灰色の服の男と美女と黒服の女
自然の光に溢れていた町はだんだんと人口の光に照らされ始め、昼とは違った賑わいを見せ始めていた。
結局5人は詩音も祐志も見つけることができず、町の入り口へ肩を落としながら集まっていた。
「どうする・・・?」
「腹減ったけど飯なんかねぇし、金もねぇ」
「ないものはしょうがない・・・宿屋にも行けないし」
ほぼ半日歩いていた5人は空腹を抱えながらその場に腰を下ろす。
そのまま梓と俊也は眠り、伊槻と海人も眠気に負けそうになっていた。
その中で彰は眠気もなく、ただ漆黒の夜空を見ていた。
雲が出ている様子はないのだが星は一つも見えない、なんとも気味の悪い夜空だった。
彰は先ほどから悪い事が起こるのではないかと感じる体を抱いた。
この世界に来てから、なんだか身体が疼く。
特に胸の辺りと両腕、そして右目。
おもいきり声を出して暴れたい。
自分の命を燃やし尽くすほどの力を放ちたい。
そんな気持ちがずっと見え隠れする中で、その気持ちを抑えられたのはなぜなのか。
どこかでそれを咎める力でも働いているのか。
彰には分からないが、確かに暴れたいという気持ちを何かが抑えてる気がした。
「それが王族の血なんだろうねぇ。こんなとこにいたらゼノォ、連れ去ってくれって言ってるも同然だよぉ?エースはエースで命狙われてるのにさぁ・・・早くしないとフィーが来ちゃうよぉ、起きて」
彰とさほど身長の変わらない男が間延びした話し方をしながら彰に近づく。
その後ろで美人の女が海人に近づいた。
男は少し幼げな可愛らしいという言葉の似合う顔立ちだったが、背に担いだ背に担いだ大きな剣がその雰囲気を完全に壊していた。
薄い灰色の服を身に纏った男は笑うかのように彰を見ていた。
「ゼノリー・クラウとエース・ジャティ、その他4名・・・一人足りないわね」
そんな男に向かって海人に近づいた美女が話しかける。
男は彰達を一人一人数えてからポンと手を叩いた。
「あぁ・・・フィーといた茶色服の子ぉ」
「すいませ~ん、何の話かさっぱり」
まったく話についていけていない彰は片手を上げて自分の存在を強調した。
「ちょっと待ってぇ。ビュークゥ、まいったねぇ」
男は彰を見ながら頬を掻いた。
どうやら男は彰が話を理解してると思っていたらしい。
彰の本気で分からない顔を見ながらどう説明しようか考えている男の後ろで何かが光った。
「防御陣・土」
彰には何が起こったのか見えなかった。
気がついたときには目の前には茶色い壁が立ち、男が消えていた。
そして、耳を劈くサイレンの音が響いていた。
「何・・・?」
眠っていた海人たちがサイレンの音に目を覚ました。
目を覚ました皆を守るように美女が立ち、手を合わせる。
「防護印・術」
美女の澄んだ声が響くと同時に彰の目の前の壁が崩れた。
崩れたことにより壁の向こうが明らかになった。
その奥にはまるで漫画の世界のような壮絶な戦いが展開されていた。
だが、それがはっきりと分かっているのは美女だけだった。
目がついて行けていない彰達には、何がどうなっているのかがまったく分からなかった。
美女だけは目の前の戦いをじっと見つめていた。
だが、それでも男が黒服の女と大剣を使って戦っているぐらいしか分からなかった。
時が経つごとに両者のスピードは増し、だんだんと美女の目でさえもついて行けなくなる。
やがて戦いは音だけが傍観者の得られる情報となっていた。
地を蹴る音や剣が空を斬る風斬音。
剣が剣を受け止める金属の鈍い音。
たくさんの音があたりの音の世界を支配していた。
「はあぁぁっ!!」
「らあぁぁっ!!」
どれくらい経ったのか。
急に両者が大声を出し、音が途絶えた。
刹那の静寂の後、刃と刃がぶつかった金属独特の音を響かせあい、衝撃によって両者の動きが止まった。
__パキン
黒服の女が持っていた剣がか細い音と共に折れ、黒服の女の武器は消失した。
一気に不利になった黒服の女だったが、表情は少しも変えなかった。
男は剣を構えて真っ直ぐに黒服の女を見る。
「魔術・大地の戒め」
隙を見て美女が屈んで地を叩くと黒服の女の回りに草が生え、黒服の女を瞬く間に拘束した。
黒服の女は抵抗をすることもなかった。
男が大剣をしまって女と彰達を手招きした。
黒服の女の着ている、胸元が大きく開いている肩出しのシャツに丈が短いスカートといういでたちに一瞬で彰達の顔が赤くなる。
膝の辺りまであるブーツまでもが黒一色の女の顔は彰達絡みえる右側からは真っ黒な大きめな眼帯で分からない。
藍色の髪を詩音と同じようにポニーテールにしている女が俯いた。
少し長い前髪が女の顔を隠した。
「・・・詩音?」
理解デキナイ。
コノ世界の事ハ理解デキナイ。
目ノ前ノ存在ヲ理解スルノニサエ、
時間ガカカルトイウノニ。