表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非現実世界《ヴェルメン》  作者: Tries
13/38

詩音の過去

長い廊下の突き当たりに8人は立っていた。

突き当りには頑丈そうな扉があり、キースはその扉を開けようと手をかける。

両開きのその扉を押そうとしたその瞬間、勢いよく扉が吹っ飛んだ。

キースはすぐさま吹っ飛んだ扉を背中の剣で真っ二つに斬った。

頑丈そうな鉄の扉を何の苦もなく斬った後、キースは部屋の中を見た。

キースの記憶が正しければだだっ広い部屋の中には大きな机と椅子が一つずつと、数えきれないほどの本棚と、本棚に入りきらなかった恐ろしいほど高く詰まれた本の塔がこちらも数えきれぬほどある。

本の塔は人一人が通れるスペースをあけながら等間隔で所狭しと作られている為に、だだっ広いこの部屋が狭く感じられるのだ。


「ビュークゥ、危ないよぉ!ってエエェ!?」


だが、部屋の中には本しかないのではないかというほど横幅も高さも大きな大きな本の山ができていた。

部屋のほぼ全てを本が陣取っている。

ビュークの姿も、梓の姿もない。


「た・・・助けて」

「ビューク!」


その本の山から手だけを出したビュークを皆で引っ張ったり、本をかき出したり、掘り出したりして救出する。

ビュークが本の山からなんとか抜け出すと、ビュークの服に摑まっていた梓も出てきた。


「ハァ、死ぬかと思ったわ」

「私も・・・」

「何でこんなになってるんだよ・・・」

「術の練習してたの」


梓もビュークに術の基礎を教えてもらい、ためしに風を操ってみた。

「風」というよりは「空気の流れ」を制御してみたのだが、思ったよりもすごく簡単にできてしまった梓は少し難しい「空気の密度」を変えて圧縮した空気をビュークの作り出した的に当てていた。

そのビュークの作り出した的という物が、1円玉と変わらない大きさだった。

空気を圧縮して打つということは梓にとって簡単で、密度を100倍まで上げることさえ容易くやってのけたのだが、射撃なんてやらない梓に精密な射撃はできず、何発かしか的に当たらなかった。

その外れた弾がいつ崩れてもおかしくない本の塔に命中してしまって崩落したのだろう。

崩落は崩落を呼び、全ての本の塔が崩れて一つになり、本の山ができた。


「一応外した弾は私の作り出した空気の壁で勢いを相殺したはずなんだけど。失敗、失敗、テヘッ」

「相殺とかの前に、こんなとこで術の練習をするのがおかしいことに気付けよ!」

「ビュークゥ、なんか気持ち悪いよぉ。本で頭でも打っちゃったのぉ?」


ビュークの発言に伊槻とキースが突っ込む。

その後ろではセルビアとセアンがぽかんと口を開けていた。

自由で呆れるほどの戦闘狂であるキースを正しい道へと導いていたビュークだ。

こんな一面を見せられてそうなってしまった2人だが、すぐに話を切り出した。


「ボス、祐志レノンの救出の件ですが・・・」

「知ってる。ある程度はキースとの同調で見てたから。多分そのときに気をとられて一部壁がもろくなったんだと思うわ。

イーフィ、話せるところだけでいいから正直に話しなさい」


ビュークは詩音を真っ直ぐに見つめた。

見つめながら術を使って本の山をかたしていく。

宙を舞う本の数が詩音に威圧感を与えるほど一気に増え、そして一瞬で片付いてしまった。

ふっと息をついた詩音は話し始めた。


「あんまりここにいると不味いから手短に話す。口出しは一切するな」


当たり前のように詩音は人間と思われているが、生まれが特殊な為に別の名がついている。

特殊生命体、アルスロッティ・・・固体名はアルセイディ。

特殊生命体アルスロッティを作り出すには死族デストの特殊能力である命の契約を利用しなければならない。

特殊生命体アルスロッティは親2人の能力を引き継ぎ、高確率で親とは違う能力、しかも天性の才能を持って生まれる。

詩音の場合、戦族ソルの能力を手に入れた。

この戦族ソルの能力のせいで詩音は物心ついてすぐダズに入れさせられ、自分と融合させられる相手を探さねばならなくなった。

父親と融合させられてしまった不幸の母は詩音に大量の魔力メイと知識を授けていた為に、巧妙に仕組まれていた父の嘘を見破ってダズから離れ、僅かな情報から正界レジスタンスへとやってきた。

僅か5歳の少女がダズに所属していたこと、そしてダズのボスの娘であることに驚き、哀れに思った当時のボスが自分でも手の届かない無力世界ヴェールへ逃げるように指示した。

詩音の持つ魔力メイはいとも簡単に詩音を無力世界ヴェールへと送り込み、同時にその世界で家族となる人を探し出し、詩音を実の子供だと思い込ませるように洗脳をかけた。

無意識のうちにしていた。

そう思っていた詩音だが、真実は違っていた。

ダズに全ての行動は筒抜けだった。

無力世界ヴェールから詩音はいつでも召喚で帰らせる事ができると踏んだ父が魔力世界デメイース正界レジスタンスの手に落ちるより安全だと考えて無力世界ヴェールでの安全を確保した。

それを知ったのは魔力世界デメイースに召喚されてからだ。

中学生を卒業した頃、魔力世界デメイースに召喚されて父と再会、全てをしっかりと聞かされ、そして自分はあちこち逃亡した。

魔力世界デメイースで父と再会し、ビュークとキースに出会った。

ビュークとキースと共にダズの追っ手から逃げ、地獄世界スカルアースに渡って何度も死にかけた。

ダズの幹部の一人、キャレに追われて地獄世界スカルアースから竜神世界ドルチェリへと飛び、そこから天空世界ヴォルメンを経て無力世界ヴェールへともどってきた。

天空世界ヴォルメン辺りからはキャレに追われることはなくなり、ホッとしたのも束の間、高校にはキャレの姿があった。

永沢時亜(高校生)として、詩音の前に現れた。

だが、何も起きなかった。

事が起きたのは召喚される前の日だった。

時亜キャレは詩音に話を持ちかけた。

「彰と共に魔力世界デメイースに戻れば無関係な幼馴染の命の保障はできる」

できれば承諾したかった。

無関係な幼馴染たちを巻き込みたくはないからだ。

だが、そのとき詩音は融合に利用されてしまう相手が彰だと気付いていた。

無関係ではない()の保障はできないということだ。

融合のベースは彰ではなく、自分が使われる。

それでは彰は100%死ぬ。

昔、自分の母がそうであったように。

詩音は時間が欲しいとその場を離れた。

そして次の日、いきなりに召喚をされてしまった。

抗議の為にダズへ向かったがそれが仇となった。

マーモの家にまだ皆が残っている。

刃向かうなら死しか残されていない。

そして、最悪なことに特殊生命体アルスロッティは他に1体いた。

今度は母の双子の妹を使って作り出した特殊生命体アルスロッティ__固体名アリュリーは父に忠実だった。

アリュリーは詩音そっくりだった。

キャレと共にアリュリーは祐志を捕らえ、キャレは洗脳をかけた。

祐志は人質兼強力な人材となってしまった。

ここまできてしまえば従うしかなくなってしまった。


「ということだ。彰以外を無力世界ヴェールに送り返すことも考えたけど、さすがに魔力メイがなくなる。そうなればアリュリーと彰の融合で結局意味がなくなるし、彰を他所に逃がしても結局同じだ」


フーッと息をついた詩音は扉へと向かった。


「じゃあ、帰るわ」

「詩音!!」


梓は帰ろうと扉に手をかけた詩音を呼び止めた。

詩音は手をかけたまま振り返る。


「一緒にいれないの?」


じっと梓は詩音を見つめる。

詩音は皆を守ろうとしている事がよく分かった。

だったら、嫌なところではなく皆と一緒にいればいいんじゃないか。

辛い気持ちもいつでも好きなときにいえるここにいれば。


「話を聞いてたのか梓?祐志の命はもう握られてるんだ。アリュリーは正直、自分以上だ。裏切り行為をすれば祐志だけじゃなくて自分も危なくなるんだ。そんな馬鹿馬鹿しいことするか」


詩音は扉を開けた。

扉を半分ほど開けた詩音は扉を開ける手を止めた。


「帰る前にやらなきゃいけない事があったでしょう、メレ」


扉の奥にはキャレが立っていた。

無表情で立っていたキャレを見て鳥肌が立った詩音だが、すぐに唇の端をあげて笑った。


「ここで出てくるとはな。作戦妨害でもする気か?」

「失礼、貴女が心配だったので」

「まぁいい・・・・ビューク!悪いが正界レジスタンスは徹底的に壊滅さしてもらう」


その言葉が合図かのように爆発音と警報音が耳を劈くかのように鳴り響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ