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闇に立つ男
深い深い闇の夜。
新月の今日は更に深い闇に包まれる。
その闇に一人、男は降り立つ。
音もなく静かに、静かに地に足を下ろした。
闇色の服に身を包んだ男は何かを呟く。
「 」
うわ言の様に呟き、歩き出す。
男の周りに蒼い炎が現れては消えてゆく。
「アルセイディ」
男は呟く。
「アルセイディ」
男の声は闇にとける。
「なぜ、父を裏切る」
怒りに滲むその声を聞くものはいない。
ただ、闇にとけていく。
「戻って来い」
男の目は虚空を見る。
「お前と一つになるものと共に、父の元に」
男の目は虚空を見たまま、どこか恍惚とした光を宿す。
「アルセイディ」
男はそのまま現れたときと同様に静かに消えた。