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非現実世界《ヴェルメン》  作者: Tries
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戦族の本性

扉を出てひたすら真っ直ぐ廊下を突き進む。

足を1歩進めるごとに音や声が大きくなっていく。

ただ真っ直ぐな廊下に分岐点が出てくる。

音や声のするほうへと曲がり、そしてまた突き進む。

やがて広い広い部屋へと出た。

入り口付近の大講堂だ。

彰達と同じ白ベースの戦闘衣に身を包んだ人たちと、黒い戦闘衣や銀に光る甲冑を着た人や暗い色のローブを着た人が戦っていた。

甲冑の人たちが剣や術を恐れずにぐいぐいと突き進んで正界レジスタンスの前衛の人たちを部屋の隅へ隅へと追いやっていく。

その後ろを戦闘衣の人たち____末端兵がローブの軍____術部隊を守るように並びながら足を進めていた。

術部隊は守られながらバシバシと術を使って正界レジスタンスの兵の数を減らしていく。

甲冑の軍の隙間をなんとかくぐり抜けた兵もいるが、術隊に向かって剣を振り上げることもできずに末端兵の集中攻撃にあって生命の火を消されていた。

防戦を強いられていた正界レジスタンスは不利な状況だった。

剣が甲冑や剣を叩く金属音、歩く靴音、術の発動音、術によって発生する風の音や、炎の燃え上がる音。それに混じって痛みによる絶叫、死に逝く仲間の名を必死に呼ぶ声も響く。

そんな中、突然耳を貫くかのような鋭い音がした。

キースがいつも背中に背負っていた大剣で甲冑の軍を斬った音だった。

おびただしい量の血に濡れた何十もの甲冑の兵は胸から腹の辺りで真っ二つに斬られていた。

味方のいない軍の中心部へと跳躍。

跳躍しながら剣をぎりぎりまで身体に引き寄せる。

そのまま兵と兵の間へと狙いを定めて、着地。

そして、力の限りなぎ払う。

もともとの戦族ソルの力の上にのせた強力な身体強化で振られた剣は、強大な力を持った斬撃をつくりだして刃の届かない離れたところにいた兵までもを斬った。

キースを中心に半径5mは死の空間が出来上がった。

その中心に立ったキースの顔は返り血を大量に浴び、狂喜の笑みで歪んでいた。

戦闘狂という異常な性格をもったキースの真の姿が現れた。

血のような真っ赤な髪に真っ赤な目。

赤い目が己についた赤い液体に気付く。


「ハハ・・・アハハッ・・・アハハハハハハハ!」


キースにはもう、感情を抑えることができなくなった。

痛みと苦しみの証が自分の肌に付く感触に死を感じ、

相手てきの警戒の構えに自分の危険を感じ、

周り(みかた)が呆然としながらおくる視線を感じ、

そして確かにあった手ごたえから自分の罪を感じ取る。

だが、後から後から湧いてくるのは興奮だった。

平和な普段の生活では感じない興奮に身体は震え、そして、口は自然と笑みの形をとる。

いつも主導権を握っている脳は心に支配され、心は閉ざしていた危険な感情の扉を開いた。


「さあ!!俺が満足のいく殺し合い(ゲーム)をしようじゃないか!!」


普段の口調を忘れ、普段の気持ちを忘れ、敵も味方も忘れ、キースは近づいた1体の兵に斬りかかる。

絶命したことに気付けばその呆気なさにつまらないと呟いてまた別に、そちらも絶命すればまた次と、キースは血に飢えた獣へと化してダズも正界レジスタンスも関係なしに襲い掛かった。


「やめろ!!」


海人はキースを止めようと走り出す。


「死ぬ気か、馬鹿野郎!」

「落ち着いてください!!」


彰と俊也がすかさず止める。

だが、正義の塊(ジャティ)である海人はそう簡単に止まろうとしない。

仕方なく彰が海人の腕を掴み、俊也が海人の前に回って押し倒す。

2人がかりで押さえつけたすぐわきを伊槻が走り出す。


戦族ソル戦族ソルに任せろ!!」


走りながら右手に剣を作り出して構える。

キースは伊槻に気付くと迷わず伊槻に剣を突き出した。

ギリギリのところで伊槻が避け、伊槻もキースの顔の横を狙って剣を突き出す。

キースは真っ直ぐと伊槻の顔を見据え、避ける。

伊槻の剣は避けきれなかったキースの頬を僅かに斬った。

血が頬を伝う。

伊槻はその紅を見て、何かが動いたのを感じた。

剣を持つ右手が自然とキースを斬るために動く。

キースは嬉しそうに笑って剣を引き寄せて伊槻の剣を受け止める。

伊槻はすぐに我に返って後ろへと飛んで距離をとる。

キースは剣を振り上げながら高速で距離を詰める。

伊槻は剣を両手で持って衝撃に備え、正面から剣を受ける。

両手に残る痺れに舌を巻きながらも伊槻はキースの剣を弾いた。

弾く際に切先がキースの腕に触れ、鮮血がキースの腕の動きによって散った。


___ドクンッ・・・・


鮮血が伊槻の視界の中心に入ったとき、伊槻の理性は失われた。

キースとは正反対の感情で、キースと同じ戦族ソルの暴走状態、狂戦士バーサーカーへと変わった。

キース同様に黒髪を赤に変えて。

何も言わず、無駄な動きもなくキースを峰で吹っ飛ばし、その後を追う。

眼に何の感情ものせず、無機質的な顔で伊槻はキースを狙って剣を振り下ろそうと腕を上げる。


「あー、死なれちゃ困るしなぁ・・・」


2人の戦いを呆然と無言で見ていた両軍だったが、誰かの呟きが部屋に響いた。

呟きの余韻が消える頃、2人は同時に倒れた。

何が起きたのか、一人を除く全ての者が理解できなかった。


「ここからが本当の殺し合い(ゲーム)・・・何人生きてられるかな?」


突然、彰達の目の前に詩音が現れた。

冷酷な眼で、残虐的な笑みを浮かべて・・・・

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