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非現実世界《ヴェルメン》  作者: Tries
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海人・俊也・ビュークの戦い

目の前の廃墟と化した大きな建物の上空を悠然と泳ぐ灰色の竜に海人は思わず見とれてしまった。

子供の頃好きだった幻の存在が目の前にいる。

その幻の存在を見ていてふと、昔を思い出した。

村の娘を喰らう悪い竜を旅人が退治していく物語があった。

その物語の劇を7人でやっていた。

俊也は物語を読むナレーター。

梓は竜に喰われそうになった娘の役になり、彰はその父親で詩音は母親。

伊槻が祐志を肩車して竜の役を担い、海人は旅人の役をやった。

まだ小学生低学年ぐらいだったと思う。

その頃から海人は梓のことが好きでその役を一番に志願していた。

勇者的な役だからともちろん彰も伊槻も志願したし、祐志もやりたいと言っていた。

それでも海人は旅人の役をやることができ、そしてあずさを助けるという気になって竜に挑みかかった。

既に幼馴染たちの中でも大柄だった伊槻に平均やや上ぐらいだった祐志が肩車されていて、海人には大きく見えていた。

それでもひるまずに飛び込めた。

あのときの安全という保証はない。

それでもやらねばならない。


「いくぞ・・・」


覚悟を決めて海人は剣を右手に作り出して構えた。

悠然と空を泳ぐ獄竜(ヘルト・ドラゴン)はまだ海人に気づいていない。


「上級魔術・鎌鼬嵐」


剣に鎌鼬を従わせて獄竜ヘルト・ドラゴンに向かって振る。

風は剣から離れて透明な刃となり、獄竜ヘルト・ドラゴンの身体に傷を刻もうと飛ぶ。

だが、それは獄竜ヘルト・ドラゴンにいとも簡単にかわされる。

しなやかに体を曲げて見えない刃をかわし、口から地獄の業火を吐き出す。

後ろへと跳躍してそれを避けると、前方から膨大な量の水が飛ばされて業火を瞬時に鎮火させた。

ビュークの基本魔術によって作り出された水である。

廃墟に火が燃え移れば酸素が失われて呼吸がままならなくなって不利になりかねない。

海人はビルが倒壊した瓦礫の山を登り、手頃な鉄の塊を拾う。

獄竜ヘルト・ドラゴンめがけて投げると当たったかどうかを確認する前に山をすばやく下りた。

鉄の塊は獄竜ヘルト・ドラゴンの尻尾のほうへと落ちた。

ゴンと地面に落ちた音に獄竜ヘルト・ドラゴンの視線がそちらへと注がれる。

海人はその間に半壊した建物に隠れて向かいの瓦礫の隙間を見た。

小中学生がギリギリ入れそうな隙間から一瞬俊也の顔が見え、視線がぶつかる。

海人は地面を指差してから宙に円を描く。

そして人差指を立て、もう片方の手で獄竜ヘルト・ドラゴンをさして首をかしげた。


「了解です。 陣・発射」


一連の動作を見終えると狭い隙間の中で俊也は両手で円を作り、海人の足元に陣を作った。

地面を指差して円を描いたのは陣の事。

人差指を立てたのは空へ上へ。

獄竜ヘルト・ドラゴンを指差したのは獄竜ヘルト・ドラゴンの方へということ。

首をかしげたのはわかったか、できるかと尋ねるジェスチャー。

俊也は海人の望み通り、海人の身体を飛ばした。

海人を見失った獄竜ヘルト・ドラゴンの背に海人は剣を刺す。

思った以上に柔らかい。

予想外の柔らかさに呆気にとられたがすぐに剣を抜いて飛び降りる。


「補助魔法・柔翼」


ビュークの術で海人の背に大きな柔らかそうな翼が生え、海人を包み込む。

翼は落下の衝撃から海人を守ると弾けた。

海人はすぐに立ち上がる。

獄竜ヘルト・ドラゴンが近づいている。


「上級魔術・茨林」


俊也が瓦礫の隙間から這い出るとそこらじゅうに茨を生やす。

なるべく多く、高く、密集させて。


「こっちです!獄竜ヘルト・ドラゴン!!」


集中して茨の林を瞬時に作り出した後、俊也はいきなり大声を出して注意を引くと走り出した。

戦族ソルである伊槻やキースみたいな身体強化はできない。

もともと運動が得意な分野ではない俊也だが、逃げ切れる自信があった。

今作り出した茨の林で獄竜ヘルト・ドラゴンはスピードを出せない。

もともと距離があったためにすぐに距離が縮むことはない。

そして、逃げ切れるというその自信は確かなものとなる。


「上級魔術・巨大毒草矢」

「身体特殊能力・雷電体」


ビュークが精確に巨大な毒矢を地から発射して獄竜ヘルト・ドラゴンの動きを一時的に止め、海人が体内に雷ほどの電気を溜めて身体に剣を叩きつけた。

毒矢によって動きが鈍った上に雷に匹敵する電流が体を流れ、竜の動きが止まる。


「協調魔術・共鳴音」


ビュークが俊也にシンクロを魔力メイで呼びかける。

俊也の耳から入った魔力メイが瞬時に脳で言葉へと変わると、俊也はすぐにそれを確認した。

海人の耳にも僅かながら届く。

『短期集中で一気に倒す』

迷わずそれに従う為の準備が始まる。

俊也はその場で魔力メイを溜めながら海人に呼びかける。


「地面!落として!」

「了解!行く!」


短い会話を終えて海人は近くの茨に軽々と登っていく。

途中の棘が何度も身体を傷つけて赤い液体を落とすが気にせず、上を目指し、獄竜ヘルト・ドラゴンより上に行く。


「印・武器強化」


剣が黄金色に輝き、不思議な紋様が柄に浮かび上がる。

限界まで武器強化をして飛び降りた。


「らあああぁぁぁぁ!!」


剣と共に獄竜ヘルト・ドラゴンを地面に向かって突き飛ばす。

だが、僅かに威力が足りず、地に落ちることはなかった。

悔しそうな顔をしながらもすぐさま海人はその場から離れて茨の上へと避難した。


「神術・重力変化」


その僅かな部分を埋めるためにビュークが一瞬だけだが重力を強めて地に落ちるのと、その術によってビュークが崩れるように倒れたのは同時だった。

どすんと鈍い音が響くと俊也が術を発動させる。


「最上級魔術・超絶猛吹雪」


獄竜ヘルト・ドラゴンの周辺だけに凍えるほどの猛吹雪を吹かせる。

俊也の魔力メイが尽きるまでひたすら続く猛吹雪は獄竜ヘルト・ドラゴンを凍らせる。

本当ならばビュークの補助魔法がかかった海人の一撃で止めだったが、ビュークが倒れてしまったのだ。

最後の一発は、海人の力だけに頼られた。

海人は茨が何重にも重なっているところに立ち、巨大な剣を作り出して両手で逆手に持った。

そして、茨の上から狙いを定めて獄竜ヘルト・ドラゴンにむかって投げ落とす。


「基本魔術・風」


その一撃に全てを賭けた。

海人の決して多くはない魔力メイが作り出した風を纏い、剣は獄竜ヘルト・ドラゴンに向かって寸分の狂いなく落ちていく。


「    」


それを見届けようとしていた俊也の耳に、何かが聞こえた。

俊也は剣から目を離して音のほうへと走り出した。


「俊也!?」


海人が戸惑って呼ぶ声も無視して俊也は走っていった。

愛する人の叫びに反応して。

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