路地裏の恐怖
「いやぁ、まいったなぁ」
祐志は人込みの道を外れ、彰達とは逆方向の路地へと避難した。
ついていっている最中にローブを着た男にぶつかられ、目を離したときに見失ってしまったのである。
目立つ伊槻も、目を離したうちに路地に入ってしまった為に祐志は見つけられずに完全な迷子となってしまった。
「すいません、私のせいですね」
ローブを着ていた男に対して祐志はしょうがないと言って手を軽く振った。
「時亜、おまえも非現実世界に?」
「えぇ、少し前から」
幼馴染たちのクラスメイトの永沢時亜。
祐志が時亜の声がいつもよりも強張っているのに気づき、時亜を見た。
ぱっとしない顔であまり目立たない時亜はいつもとは違う瞳で祐志を見ていた。
その瞳が、冷たく光った。
祐志は背筋を冷や汗が流れるのを感じた。
「実は、同僚に頼まれたんです。あなた達を連れて来るようにと。最初はあなたですよ」
クラスではめったに笑わなかった時亜は気味が悪いほどに笑うと、祐志の首に手を伸ばした。
祐志が後ずさると時亜は一瞬で距離を詰め、祐志の首をしっかりと掴んだ。
女並みに非力だった時亜が決して小柄ではない祐志の身体を片手で持ち上げた。
首の圧迫感に焦る祐志をよそに時亜は簡単に任務が終わりそうな事にほっと息を吐いていた。
「呆れましたが、感謝します。身体強化も基本魔法も何もできないとは・・・楽でいいんですが、面白くありませんね。少しいたぶってみましょうか、メレ?」
残忍な笑みを浮かべた時亜の後ろに突然、空から降って現れた人に祐志は目を見開いた。
「そこまでやれとは言ってないし、お前の楽しみのために頼んだわけでもじゃない」
突然現れた人の声は祐志が先ほどまで捜していた女であった。
体にピッタリと合った肩出しの黒いシャツと黒い短めのスカートを着た女の顔を見れば、紛れもなく詩音だった。
右目に真っ黒な眼帯が着けられており、残る左目で時亜を見て、祐志を見た。
助ける気も、哀れむ気もない目だった。
祐志は自分が逃げられないことを悟った。
そして、それは当たっていた。
足に詩音が触れたと思うと、次の瞬間には意識が飛んでいた。
詩音が祐志の身体に触って呟き一瞬で祐志の身体を凍りつかせたのだ。
時亜と詩音は凍り付いて意識のない祐志を見ながら淡々と会話を始めた。
「一応報告しておくよ。一人捉えたら戻って来い、後はメレに任せる。お前は最終日の準備を続けろだと」
「じゃぁ、これをつれて戻れば?」
「あぁ、それなりの報酬は出るだろ。元は自分じゃなくてアイツの命令な訳だし」
「あの方をアイツ呼ばわりするとは」
「別にいいだろ、親族だし」
「どうかと思いますがおいておきましょう・・・話は変わりますが今回の件の恩ですが?」
表情を変えなかった詩音がぴくりと眉を動かす。
時亜は話を続ける。
「最終日の貴女の相手と一度、戦ってみたいのです。もちろん、半殺し程度に」
「あぁ、アレか・・・一応できるよう努力しといてやるけど、気に入らなかったら自分が殺すからな」
子供のような無邪気な笑みを浮かべた時亜だったが、内容はそう可愛いという問題ではない。
だが、詩音はそれを了解と取れるような返事をした。
「貴女のその性格ではお父様は苦労されるでしょうね」
「お前まさか最終日の作戦内容知らないのか?」
「いえ、最終日の前の話です」
「・・・どうせ気に入らなくて切り捨てるさ」
「どうでしょうね、大切な方ですよ?」
詩音の眉が眉間によった。
だが、詩音はすぐに切り捨てた。
「くだらない。アイツの子として生まれてしまっては大切な人だろうが愛する人だろうが関係ない」
詩音はそう吐き捨てると時亜と祐志を置いて路地を出ていった。
残された時亜は溜息をつきながらも祐志を抱えて空へと飛び立った。
「しお~ん、ゆーーーじ!」
入れ替わるように彰達がやってきたが、路地は何事もなかったようにひっそりとしていた。
梓と海人が路地を出て人込みを見渡す。
「ん~・・・詩音の声がした気がするんだけどなぁ」
海人が頭を掻きながら呟く。
隣で梓が、詩音を見つけた。
「あの人、詩音と同じ髪型だけど・・・」
「・・・詩音があんな短いスカートを穿くわけがない」
「確かにね。人違いか」
今までの印象からありえないと捨てて、3人は逆方向へと歩いて行ってしまった。
マズ罠ニカカッタノハ、心優シキ親友
ダガ、イマダに罠ニ気付カズニイル
ソシテマダ、親友ガ罠ニカカッタ事ニ気付イテイナカッタ
次ノ標的ハ既ニ狙ワレテイルト言ウノニ