彰の戦い
彰は痛む身体に鞭打って廃墟の外に出る。
仲間のためにも、背にある廃墟の中にいる大切な詩音のためにも。
ふと思った。
詩音の存在は、自分の中でかなり大きくなっている。
幼馴染以上の、大事な存在。
梓とはまた違う、大事な大事な存在。
その大事な存在を守るために、彰は危険な領域へと足を踏み込む。
「移動魔術・瞬間移動」
廃墟の中の獄竜の食料に気付かれぬように廃墟から移動。
広い空白地帯となっていた広場のど真ん中へと移動する。
くすんだ空を旋回し続けていた獄竜は即座に気付いた。
「秘術・超身体強化」
獄竜が気付き、突進するまでの一瞬にも満たない時間の中で彰は身体を限界を超え、本当に壊れる一歩手前、極限へと身体を強化していた。
「遅すぎる 秘術・細胞破壊」
神速の域に達していた獄竜のフルスピードの突進は彰の感覚ではかなり遅く見えていた。
避ける素振りも見せずに棒立ちしたまま獄竜に術を放った。
声と共に術は空気に乗って拡散する。
目に見えぬ粒子は細胞に触れると同時にその細胞を破壊していく。
彰は危険な粒子が自分に触れぬよう調整。
同時にこの広場より遠くへと飛ばぬように風を操り、獄竜へと粒子を集中的に飛ばす。
粒子はまず獄竜の鱗と表皮を徹底的に破壊した。
鱗の破壊される痛みはなかったかもしれないが、表皮は痛んだかもしれない。
獄竜の動きが止まる。
「この都市の人の痛みを思い知れ」
冷たく彰は吐き捨てる。
もちろん、この言葉にも粒子を大量に乗せた。
そして、地獄が始まる。
表皮からだんだんと破壊していた粒子は血管と神経の破壊に取りかかる。
神経の伝える激痛が伝わると、空気も何も感じなくなる空白感しか残らなくなる。
血管を断ち切られ、血が噴出す。
だが、粒子を操るための風に吹かれて彰には一滴の返り血も掛からない。
破壊は筋肉へと達する。
そして、地獄は終わりを迎えようとしていた。
欠落によって奥へ奥へと破壊していた粒子が中枢機能を受け持つ全ての内蔵を破壊しきった。
絶命したのは一目同然だった。
元が何だったのか判らないほどに無残になった死骸を無視して彰は術を使ってすぐさま詩音のいる廃墟へと戻った。
「・・・・早かったな」
詩音は先ほどと変わらない体勢で彰を見上げた。
苦笑するようにして彰は口を開いた。
「フルでやったから・・・ね」
一気に身体が痛み出す。
自分の体重も支えきれずに詩音に向かって倒れこみそうになり、慌てて壁に手をつくが、支えきれない。
伸ばしたひじは曲がり、詩音の顔のほうへと近づく。
詩音もまずいと思ったのだろう。
慌てて腕を彰へと伸ばす。
だがもちろん、詩音に支えられるほどの力は残されていない。
ズキンと身体が痛み、彰の体重で腕が曲がる。
顔が間近に迫った。