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07話 滅びた村 怒りのゴブリン

大猪を従えてから、数日が経った。


翔太は森の奥へと進み続けていた。頭の上にはプルン、傍らにはランマ。大猪——グランと名付けた——は、この一帯の森を守護する役目を与えて残してきた。


「従魔は離れていても、命令を実行し続けるんだな」


「そうよ。魔王と従魔の繋がりは、距離に関係なく維持される。だから、各地に魔物を配置して領土を広げていくことができる。それに、魔物は種族ごとで共通意思が働く場合が多いから、一つの個体を従えると同種族の他の個体も従魔にすることができるの」


「なるほど......軍団を作るっていうのは、そういうことか」


翔太は、ステータスを確認した。


────────────────────────────────────


【魔王ショータ】


Lv. 10


【スキル】

・溶解耐性(微)

・突進

・物理耐性(微)



【従魔】

・プルン(スライム) Lv.6

・グラン(グレートボア) Lv.15

・ハニー(ハニービースト) Lv.8 ←NEW!

・カジリス(カジリスク) Lv.6 ←NEW!


────────────────────────────────────


大猪を従えた後、道中で出会った小型の魔物を何匹か倒し、レベルは10まで上がっていた。


「でも、まだまだ足りないな......」


「焦らない焦らない。着実に進んでるじゃない」


その時、プルンがぴくりと反応した。


「魔物か?」

プルンは、ぷるぷると震えながら、ある方向を示した。だが、いつもと様子が違う。怯えているような、警戒しているような。


「どうした、プルン?」


「......何かあるみたいね」

ランマも、表情を引き締めた。


翔太は、プルンが示す方向に慎重に進んだ。


***


木々を抜けると、そこには——廃墟があった。


「これは......村?」

焼け落ちた家屋。散乱する生活用品。そして、至る所に残る黒い焦げ跡。

かつてここに、村があったのだ。


「人間の村じゃないね」

ランマが、周囲を見回しながら言った。


「建物の大きさ、造りからして......ゴブリンの集落かな」


「ゴブリン?」


「小型の魔物よ。群れで暮らして、簡単な道具を使う。魔物の中では知能が高い方ね」


翔太は、廃墟の中を歩いた。

至る所に、戦いの痕跡がある。だが、ゴブリンの死体は見当たらない。


「戦って、負けたのか......」


「たぶん、人間にやられたんだと思う」

ランマの声が、少し沈んだ。


「今、人間の国はエルフや魔物を敵視してるでしょ?ゴブリンの集落も、討伐対象になったんじゃないかな」

翔太は、拳を握りしめた。


「......こっち側になると、、、ひどい話だ」


「うん。でも、これが今の世界の現実」


その時だった。


「動くな」

低い声が、背後から響いた。


翔太が振り返ると、そこには一匹のゴブリンが立っていた。


小柄な緑色の肌。鋭い目つき。手には、錆びた短剣を握っている。


「お前、人間か」

ゴブリンの声には、憎悪が滲んでいた。


「ああ、人間だ」

翔太は、正直に答えた。


「だが、俺はお前たちの敵じゃない」


「嘘をつくな!」

ゴブリンが、短剣を構えた。


「人間どもが俺たちの村を焼いた! 仲間を殺した! お前も同じだ!」


「待ってくれ。俺は——」


「黙れ!」

ゴブリンが、翔太に斬りかかってきた。


翔太は、咄嗟に身をかわした。だが、反撃はしない。


「なぜ避けるだけだ! 戦え!」


「戦う理由がない。俺は、お前を傷つけたくない」


「ふざけるな!」


ゴブリンは、何度も斬りかかってきた。だが、その動きは荒く、正確さを欠いている。怒りと悲しみで、我を失っているのだ。


「お前......」

翔太は、ゴブリンの目を見た。


そこにあるのは、純粋な憎悪ではなかった。

悲しみ。喪失感。そして、どうしようもない無力感。


「仲間を、失ったんだな」


「......!」


ゴブリンの動きが、一瞬止まった。


「俺もだ」

翔太は、静かに言った。


「大切な人を、殺された。守れなかった。......お前の気持ちは、わかる」


「わかるだと......? 人間のお前に、何がわかる!」


「全部はわからない。でも、失う痛みは知ってる」

翔太は、一歩前に出た。


ゴブリンは、短剣を構えたまま動かない。


「俺は魔王だ。人間だけど、人間の側にはいない」


「魔王......だと?」


「ああ。魔物を従え、人間に復讐する者だ。......少なくとも、今はそういうことになってる」


ゴブリンの目が、わずかに揺らいだ。


「俺と来ないか」

翔太は、手を差し出した。


「一人で復讐しようとしても、返り討ちにあうだけだ。でも、俺と一緒なら......いつか、仇を討てるかもしれない」


ゴブリンは、翔太の手を見つめた。


長い沈黙が流れた。


やがて、ゴブリンは短剣を下ろした。


「......俺の名は、ギル」


「ギル」


「元・ホブゴブリン族の副長だ。......もう、部下は誰もいないがな」

ギルは、自嘲するように笑った。


「魔王よ。お前が本当に人間の敵なら、俺の力を使え。復讐のためなら、何でもしてやる」


翔太は、ギルの手を取った。


その瞬間、ステータスに変化が起きた。


────────────────────────────────────


【魔王ショータ】


Lv. 10 → Lv. 14


【スキル】

・溶解耐性(微)

・突進

・物理耐性(微)

・短剣術(初級) ←NEW!

・罠作成(初級) ←NEW!



【従魔】

・プルン(スライム) Lv.6

・グラン(大猪) Lv.15

・ハニー (ハニービースト) Lv.8

・カジリス (カジリスク) Lv.6

・ギル(ホブゴブリン) Lv.12 ←NEW!

────────────────────────────────────


「レベル14......それに、新しいスキル」


「ホブゴブリンは知能が高いから、技術系のスキルが多いのよ」

ランマが解説した。


ギルは、翔太を見上げた。ゴブリンの身長は、翔太の腰ほどしかない。


「魔王、一つ聞いていいか」


「なんだ」


「お前は、何のために戦う? 復讐か? それとも、別の目的があるのか?」


翔太は、少し考えてから答えた。


「......大切な人を、取り戻すためだ」


「取り戻す?」


「ああ。そのために、力が必要なんだ。どんな手段を使っても」


ギルは、じっと翔太の目を見つめた。


「......そうか。なら、俺も同じだ」


「同じ?」


「俺は、仲間の仇を討ちたい。お前は、大切な人を取り戻したい。目的は違うが、敵は同じだ」

ギルは、錆びた短剣を腰に収めた。


「俺の知識と経験、存分に使ってくれ」


「......ありがとう、ギル」

翔太は、小さく頭を下げた。


「俺のことは、翔太でいい」


「いや、魔王は魔王だ。いや、様を付けるべきかな。魔王様、俺は従魔としてお前に仕える」

ギルの目には、新たな光が宿っていた。


絶望の中で見つけた、小さな希望。それが、翔太という存在だった。


***


廃墟を後にして、翔太たちは再び森の中を進んだ。

ギルは、翔太の隣を歩きながら、様々なことを教えてくれた。


「この森には、野生のゴブリンがまだいるはずだ。俺たちの集落が滅んだことを知らない連中がな」


「野生のゴブリン?」


「ああ。集落を持たず、小さな群れで暮らしてる連中だ。俺たちより知能は低いが、数はいる」


「従えることはできるか?」


「......難しいかもしれん。野生のゴブリンは、警戒心が強い。特に今は、人間への恐怖が広がってる」

ギルは、苦々しげに言った。


「人間の討伐隊が、あちこちで魔物を狩ってるからな。生き残った連中は、怯えきって隠れてるだろう」


「そうか......」

翔太は、考え込んだ。


力で従えることはできるかもしれない。だが、怯えている相手を追い回すのは気が引ける。


「ギル、お前に頼みがある」


「なんだ」


「野生のゴブリンたちに、俺のことを伝えてくれないか。魔王がいること、人間と戦う意志があることを」


「......伝えるだけでいいのか?」


「ああ。従うかどうかは、向こうに決めさせる。無理強いはしたくない」


ギルは、翔太を不思議そうに見た。


「お前、変わった魔王だな」


「そうか?」


「伝説の魔王は、有無を言わさず力で魔物を支配したと聞いている。だがお前は、魔物の意思を尊重しようとしている」


「......そうしないと、意味がないからな」

翔太は、空を見上げた。


「もちろん倒して従わせる方がいい相手もいるが、嫌がっているのに無理やり従わせた軍団なんて、いざという時に結束できない。俺が欲しいのは、同じ目的のために戦ってくれる仲間だ」


ギルは、しばらく黙っていた。


そして、小さく笑った。


「面白い。お前についていく価値は、ありそうだ」


「そう言ってもらえると助かる」


頭の上で、プルンがぷるぷると揺れた。

まるで、「僕も仲間だよ」と主張しているかのように。


「ああ、わかってる。お前は最初の仲間だからな、プルン」


プルンは、嬉しそうに身体を震わせた。


こうして、翔太の旅に新たな仲間が加わった。

復讐を誓うホブゴブリンの元副長、ギル。


その知識と経験は、これからの旅に大きな力となるだろう。


「さて」

翔太は、森の奥を見据えた。


「次は、どこに向かう?」


「北に行けば、野生ゴブリンの縄張りがある。まずはそこで、仲間を増やすのがいいだろう」


「わかった。案内を頼む」


「任せろ、魔王様」

ギルを先頭に、翔太たちは北へと歩き始めた。


レベル14。従魔五種。


少しずつだが、確実に力は増している。


リリアを取り戻す日まで、まだ遠い。

だが、一人ではない。

仲間と呼べる存在ができた。


その事実が、翔太の心を少しだけ軽くしていた。

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