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【リバーサーペント】
Lv. 28
・水流操作
・締め付け
・猛毒の牙
・水中適応
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「レベル28......」
翔太は、息を呑んだ。今の自分はレベル18。十も差がある。
「逃げた方がいいかもね」
ランマが囁いた。
「待て」
翔太は、リバーサーペントを見つめた。
「こいつを従えられれば、かなりの戦力になる」
「でも、レベル差が——」
「大猪の時もそうだった。正面からぶつかるんじゃなく、頭を使えばなんとかなるかもしれない」
翔太は、周囲を見回した。
川岸には、大きな岩がいくつも転がっている。川の流れは緩やかだが、上流の方は少し急になっているようだ。そして、川岸の一部には、木々が水面近くまで迫っている場所がある。
「......よし」
翔太の頭の中で、作戦が形になっていく。
「ランマ、一つ聞きたい」
「なに?」
「あの蛇は、陸に上がれるのか?」
「上がれるけど、動きは鈍くなるはずよ。水中が本領だから」
「なら、勝機はある」
翔太は、プルンを頭から降ろした。
「プルン、お前に頼みがある」
***
リバーサーペントは、川の中をゆったりと泳いでいた。
この川は、長年の縄張りだ。他の魔物は近づかない。人間も、この川を渡ろうとはしない。
平和な日々——とは言えないが、少なくとも脅かされることのない日々が続いていた。
だが、今日は何かが違う。
水面の上に、何かがいる。小さな、ぷるぷるとした存在。
スライム?
リバーサーペントは、興味を引かれた。スライムがこんな場所に来ることは珍しい。
そして、そのスライムは——こちらを挑発するように、ぴょんぴょんと跳ねている。
怒りが湧いた。
この川の主である自分を、あんな小さな存在が愚弄するとは。
リバーサーペントは、水面に向かって突進した。
スライムを一呑みにしてやる——
だが、スライムは素早く岸に向かって跳ねた。
追う。
リバーサーペントは、川から這い出し、岸に上がった。スライムは、木々の間に逃げ込んでいく。
許さない。必ず捕らえて——
その時だった。
頭上から、何かが落ちてきた。
「今だ!」
叫び声と共に、大きな岩がリバーサーペントの頭に直撃した。
「ぎゃあっ!?」
一瞬、視界が白くなる。
そして、次の瞬間——身体に、何かが巻き付いてきた。
蔦だ。太い蔦が、何本も身体に絡みついている。
「なっ......!」
暴れようとするが、蔦は頑丈で、簡単には切れない。しかも、陸の上では身体が思うように動かない。
「よし、動きを封じた!」
人間の声。
リバーサーペントは、声の方を向いた。
そこには、若い人間の男が立っていた。手には、太い枝を握っている。
「お前......何者だ......」
「魔王だ」
人間は、静かに答えた。
「お前に、選択肢をやる」
***
翔太は、蔦に縛られたリバーサーペントを見下ろした。
作戦は成功だった。
プルンを囮にして、リバーサーペントを陸に誘い出す。そして、あらかじめ仕掛けておいた蔦の罠で動きを封じる。ギルから教わった罠作成のスキルが役に立った。
「選択肢......だと」
リバーサーペントは、怒りと屈辱に震えていた。
「俺がこんな罠にかかるとは......」
「油断したな。でも、俺はお前を殺すつもりはない」
「何?」
「俺の従魔になれ。そうすれば、解放してやる」
リバーサーペントは、翔太を睨みつけた。
「従魔だと......? この俺が、人間ごときに......」
「人間ごときに罠にかかったのは、お前だろ」
「っ......!」
翔太は、しゃがみ込んでリバーサーペントの目を見た。
「俺は魔王だ。魔物を従え、人間と戦う者だ」
「魔王......? お前ごときが…?」
「ああ。俺は今、力を集めている。強い魔物が必要だ。お前のような、な」
リバーサーペントは、しばらく黙っていた。
その目には、まだ怒りがある。だが、同時に——何か別の感情も浮かんでいた。
「......お前、本当に魔王なのか」
「疑うなら、試してみろ」
翔太は、手を差し出した。
「俺の従魔になれば、わかる。魔王と従魔の繋がりは、嘘をつけない」
リバーサーペントは、翔太の手をじっと見つめた。
長い沈黙が流れた。
やがて、リバーサーペントは深いため息をついた。
「......いいだろう」
「従うのか?」
「この屈辱、いつか晴らしてやる。だが......今は、お前に従ってやろう」
「それでいい」
翔太は、リバーサーペントの頭に手を置いた。
その瞬間、温かい光が流れ込んできた。
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【魔王ショータ】
Lv. 18 → Lv. 24
【スキル】
・溶解耐性(微)
・突進
・物理耐性(微)
・短剣術(初級)
・罠作成(初級)
・夜目
・群れの連携
・水流操作(初級) ←NEW!
・毒耐性(微) ←NEW!
【従魔】
・プルン(スライム) Lv.18
・グラン(グレートボア) Lv.15
・ハニービースト Lv.8
・カジリスク Lv.6
・ギル(ホブゴブリン) Lv.12
・ゴブリン族 (ゴブリン) Lv.6
・ナーガ(リバーサーペント) Lv.28 ←NEW!
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「レベル24......一気に6も上がった」
「レベル28の魔物を従えたんだもの、当然よ」
ランマが、感心したように言った。
翔太は、蔦を解いてリバーサーペントを解放した。
「名前......ナーガでいいか」
「好きにしろ」
ナーガは、身体をくねらせて翔太を見た。
「魔王よ。一つ聞いていいか」
「なんだ」
「お前は、何のために力を集めている」
翔太は、少し考えてから答えた。
「......大切な人を、取り戻すためだ」
「取り戻す? 人間に囚われているのか?」
「いや...そうではないが、そんなところだ」
ナーガは、しばらく黙っていた。
「......そうか。ならば、俺の力、存分に使え」
「急に協力的になったな」
「俺は長く生きている。愛する者を失う痛みは、知っているつもりだ」
ナーガは、川の方を向いた。
「この川には、かつて俺の番いがいた。人間の猟師に殺された」
「......そうか」
「お前が人間と戦うなら、俺も喜んで力を貸そう。あいつのためにもな」
翔太は、静かに頷いた。
「ありがとう、ナーガ。頼りにしてる」
「ふん。礼を言われる筋合いはない。俺は、俺のために戦うだけだ」
素っ気なく言いながらも、ナーガの目には——わずかな親しみが宿っているように見えた。
「さて」
翔太は、対岸を見た。
「これで川を渡れるな」
「乗れ。運んでやる」
ナーガが、身体を低くした。
翔太とランマは、ナーガの背に乗った。プルンは、相変わらず翔太の頭の上だ。
「行くぞ」
ナーガが、川に入った。
水しぶきを上げながら、巨大な蛇は川を渡っていく。
対岸の大森林が、近づいてくる。
レベル24。従魔七種。
まだまだ旅は続く。
だが、確実に——翔太は強くなっていた。




