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非現実世界《ヴェルメン》  作者: Tries
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偽者を裁く時

「チッ、り損ねたか」


アリュリーは舌打ちをして剣に付いた血を振り払う。

目の前には無傷のアルセイディと、背中を斬られて赤い液体で地面を濡らしている大柄な赤髪の男。

振り下ろした剣を受けたのは、赤髪の男だった。

アリュリー以上の身体能力でとっさに脚力を強化し、アルセイディを突き飛ばし、その勢いのままにアルセイディと赤髪の男は共に倒れこんだ。

だが、手ごたえはあった。

背中のあたりを斬ったのだろう、男の背からは血が流れている。

赤髪の男を見ているアリュリーの背後に突然に現れた気配から逃げるように前へ飛び、同時に持っていた剣でもう一度アルセイディを狙う。


「させません! 上級魔術・鉄茨鞭」


近くの壁から棘の生えた鉄が映え、ありえないことに鞭のようにしなる。

咄嗟に開いていた左手を身体強化して掴もうとする。

掴める、そう思った瞬間、鞭はアリュリーから離れるかの様に逆方向へと進行方向を変えた。


「なっ!?」


驚くアリュリーの耳に、アルセイディの無感情の裁きの声が届く。


「闇魔術・同類封印」


その言葉を最後に、アリュリーの意識は途絶え、二度と戻ることはなかった。




詩音の叫びは、常識を遥に超えるほど身体強化をしていた伊槻の耳には痛いほどに届いていた。

壁によって彰達は数グループに分けられてしまったが、伊槻は運良く俊也とは離れずに済んだ。

俊也の耳には届かなかった叫びが脳内に響き、それに比べるとかなり小さいが、男の声も聞こえていた。

伊槻の記憶にはないが、酷く恐ろしい者の声だった。

嫌な予感に突き動かされて俊也の腕を掴んで叫びのほうへと走っていった伊槻は詩音の姿を見つけ、壁の陰に隠れた。

いきなり伊槻に痛いほど腕を強く掴まれ、足が宙に浮いてしまうほどのスピードで引っ張られた事に抗議しようとした俊也だったが、詩音と男の姿に気付くと事情を察したのか、無言で魔力メイを使って気配を消し、壁の影に隠れて伊槻と共に様子を窺い始める。


「今まで無数の人の幸せを奪っていた神の一族の子が、散々人の幸せを奪った奴が本当の幸せを手に入れたいなど言えることではないだろう」

「ここまで使えない娘だとは思わなかったぞ。用済みだ、消せ」


男の代わりにアリュリーが現れ、背後にまわったとき、伊槻は飛び出していた。

一瞬で身体中に分散させていた身体強化用の魔力メイを両足に集中させて飛び出す。

詩音を突き飛ばして刃から遠ざけよう――――いや、自分諸共!

一瞬よりも短い間に決めると、詩音を突き飛ばして自分もその勢いに逆らわず、共に倒れこむ。

もちろん、頭を打たないように気をつけて。

少し遅かったのか、背の辺りから脇腹にかけて、激痛が走る。

意識と視界に靄がかかった伊槻だが、その後の光景は見れた。

気配を消していた俊也が壁から飛び出し、術の発動準備をする。

アリュリーが前に飛んで第2の攻撃に入るが、俊也の術に気をとられてその隙を詩音がついた。


「闇魔術・同類封印」


どんな術かはわからなかったが、アリュリーが気を失って倒れたのだけはわかった。

そして、伊槻の意識もここで途絶える。




「サンキュー、伊槻。助かったよ」

「無茶をしすぎですが。ビュークに教わっておいて正解でした 回復魔術・治癒水」


俊也が前に彰と詩音にビュークが使っていた術で伊槻の傷の治療をする。

服にある赤い血の染みはそれ以上拡がることはなくなった。

だが、伊槻は起きない。

ホッとしたような顔で意識を手放している伊槻の髪を詩音が優しく撫ぜる。

黒髪が赤髪へと変化していたが今、黒髪へと戻っていく伊槻の髪を優しく撫ぜている詩音は俊也の顔を見た。


「俊也もありがとう。アリュリーを封印できた」

「自分より強いと言ってたのに、思った以上にあっさり勝ちましたね」

「まぁね、アリュリーがさっきの話で自分が絶望してるって油断してたこともあるだろうし。2人のおかげで隙がはっきりとできたのはラッキーだろうね」

「そうですね・・・大丈夫ですか?」


笑う詩音に俊也は心配そうに問う。

見抜いていたのだ、俊也は。

封印をした後の詩音の魔力メイが極端に減っているのを。


「反動がきただけだ。5年くらいは満足に魔力メイが使えないけど、死ぬわけじゃないし」

「でも・・・いざという時には困りますよ?」

「ん、彰の有り余ってる魔力メイをもらうことで彰が一人で制御できるようにしようって考えもあったからこの方法を使ったし。さて、彰に合流できればいいんだけど」

「傷を治しましたが伊槻にばかりあまり無理はさせられませんし。目を覚ますまで移動も無理ですね」

「そうだな。自分は身体強化しないと伊槻をおぶって歩いてもすぐへばるだろうし、キャレとかに会った時が危険だし」

「僕では伊槻をおぶることさえ無理です」


恨めしそうに俊也は伊槻の身体を見た。

かなり小柄な俊也では伊槻を引きずることになりかねない。

詩音は喉まで込みあがってきた小さいと言う言葉を飲み込んだ。


「少し、ここにいましょう」

「そうだな」


俊也は少しだけ、肩の力を抜いた。

敵の気配はなかった。

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