夢
ぼんやりとした世界の中に自分、彰がいた。
白黒な世界の中で自分は剣を持っていた。
剣だけは鮮明な色を持ち、焦げ茶の峰と白銀の刃を持っているのがわかった。
白銀に光る刀身は淡い光を放っている。
自分の周りの風景はピントの合わないレンズを覗いているようにぼやけており、ほとんどわからない。
その中で、確実に彰に近づく『もの』があった。
彰はそれに向かって剣を振り上げ、振り下ろす。
愚直なほどに真っ直ぐ、フェイントも入れない動作に彰に近づく『もの』の動きが止まった。
その代わりに紅の花が白黒の世界の中で辺り一面に鮮やかに咲いた。
1センチにも満たない小さな花から5センチくらいの花たちの中に、2メートルはあるであろう大きな花がいくつか咲いていた。
彰は大きな花の中の一つに近寄る。
だんだんと、ピントが合ってきたかのように視界がはっきりとしてくる。
紅の花は鮮血だった。
大きな花の中央には人がいた。
身体に大きな傷を刻まれ、苦悶の表情を浮かべながら絶命した哀れな人の姿がしっかりと見えるようになった彰の視界に映る。
目の前で死んでいたのは、海人だった。
周りを見渡せば、他の幼馴染たちも同じように身体に傷を刻まれて死んでいた。
俊也と祐志が並んで肩から脇腹にかけて大きな傷を刻まれて死んでいる。
その2人のすぐ近くに、まるで2人を守ろうとしていた様に剣をしっかりと握ったまま腹部から血を流して死んでいる伊槻もいた。
梓は詩音に守られるかのように抱きしめられながらも、2人とも身体中に無数の切り傷を負って死んでいた。
海人は一番酷く、首から身体の右側を通って右足の先までの大きな傷を負っていた。
だが、彰は泣きもしない。
ただ無言で目の前にある幼馴染の遺体を見ていた。
ゆらりと死んだはずの海人が立ち上がり、彰の首に手を伸ばした。
彰は驚きもせずにその手を掴む。
海人が薄笑いを浮かべて言った。
「生きるか死ぬか、殺すか殺されるか、友か想い人か、自分か相手か。2つに1つの世界なのは知っている。彰だってそうなのも知ってる。いつかはお前が人を殺すかもって思ってたさ。
だけどな、お前は理不尽な理由で仲間を殺せるとは思わなかった・・・失望したぜ!」
海人はそう言うとその場に崩れ落ちた。
[ねぇ、怨むよ!]
[信じてたんですよ!]
[お前だけは違うと思ってた俺が馬鹿だった!]
[何で!]
[・・・ハハッ!]
祐志が、俊也が、伊槻が、梓が、彰の意識に直接訴える。
その中の一つの笑い声が、彰の前に形となって現れる。
ゆっくりと人の姿へと変わった。
「いいぞ、ゼノ。仲間を切り捨てて頂点へと・・・さぁ、我の腕となり、魔力世界を!」
人形が彰の肩を掴む。
彰は何も言わず、首を縦に振ろうとした。
[彰ぁ!]
叫んだのは、誰だ?
「彰ぁ!起きろ!!・・・ってトシくん!」
伊槻はキースたちの話を聞いた後に仮眠を取っていた全員を起こしていた。
昔から寝起きが悪く、遅刻の多かった海人を伊槻と俊也が2人掛りで起こし、彰を起こすのに悪戦苦闘していた伊槻を待っていた俊也はいつの間にやらなかなか起きない海人を起こすことでの疲れからなのか、またも寝てしまっていた。
「寝足りないんですよぉ、伊槻の寝言がうるさくてなかなか寝つけませんでしたから」
「同じ理由で眠い」
「悪かったな」
彰は悪い夢を見たことを頭の片隅へとなんとか追いやると3人の会話へと入った。
「さっさと寝ないから寝不足になるなんだよ」
「一番最初に寝てアズちゃんの名前連発して安眠妨害するからだろ」
「海人も言ってましたよ、梓って」
「アハハハハ、人の事言えねーじゃん!」
「ちなみに伊槻は海人が寝る前は2次元キャラの名前、寝た後はし・・・」
「うわあああぁぁぁぁぁぁ!!」
「伊槻、寝起きの大声は耳にきついからやめろ」
「俊也ぁ、伊槻は何言ってたんだ?」
「隣のクラスだった志乃ちゃんだろ。伊槻好みのちっちゃい子」
「あぁ、俊也と身長変わらなくて梓並みにか弱くて可愛いあの子?」
「でもぉ、戦族は強い子に興味があるかぁ、恋愛自体に興味がないかのどっちかだよぉ」
「いつの間にキースが入ってるし・・・って、何で俺ネタで話を進めるんだぁ!!」
『うるさあぁい!』
朝からうるさい男たちをビュークが隣の部屋で怒鳴って黙らせた。
いつもと場所は違うけど、いつものような日常。
彰は夢の事を忘れて話へとのめり込む。
それでもやっぱり、祐志がいないというその一つの寂しさをどこかで感じながら・・・
オレハ警告ヲ無視シタ。
最初デ最後ノ警告。
デモ、警告ヲ無視シテイナカッタトシテモ、サホド変ワラナイ。
ソレホドマデニ、過酷デアッタ。