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非現実世界《ヴェルメン》  作者: Tries
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伊槻・梓・キースの戦い

梓を抱えていた伊槻を追っていた黒い大きな獄竜ヘルト・ドラゴンが突然追っていた人間がこちらへとやってきたことに何の考えもなく顔を地面につけ、口を開いて待ち構えた。

伊槻は走りながら刀を左手に作り出す。

白銀の刃を持つ日本刀だ。

鞘に入れたまま走る。

獄竜ヘルト・ドラゴンが開く口めがけて全力で走る。

数メートル前で真上に跳躍、鼻先へと飛ぶ。

獄竜ヘルト・ドラゴンが反応する前にキースが眉間の辺りに斬撃ではなく打撃を与えた。

数秒もない空白時間が生まれる。

その数秒は大きな命取りとなる。

伊槻が抜き打ちの型で獄竜ヘルト・ドラゴンの巨大な黄色い眼を潰しにかかる。


「補助魔術・精密標準

 合成魔術・極寒突風」


伊槻が刀を抜こうと右手をかけた時、離れたところに立っていた梓が術を同時発動させた。

伊槻の目に梓の補助魔術がかかり、透視状態となった伊槻の目は獄竜ヘルト・ドラゴンの目の神経の部分をはっきりと映し出す。

伊槻はそこに狙いを定めて刀を抜いた。

梓は伊槻の補助と同時に猛吹雪のような寒さの突風を獄竜ヘルト・ドラゴンへと吹かせる。

術を発動したと同時に梓は今だ獄竜ヘルト・ドラゴンの上にいる伊槻とキースもただではすまないのではと刹那の間に迷う。

だが、2人はきっと大丈夫。

すぐにそう信じて3度、突風を放った。

キースは既に地に着地して次の行動に移していた。

伊槻が狙う竜の目が傷つけば弱点になり得る柔らかな腹部が無防備になる可能性は大きい。

キースは伊槻の攻撃を待った。

伊槻は斬る直前に来た最初の突風に身体を持っていかれないように身体強化を使ってバランスをとりながら走る。

型の流れに支障が出ないよう、足と刀を持つ両手に集中。

寒さや身体を持って行きそうな風や竜の鋭い眼を気にせず、ただ一撃を左目に与える。

刀は美しい斬線を描き、目の神経を絶った。

伊槻は斬れたのを確認すると身体強化をやめ、2度目の突風に乗って飛ぶ。


_______ブオオオォォォォ・・・


鼓膜が破れるほど大きく獄竜ヘルト・ドラゴンが鳴く。

同時に3度目の一番強く、極寒の風が獄竜ヘルト・ドラゴンを襲う。

それでも巨大な身体を持つ獄竜ヘルト・ドラゴンが飛ばされることはなかった。

見た目でわかるほど冷気も効いている様子はない。


_______ブオオオオオオオォォォォォォォォォ!


目の神経を絶たれた痛みからか、はたまた小さな食料である人間にやられる怒りからか。

潰された左目を血で赤黒く染め、残った鋭い右目を更に鋭くした。



「うわぁ・・・まいったねぇ」


獄竜ヘルト・ドラゴンの腹部を狙って跳躍しようと足を曲げたときに起きた異変にキースは跳躍をやめ、獄竜ヘルト・ドラゴンから離れて目の前の変化を見つめる。

無防備になると思われていた腹部が変化し始めていた。

だんだんと背中と同じように黒く硬くなっていく。

その中でもいくつかの鱗が鋭く変化していく。

背中や尻尾の鱗も変化し始め、顔の周りは鋭い鱗に大量に変化していく。

伊槻も風から降りてその変化を見た。

梓も見た。

迂闊に近づいて攻撃したら、返り討ちに遭いかねない。

だが、状況は絶望的になんか欠片もなっていない。

誰も怪我していないし、疲労もまだない。

まだ自由に動けるのだ。

変化が終わり、獄竜ヘルト・ドラゴンは空を飛んだ。


「キース!離れて!」


梓は即座に叫ぶと左手に白金の大きな弓を作り出す。

右手に矢を持ち、背にはたくさんの矢を入れた筒を背負っている。

弓と同時に作り出したその矢をしっかりと引く。

弓道はかじった程度の上に下手糞としか言いようがなかった。

的を狙っても力の無さでうまく飛ばなかったり、ずれたりするのが多かった。

だが、今は術の補助がある。

身体強化で引く力を増やして飛距離やスピードを上げることができるし、軌道修正も術できく。

迷い無く弓を作り出していた。

獄竜ヘルト・ドラゴンの身体に標準を定め、身体強化をした自分の限界まで引き絞る。

手を離す。

術を使わずとも矢は真っ直ぐに獄竜ヘルト・ドラゴンへと向かった。

矢が身体に刺さる直前、


「発動!」


梓の叫びに反応して矢は無数に分かれた。

1本の矢が10以上の小さな矢に分かれ、広範囲に広がる。

矢が鱗にぶつかると矢は爆発を起こした。

その間にも梓は動く獄竜ヘルト・ドラゴンの動きを予測して次の矢を放つ。

叫ぶ。

分かれる。

爆発。

放つ。

叫ぶ。

分かれる。

爆発。

放つ。

叫ぶ、分かれる。

爆発、放つ。

叫ぶ、分かれる、爆発、放つ。

ビュークと術の訓練でやった的当ての的より動きが遅い上に大きい。

狙いやすいためにだんだんとそのペースは上がり、竜の鱗を何枚も何枚も剥がれ落ちる。

獄竜ヘルト・ドラゴンが梓に向かって飛ぶが、梓は移動術で場所を移す。

見事なまでに梓は獄竜ヘルト・ドラゴンを翻弄させていた。


「アズちゃん・・・すげぇな」


身体強化をした伊槻の目に映るのは、詩音といつも一緒だった優しくてか弱い幼馴染ではなく、綺麗な長い髪を風になびかせて戦う一人の女戦士となっていた。

1ヶ月もしないうちに変わったこの姿に成長を感じながらも伊槻は獄竜ヘルト・ドラゴンへと走った。

梓が作り出した傷を狙う。

キースの考えも同じだった。


「ラディこっちぃ!」


伊槻とキースは合流して空を飛んでいる獄竜ヘルト・ドラゴンを地上から見上げて梓の作った傷の中から特に一番大きな傷を探す。

身体強化で視力を高め、集中して探す。

胸に当たる部分だろうか、伊槻の大きな手よりも大きな鱗がごっそりとなくなっているところがあった。

梓が標準として狙い続けていたところであり、爆心地に一番近いところであった。


「中まで一気にダメージを浸透させて潰すよぉ」


キースが嬉しそうに笑って言った。

矢は今だ飛んでいる。

だが、キースも伊槻もそれを止めさせる気はない。

梓も止める気はない。

伊槻が刀を両刃の大剣に作り変えて、獄竜ヘルト・ドラゴンを見た。

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