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非現実世界《ヴェルメン》  作者: Tries
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セルビアの伝言

楽しい雰囲気の中、一つの電子音が突然に鳴り響いた。

数秒の間一つの音が単調に鳴り響く。

ビュークの持つ端末からなっているそれは一度鳴り止むと、無機質ながらも悲しい音色を奏で始める。

ビュークとキースはその音で全てを知ると、静かに電源を切った。


「どうしたの?」


何もわかっていない梓が訊ねる。

悲しみの色に染まりかけた瞳をビュークは一度閉じて笑顔を作った。


「穴が塞がったって報告よ。さぁ、帰りましょう」

「よかった」

「あっ、置いてぐなよ!!」


真実を知らない彰達の後をゆっくりとキースはついて行く。

作戦終了と、セアンとセルビアの死亡報告。

先ほどの電子音の意味はそういうことだ。


「キース、あの子たちには教えないでね」

「わかったぁ・・・」


ビュークに釘を刺されてキースは頷くと、空を見た。

絶縁空間に繋がっているのはこの空間全域だという説がある。

立っているところも、この空も、目の前も、全てが繋がっているらしい。

それなら今、目の前に2人が現れるのではと思う。

そんな都合のいいことはないとキースは全否定できるのだが、やはり願う。

戦闘狂のキースにしてはおかしいと思われる?

いや、思われない。

狂った感情を持つキースは思う。


「どうせ死ぬならぁ、全部自分の手で壊したいんだよねぇ」


気に食わないやつや嫌いなやつはもちろん、どうでもいいやつも、仲間でさえも、目の前にいる大事な大事な存在でさえも。

全部、自分の手にかけたい。

それは許されないことだけど。


「夢っていえばいいのかなぁ?」


叶って欲しくないことだというものは誰もいない。

既に皆はかなり先にいる。

キースは追いつくために走り出した。





正界レジスタンスの基地に戻るとすぐさまビュークは自室に戻って仕事を始めた。

次々と運ばれてくる書類や報告をこなしていくビュークを見て、邪魔だと思った彰達は大講堂に来た。


「キース、着替えたいんだけどいい?」

「大丈夫じゃないのぉ?でも、個人部屋はないよぉ」

「別に。ここで着替えるつもりだったし」

「ブッ!!」


大講堂に着くなり詩音が恥じらいもなく言い出したこととキースが普通に許可したことの両方に伊槻が勢いよく噴き出した。

俊也と海人は無言でくるりと後ろを向き、彰は目を塞いだ。

もちろん、全員に詩音の呆れた視線が送られた。


「普通に脱いで着替えるわけじゃねぇし」


詩音がその場で回ると服が黒のシャツとベージュのズボンに変化した。

右目の眼帯は当たり前のように存在を強調している。


「んで、キース、何を隠してるのかな?」


詩音の一言にみんなの顔に緊張の色が表れる。


「穴が塞がった報告だけならもっとホッとした顔をするのではないでしょうか?」


詩音が左目だけで鋭くキースを睨み、俊也もキースの事を見上げながら不気味に笑う。

彰や海人、伊槻にとって、詩音の睨みだけでも充分怖いのだが、自分の事を見上げて不気味に笑う俊也も充分怖い。

それでもキースはいつものままに笑う。


「別に何も隠してないよぉ」

「・・・」

「隠さなきゃいけない事ってぇ、フィーは分かっちゃってるでしょぉ?」

「・・・」

「確認しないほうがいいんじゃないのぉ?」


キースはにっこりと笑うと大講堂を出て行った。

俊也が肩を竦めて駄目でしたねと小さく呟く。

その顔は本当に残念そうだったが、隣の詩音は怒ったような顔をしていた。


「間違いであって欲しかったんだよ」

「・・・何?」

「純血の死族デストの作った特殊生命体アルスロッティだからな。死族デストの能力はかなり受け継いでるんだよ。世の中が知っている能力の何倍もあるんだよ」


苛立つ様に吐き捨てる詩音は口を閉じると息をついた。

同時に大講堂の扉が勢いよく開いた。


「ゼノリー様!!」


彰にはまったく見覚えのない正界レジスタンスの兵だった。

ごくごく普通の正界レジスタンスの服を着たおそらくは末端兵の男はその場で肩膝をついた。


「お初にお目にかかります、先の騒動でセアン様とセルビア様と共に穴の修復に向かっておりました、修復隊のジャックと申します。セルビア様からゼノリー様に伝言をと」

「セルビアはどこにいる?」


詩音が脅すような声色でジャックに訊く。


「・・・お答えできません」

「俺にも教えてくれないのか?」

「できません」


彰にも同じように答えようとはしなかった。


「セルビア様は、ライバルはいるけど頑張ってと言っておられました」

「他には言われなかった?」


梓の綺麗な声にジャックは思わず顔を上げ、そして固まってしまった。

頬の辺りが真っ赤に染まっている。


「惚れたな」

「またライバル増えてるじゃん」

「アズちゃんの可愛さは罪だね~」

「えっ・・・」

「梓が可愛くて一目惚れする奴は大量にいたよ」

「全部詩音と海人がのしてましたけど」

「お前だって彰だってやってたじゃねぇか!」

「っつーかサクッとバラすなよ!」


盛り上がり始めたところでジャックはふと気付いた。


「梓と詩音って・・・えっ?」


ジャックの脳裏にセルビアが消える直前の言葉がよみがえった。


「梓さん、詩音さん・・・」


思わず呟いた言葉に全員の視線がジャックに集まる。

ジャックはそのまま続きを呟いた。


「ごめんなさい。お兄様を幸せにしてあげてください」

「・・・やっぱり、と言うべきか。ジャック、セルビアは絶縁空間を越えただろ?」


詩音は溜息をつく。

ジャックが静かに首を縦に動かすのを見て、詩音は溜息をついた。


「もう会えないかもしれないだけだろ、絶縁空間を越えただけで死んじゃいないんだから隠すなよ」


こんな遺言まがいの言葉を残すのが馬鹿だとは思わないけど、無性に腹がたった。

もう会えないという運命に逆らおうとしない姿に。


「・・・メレでしたよね。貴女は強い魔力メイを持っていると聞いています。だから貴女は絶縁空間をいくつもいくつも破壊して何度も行方をくらませた。命があるのは破壊してすぐ潜った・・・だからですよね!今あなたの命がここにあるのは!!セルビア様は我々と共に塞ごうとしていた穴にセアン様が通り、獄竜ヘルト・ドラゴンを押し込んで、それから自分で通ったのです!!貴女の時とは訳が違う!」


ジャックが強く強く叫ぶ。


「セルビアが死んだと決めつけてるような言い方だな」

「伊槻、少し黙ってろ。今回の穴は地獄世界スカルアースだろ?セルビアの力なら3日だ。魔力メイを溜めに溜めればこっちに来れる。それにセアンがいたならその間身を守ってもらって2人で帰還することもできる。もう一度会いたい奴がいれば絶対やる。それに、絶縁空間を通るのにかかる時間はたった数秒、人一人が通れる大きさの穴なら閉じるまでに通る時間に+2~3秒かかる。絶縁空間で意識を失うなんてありえないことにならない限りは向こうにいる。・・・何度も行き来した奴の計算だ。実体験した奴の言うことと、お前の空想論のどっちを信用するかはお前の勝手だから、これ以上の話は無駄だ。・・・行こう」


もう一度溜息をつくと、出口へと歩き出す。

ジャックを気にかけながらも皆離れて詩音についていく。

彼には、考える時間が必要だ。

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