セルビアとセアン
ビュークに怒鳴られた後、5人はある程度身だしなみを整えて部屋を出た。
洞窟の奥の更に奥には巨大な基地があった。
その中のキースの個室に彰・海人・伊槻・俊也が、ビュークの個室に梓が仮眠を取るためにいた。
即行で寝ていたキースと彰、静かだった部屋にいたビュークと梓以外は大して寝れてはいなかったのだが、朝の様子では、思ったより疲労はないようである。
無力世界では日をまたぐまで起きていたり徹夜で話していたりとしていたためだろう。
彰達6人を基地の中心部へとキースとビュークは連れて行く。
重そうな鉄の扉の前に立つと、キースはその扉を押した。
ゆっくりと扉は開き、扉の向こうが露わになる。
扉の向こうには10~20人位の人と空席の目立つたくさんの椅子とテーブルがあった。
「改めてようこそ。私たちの組織、正界へ」
「ビュークは正界のボスでぇ、俺は作戦実行部隊の隊員なんだぁ」
「キース・・・あなたは特別作戦実行部隊の隊長でしょ」
「あははぁ、そうだっけぇ?」
ビュークは前を進むキースの馬鹿っぷりに頭が痛くなった。
「でも、隊員はほとんど出払ってて部隊として出たことは1回もないから仕方がないですわ」
「たしかにそうなのら~♪・・・僕もキースの部隊だけど、出たことないのら~♪」
銀髪の女の子と、明るい緑の髪の男が笑いながらキースの肩に手を置いた。
「私はセルビア・クラウですわ。よろしくお願いします、ゼノお兄様」
「僕はセアン・ジャティなのら~♪エース君、会えて嬉しいのら~♪」
特徴的な口調でセルビアは彰に、セアンは海人に笑いかけた。
セルビアはさらさらの銀髪を耳の下で緩く結い、薄紫のシンプルなワンピースを着ていた。
銀髪の下から覗く大きな瞳は紫水晶のように綺麗に透き通っていた。
中学生くらいの幼い顔はとても可愛らしい。
梓に負けず劣らずの容姿をもった彼女は小柄な梓とさほど変わらぬ背丈だったが、身体の発育はその身体には似合わぬほどに育っていた。
そんなセルビアが彰に対して「お兄様」と言った。
「お・・・お兄様?」
急に妹宣言をされて、納得できるほうがおかしい。
納得するのは、ロリコンでシスコンの俊也位だろう。
今も「後数年したらメグちゃんも・・・」と一人で自分の世界へと入ってしまっている。
そんな俊也は放っておこう。
彰は梓に負けないくらいの容姿を持った女の子のいきなりの妹宣言に混乱していた。
「そうですわ。私のお兄様はゼノリー・クラウ一人だけなんですの。私とお兄様のお母様はシリス・クラウ、お父様はアルト・クラウといいますわ」
「えぇ、でも・・・」
「お兄様はお母様と顔つきがそっくりですわ。お母様はすごく自由奔放な方でしたから、お兄様もそうなのでは?ちなみに童顔は私と同じですわ。一応、私はお兄様とは一つしか違いがないんですのよ」
「・・・そうですか」
童顔の言葉が彰の心に刺さった。
その彰の後ろで必死に笑いをこらえる伊槻と俊也をセルビアが見比べた。
「随分とチビの癖に老け顔ですわ・・・おいくつですか?」
「18です・・・」
綺麗な薔薇には棘があるとはこの事だと俊也は痛感した。
女性相手にはめったにキレない俊也だが、お嬢様風のセルビアの発言に危うくキレかけた。
だが、セルビアはそんなことにまったく気付くことなく梓へと歩み寄った。
「貧乳」
何の前触れもなくハッキリと言ったセルビアに梓は開き直ったかのような笑顔を見せつけた。
「えぇ、そうですよ。でも、そこまで大きいと邪魔でしょう?それに、胸は脂肪の塊ってご存知?」
黒々としたオーラを出して梓はセルビアへと言い返す。
そんな梓を見て海人は思った。
こうな切り返しができるのは絶対詩音の影響だと。
無垢な梓を帰してくれと嘆きながらも、気に食わなかったセルビアに梓が言い返しができた事をよかったと思う。
「ビュークはこの子の席を外さして欲しいのら~♪」
「ちょっと待って!」
「これ以上喧嘩はさせないわ」
セアンは一触即発な状態の2人の間に入るとビュークに梓を引き渡した。
「知り合って早々喧嘩しちゃだめなのら~♪お兄さんの好きな人だからって敵対心を剥き出しにしたらお兄さんにも嫌われちゃうのら~♪」
セアンは青髪に碧眼の青年だった。
やや癖のある髪なのか、ただ普段髪を整えることをしていないだけのか、ぼさぼさの髪の下の楽しそうに歪められた目は一発で彰の心を読みとり、躊躇なくそれをバラした。
「ンナァッ!!」
「おぉ、当たってる」
彰が顔を真っ赤にし、その後ろで海人が拍手した。
そんな2人をクスクスと笑いながら他の人たちの心をも読んでいく。
「エース君と魔族の君もあの万族の可愛い子が大好きなようなのら~♪戦族の君はここにはいない子が大好きらしいのら~♪僕は会った事ないけどとっても強気で怖いって噂の子なのら~♪僕はとてもじゃないけど近づきたくないのら~♪」
「梓のどこがいいのかしら?」
「セアン!サクッとバラすなぁ!」
「な・・・何を言ってるんですか。ぼくはアズちゃんをお・・・幼馴染としか見てませんよ!」
「動揺してたら説得力ないよ、俊也」
隠せないと思った伊槻はいつものように突っ込みを入れ、俊也は動揺しながらも否定した。
海人だけがいたって冷静だった。
「なぁ伊槻。お前ってM?」
「いや、あっちが超ドSなだけだ・・・って、何言わせてるんだよ!」
「志乃ちゃんじゃないんだ」
「死んでも言わないからな!」
「言ーえ、言ーえ、言ーえ、言ーえ、言ーえ」
「うるせぇよ!!」
「はいストップなのら~♪これから技族の男の子助けに行くから用意するのら~♪」
賑やかだった4人が一斉に言葉を止めた。
楽しく賑やかだった空気と4人の顔が一瞬で引き締まると、セアンは部屋の一番奥へと移動した。
キースもその後を追い、結果7人が部屋の隅へと集まった。
「そういえばアズちゃんにも話さなくていいのか?」
「うん、ビュークは多分後からくると思うけど万族の娘はちょっと連れていけないのら~♪」
「万族の能力は惜しいけどぉ」
キースは担いでいた大剣を抜いた。
刀身が鏡となって自分を映し、自分を見つめた。
「ダズの幹部に洗脳術を持ってる奴がいるから結構危険なんだぁ。今のミュースは支えの一部だったフィーがいない、しかもダズとして敵にいるってことで精神不安定だと思うんだぁ。簡単に敵になって全滅させられる可能性もあるしぃ・・・誰でもその可能性はあるけどねぇ。俺でもビュークでもなるかもしれないしねぇ」
自分の支えとなっていたものを一部失った梓を連れて行くことはあまりにも危険であることを諭す。
諭しながらその危険が自分に降りかかるかもしれないと、キースは自分の支えとなっている剣と2人の人物を思い出す。
3つのうちどれが壊れても自分は狂うだろう。
きっと、この中の誰よりも。
「さっき言ったとおり万族の娘の事を想うなら支えとなってるはずなのら~♪不利になったら正界の組織壊滅ってのもありうるのら~♪」
梓を想う人が多いこのグループで梓を連れて行き、そして敵となった場合は精神的にキツイ。
その上梓と同じ状況になって集団洗脳にかかれば一気に正界の戦力は落ち、逆にダズの戦力は上がってしまう。
「行きたくないなら行かなくていいですわ。ただ、助けられる可能性は低くなりますわね。」
セルビアの選択肢を彰達は躊躇いもなく決めた。
「行くに決まってるだろ!!」
「いい返事なのら~♪」
それからしばらくして7人は正界の基地を出た。
白ベースの戦闘衣に身を包んで__