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01話 黒き王、紅き空に立つ
世界が終わる音が、遠くで響いていた。
焦げた風が砂を巻き上げ、空は赤黒く染まっている。
焼け落ちた村の残骸の上に、一人の男が立っていた。黒衣をまとい、背後には異形の影がひれ伏している。
男は何も語らなかった。
その瞳は、沈黙のまま焼け落ちた大地を見つめていた。
兵士の悲鳴も、炎に包まれた民の叫びも、もはや耳に届いていないようだった。
命を刈り取ったのは、彼の剣ではなかった。
その意志を受け、命令を遂行したのは、彼が率いる――魔王の軍勢。
牙をむき、炎を吐き、影のように這い寄る魔物たち。
そのすべてが、この男の命令一つで動いていた。
「……これが、選んだ道か」
かすれた声が、風に溶けて消える。
己の手は汚していない。だが、命じたのは――他でもない、自分だった。
それは救いなのか、逃避なのか、あるいは……ただの偽善なのか。
遠く、夕焼けのように血の色をした空に、赤い羽根が一枚、ひらりと舞い落ちた。
――これは、ただ一人の命を蘇らせるために積み上げられた、幾千の命の山。




