伊槻・梓・キースの戦い 2
「行くよぉ」
キースは高揚感を押さえめに言った。
爆発と矢の嵐に飛び込む。
飛び込んで、都市を簡単に滅ぼせる獄竜の身体に自分の中で最高の技を繰り出すのだ。
高揚感を押さえきれずに笑ってしまう。
ビュークに昔言われたことを思い出す。
「高揚してるときのキースは敵以上に危険ね」
今まで何度か正界の兵と一緒に出たときがある。
この技を出そうとしたとき、味方の兵が恐ろしさのあまりひいてしまっていたことが何度もあった。
きっと伊槻もひいただろう。
隣を見れば伊槻の姿はない。
身の危険を感じてくれないと困る。
次の技は余波がすごいのだ。
そして、伊槻の力は必要ない。
自分一人で倒す。
戦うとき、一番に血が騒ぐこの瞬間。
最強で最凶で最恐な技を繰り出すこの瞬間。
この瞬間こそが「キース」という戦闘狂の生きがい。
その瞬間に余波で味方が怪我をしたとか死んだとかで高揚感を台無しにしないで欲しい。
湧き出てくる高揚感を押さえてキースは剣を構えて身体強化を充分に使って跳んだ。
「秘技・破壊神の嘲笑」
キースは矢の爆発の嵐に飛び込み、技を放つ。
自身の魔力を一時的に全て使っての命懸けの大技。
生きるためにも使われる魔力で力を上げて剣で斬るだけのこと。
誰でもなせるその技は、キースの戦いや技に対する執着で強大な力を持って相手を傷つける。
だが、それでも獄竜の息の根を止めるには足りない。
もう一発かましたい所だが、体中の魔力を使い切ったのだ。
反動で動けない。
技を放ったときの高揚感も消えている。
地に落ちる。
「後は任せろ」
キースはいなくなったはずの伊槻に受け止められ、ゆっくりとおろされた。
伊槻はそのまま矢の爆発の嵐に飛び込み、獄竜の鱗の一つに掴まる。
そして、キースの作り出した傷の中に意を決して入り込んだ。
1mほどの隙間に入って両刃の剣を中の壁に突き刺してぶら下がる。
赤黒い血がバケツをひっくり返したかのように頭から降っていて、すぐに体中ベトベトになる。
血の雨は続いているために息もままならない。
それでも伊槻は回転運動で剣の上に登って更に奥へと入り込み、大量の血が流れている場所を探す。
そして運良くあるものを見つけた。
巨大な動くもの、獄竜の心臓だった。
心臓の壁にはうっすらと血が滲んでいた。
キースの技はあと少しで心臓を破れていたのだろう。
頭の上にあった、技の余波で千切れかけて垂れ下がっている肉を掴んでぶら下がると突き刺した剣を足を器用に使って抜いてそれを片手で持つ。
心臓めがけて力の限り思い切り投げた。
ぶら下がっていた肉は太かったが、キースの技の余波で脆くなっているのか、大柄な伊槻の体重を支えきれずにぶちりと千切れた。
「刺されっ!!」
傷口から滑り出るように伊槻は出てきた。
同時に心臓に剣が刺さったのか、大量を越える血が降ってきた。
大きな大きな血溜まりとなった。
だが、伊槻とキースに危険はあった。
命を絶たれた獄竜が力を失い、降ってきた。
だが、伊槻にもキースにも避けるほどの力とスピードは無い。
「どうせなら戦って死にたかったぁ」
「最悪じゃん・・・」
2人はそのまま目を閉じた。
「キースっ!!!伊槻っ!!!!」
梓が2人に向かって走りながら竜を吹き飛ばそうと必死に術を打ち込むが、効果はほぼ無い。
悲痛な叫びだけが辺りに響く。