06話 大猪との死闘、レベルアップの洗礼
翌朝、翔太は鳥の鳴き声で目を覚ました。
身体のあちこちが痛い。地面で寝るのは、やはり辛かった。
「おはよー、魔王様」
ランマが、すでに起きていた。泉の水で顔を洗っている。
「......おはよう」
翔太は、身体を起こした。頭の上では、プルンがまだ眠っているようだ。
「今日の予定は?」
「魔物を探す。従魔を増やさないと、話にならない」
「よしよし、やる気があってよろしい」
翔太は泉で顔を洗い、水を飲んだ。腹は減っているが、贅沢は言っていられない。
「さて、どっちに行くか......」
翔太が周囲を見回していると、頭の上のプルンがぴくりと動いた。
「ん? 起きたか、プルン」
プルンは、ぷるぷると身体を震わせた。そして、ある方向を向いて、激しく揺れ始めた。
「どうした?」
「あー、これはたぶん、魔物を感知してるんだと思うよ」
ランマが解説した。
「スライムって、同族や他の魔物の気配に敏感なの。レーダーみたいなものね」
「マジか。便利だな」
翔太は、プルンが示す方向を見た。森の奥、木々が密集している辺りだ。
「よし、行ってみよう」
***
プルンの導きに従って、森の奥へと進む。
しばらく歩くと、木々が開けた場所に出た。
そこにいたのは——
「......でかい」
巨大な猪だった。
普通の猪の三倍はあろうかという巨体。黒い剛毛に覆われた身体。そして、鋭く光る二本の牙。
「グレートボアだね。この辺りでは中堅クラスの魔物よ」
ランマが、翔太の隣で呟いた。
「中堅......」
翔太は、ステータスを確認した。
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【グレートボア(大猪)】
Lv. 15
・突進攻撃
・剛毛の守り(物理耐性・小)
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「レベル15!? 俺、レベル4だぞ!?」
「うん、知ってる」
「知ってるじゃないだろ! 勝てるわけないだろ!」
「でも、逃げられる?」
ランマの言葉に、翔太は大猪を見た。
大猪は、すでにこちらに気づいていた。血走った目が、翔太を捉えている。
「......無理だな」
「でしょ? なら、戦うしかないよね」
大猪が、地面を蹄で掻いた。突進の構えだ。
「くそっ......!」
翔太は、咄嗟に横に跳んだ。
直後、大猪が突進してきた。轟音と共に、翔太がさっきまでいた場所を駆け抜けていく。
「速い......!」
大猪は、すぐに方向転換した。再び、翔太に向かって突進してくる。
「プルン、降りてろ!」
翔太は、頭の上のプルンを地面に下ろした。そして、再び横に跳ぶ。
だが、今度は完全には避けきれなかった。
「がっ......!」
大猪の牙が、翔太の脇腹を掠めた。鋭い痛みが走る。
「翔太!」
「大丈夫......まだ動ける......!」
翔太は、脇腹を押さえながら立ち上がった。血が滲んでいるが、致命傷ではない。
大猪が、三度目の突進の構えを取る。
「このままじゃ、ジリ貧だ......」
翔太は、必死に頭を働かせた。
レベル差がありすぎる。正面からぶつかっても、絶対に勝てない。
だが、何か方法があるはずだ。
「......そうだ」
翔太の目が、周囲の地形を捉えた。
開けた場所の端に、崖があった。それほど高くはないが、落ちれば無傷ではすまないだろう。
「ランマ! あの崖の近くに誘導できるか!?」
「え? 私が囮ってこと?」
「頼む!」
ランマは一瞬だけ躊躇したが、すぐに頷いた。
「わかった!でも、失敗したら恨むからね!」
ランマは、大猪の前に飛び出した。
「こっちよ、デカブツ!」
ハート型の杖を振り回しながら、ランマが叫ぶ。大猪の注意が、ランマに向いた。
「よし......!」
翔太は、崖の方へと走った。
ランマが大猪を引きつけている間に、崖の縁に立つ。
「ランマ、こっちに誘導しろ!」
「言われなくても!」
ランマは、崖に向かって走り始めた。大猪が、その後を追う。
翔太は、タイミングを見計らった。
大猪がランマに追いつきそうになった、その瞬間——
「ランマ、避けろ!」
ランマが、横に跳んだ。
大猪は、勢いを止められない。そのまま、崖に向かって突進していく。
だが——
「止まった!?」
大猪は、崖の縁で急停止した。落ちるギリギリのところで、踏みとどまっている。
「くそ、賢いな......!」
大猪が、ゆっくりと振り返った。怒りに満ちた目が、翔太を睨みつける。
「まずい......」
翔太は後退しようとしたが、背後には木がある。逃げ場がない。
大猪が、再び突進の構えを取った。
今度こそ、避けられない。
「終わりか......?」
その時だった。
「ぷるっ!」
プルンが、翔太と大猪の間に飛び出した。
「プルン!? 何やって......!」
プルンは、自分の身体を大きく膨らませた。そして——
大猪の顔面に、べちゃりと張り付いた。
「ぶもおおお!?」
大猪が、激しく首を振る。だが、プルンは離れない。半透明の身体で、大猪の目と鼻を覆っている。
「視界を......塞いでる!?」
「今よ、翔太!」
ランマが叫んだ。
翔太は、咄嗟に動いた。
落ちていた太い枝を拾い上げ、全力で大猪に向かって走る。
視界を奪われた大猪は、翔太の接近に気づかない。
「うおおおお!」
翔太は、枝を大猪の脚に叩きつけた。
ゴキッという音と共に、大猪の前脚が折れ曲がる。
「ぶもっ!?」
バランスを崩した大猪が、よろめいた。
そして——崖から、落ちた。
「やった......!」
翔太は、崖の縁に駆け寄った。
下を覗き込むと、大猪が岩に叩きつけられ、動かなくなっているのが見えた。
その瞬間、翔太の身体に、温かい光が流れ込んできた。
「これは......」
「レベルアップだよ! おめでとう!」
ランマが、嬉しそうに飛び跳ねた。
翔太は、ステータスを確認した。
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【魔王ショータ】
Lv. 4 → Lv. 8
【スキル】
・溶解耐性(微)
・突進 ←NEW!
・物理耐性(微) ←NEW!
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「レベル4から8に!? 一気に4も上がった!」
「そりゃあ、レベル15の魔物を倒したんだもん。経験値たっぷりよ」
翔太は、自分の手を見つめた。確かに、さっきまでとは違う。身体の奥から、力が湧いてくるような感覚がある。
「スキルも二つ増えた......突進と、物理耐性」
「大猪の能力が反映されたのね。倒した魔物は従魔にできるから」
「なるほど......」
その時、プルンがぴょんと翔太の肩に飛び乗ってきた。
「プルン! 無事だったか!」
プルンは、得意げに身体を揺らした。
「お前のおかげで助かった。ありがとう」
翔太は、プルンを優しく撫でた。プルンは、嬉しそうにぷるぷると震えた。
「さて」
翔太は、崖の下を見下ろした。
「あの大猪......もったいないな」
「もったいない?」
「食料になるだろ。あのサイズなら、しばらく食いつなげる」
「あー、なるほど、、、ん?いや待って魔王さん。従えて魔王軍を作るんでしょーが」
「ああそうだった…」
崖を降りると、大猪は気絶しているようだった。何となく合掌しておく。
レベル8。スキル三つ。従魔二種。
まだまだ弱いが、確実に前に進んでいる。
「よし、今日の収穫は上々だな」
翔太は、小さく笑みを浮かべた。
リリアを取り戻す道のりは、まだ遠い。でも、一歩ずつ、確実に近づいている。
そう信じて、翔太は新たな魔物と食料を探しに歩き出した。




