初魔術
正界の調査部隊の情報を頼りに祐志の連れて行かれたと思われるダズの基地へと徒歩で7人は進んでいた。
なぜ徒歩かというと、彰達は能力の使い方をほとんど分かっていないために教わる時間が必要だったからである。
早く行かないと祐志が洗脳とかされるかもしれないし、万が一ということもある。
理解したところからは術移動の予定だが、ビュークは梓の相手もしなければならない。
最上級の移動術を使えるのはビュークのみ。
王族のセルビアの移動術は二人ほどが限界、セアンは苦手分野でキースは短距離専用の単体移動術のみということで、魔族である俊也の才能開花を待つしかなかった。
「叩き込めるだけ叩き込みますわ」
セルビアは大量の情報を早口で話し始めた。
延々と続く情報を要約しながら理解していくのは俊也と海人だけで、彰と伊槻は俊也達の要約した説明を聞きなおしていた。
魔の力、魔力は血液と共に身体中を流れており、脳からの命令と流れる血によって魔力を変形させたり、エネルギーとして発動させることができる。
つまり、スピードを上げたい、雨を降らしたいと強く願うと自分の脚力を上げたり、雨を降らすことができる。
海人が詩音に会ったときに手に剣を出したのは、海人の中の正族の血と魔力、そして海人の強い正義の意志があったからだ。
魔力が変化する要素である血によって大きく2つに魔力は変化する。
戦族や正族が得意とする身体強化と魔族や技族が得意とする体外変化。
身体強化には脚力アップ等、自身の能力を上げることができ、体外変化は雨を降らす等、自分ではないものを作り出すことができる。
2つとも魔力の量が多いほどより強力に、大規模にすることができる。
魔力の量は精神力や生命力と関係していることはわかっているのだが、いまだ詳しいメカニズムはわかってはいない。
「完全に自分の命だけが頼りだからぁ、調子に乗ってバンバン使ったら駄目だからねぇ」
「魔力の循環を感じる事や魔力を一箇所に集中させると事は天才の血筋を持っている貴方達でもまだ無理だと思いますわ。慣れてくれば上級魔術もできてくるでしょうし」
にっこりとキースとセルビアが笑った。
目の前にいる天才の切り開く未来を、天才達自身の未来を期待した笑みはとても優しかった。
「ちょっと試してみますか?」
「そうだね、ぶっつけ本番も不安だし」
「あっ、俺も!」
「なにをやろうかな・・・」
俊也は目を閉じて両手を胸の前で合わせ、精神統一を始めた。
海人が逆に目をいっぱいに開けて両手を広げる。
伊槻が銃を構えるまねをする。
彰は左手で顎を触りながら少しの間考えると両手をだらりと下げた。
「合成魔術・凍嵐雷」
「上級魔術・火炎河」
「印・無限狙撃」
「秘術・宇宙遊飛」
自然と自分の口から術名が飛び出す。
同時に4人や4人の周りで変化が起きた。
俊也の髪が淡く綺麗な紫色に、伊槻の髪が眼の色と同じように真っ赤に染まった。
俊也の魔族の覚醒が始まり、伊槻の戦族の覚醒が完全なものとなったのである。
海人の周りを炎が大河のように広がり、辺りの良いとも悪いとも言えない微妙な天気が凍えるような寒さと雷を伴う激しい嵐の天気へと一変した。
海人の思うように炎の河は流れ、強弱までもが自由自在に変化した。
俊也は氷と光の術を混ぜ、悪天候をこの地域一帯に実現させた。
並の魔族ではとても真似出来ない術を俊也はいとも簡単にやり遂げ、今もなお維持し続けている。
伊槻の手には鈍く光る漆黒の拳銃が握られていた。
拳銃の側面には∞《無限》の記号が紋章化したものが描かれており、紋章は金色に光っていた。
体外変化の使えない戦族では異例である体外変化を使い、その中でも難しい『印』を伊槻は成功させた。
その隣で彰は重力に完全に逆らっていた。
無重力空間にいるかのように彰は1分以上も宙に浮いていた。
王族の持つ莫大な魔力によって成功させたのである。
だが、一つ問題があった。
セルビアは彰の身体から使いきれずに滲み出ている魔力の量を見て、極めて危険と判断した。
「お兄様!術を止めて!」
彰は術を止めて着地する。
足に力が入らずに彰はそのまま前に倒れた。
大丈夫かと海人が呟きながらも起こしてやるが、なかなか起き上がることができない。
「お兄様、魔力が多すぎて制御ができていないわ・・・」
彰が使った術はセルビアも使ったことがあった。
正直、30秒も維持できなかった。
それを彰は1分以上も維持しながら、術の維持に使う魔力の倍以上の量を体外へと出していた。
使い切れない魔力が体外へと出る際に僅かながらに身体を壊している。
生命を維持するためのエネルギーだが、体外へと出れば破壊のエネルギーとなる。
大量を超える量の魔力を出し続ければ自分の命を削り切る前に身体が壊れてしまう。
「うぅ~・・・しかたないねぇ。本当に危険なときだけ術は使っていいよぉ」
キースが困ったように頬を掻きながら言った。
ここまでの才能をこんなにも早く開花させるとは思わなかったのである。
「よかったのら~♪首の傷が思った以上に魔力を身体を傷つけずに放出しといてくれてるのら~♪脳のダメージが一番怖いし、首は唯一の脳への魔力の供給ラインだったから、傷があってよかったのら~♪」
彰は昨日の事を思い出して首に手をあてた。
そんなに大きな傷ではない。
それに、血はもうとっくに止まっていた。
「あら?セアン。あの傷には術がかかっていることがわかりません?魔力を吸収する封印術が」
「ん~・・・そう言われて見ればそうかもしれないのら~♪誰にかけてもらったのら~?・・・」
「あっ、昨日フィーが・・・」
「そういえばなんかやっていましたね」
「ふ~ん、詩音が・・・」
「まさか知ってたのか?彰が魔力を制御できずに身体壊すほど放出するって・・・」
「それはないよ。昨日は術なんか使ってない」
__フフッ
7人があーだこーだと話していると、不意に忍び笑いが聞こえた。