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55.魔塔主代理

「ではまず、依頼人が無実である一つ目の証拠の証拠として魔法陣の解析結果を提出いたします」


 顧問法理士の宣言と共に裁判官と審問官に配られたのは、審問官が提出したものとは違い完璧に魔法陣を解析した書類。当然ながら魔法陣を生み出したイノセントが記載しているからこそ出来る芸当だが、そうとは知らない審問官がその完璧さに対して「魔塔ですら分からなかったのだからでっち上げだ」と騒ぎ始めた。ナディアも法理士もその反論は想定内だったので、解析結果に関する証人として、イノセントの召喚を申請した。


 ヴェスペリオン同様法廷では真実のみを話すという宣言が終わったあと、法理士が静かにイノセントへと質問を投げかけた。


「証人、自己紹介をお願い出来ますか」


「はい。イノセント・ド・ラ・トゥール。魔塔主です」


「異議あり! 証人は身分を詐称しています! 現魔塔主はレイモンド氏のはずだ!」


 まだ自己紹介の段階だというのに激昂する審問官。全く、本当にせわしない人物だ。


「審問官の異議にも一理ある。証人は今の発言に嘘偽りがないと誓えるのか」


 裁判官が威厳たっぷりに——既にそんなものはない訳だが——イノセントに問いかけるが、イノセントはにこやかな表情で「はい、誓えます」と頷いた。


「我々魔塔の人間は、必ず魔塔所属である証しを身体の一部に宿します。私はここ……胸元にあります」


 と、シャツのボタンをいくつか外し、裁判官と審問官に向けてさらけ出すイノセント。審問官はイノセントの近くにより、じっくりと観察していたがやがて「これは偽物です、レイモンド氏とは印が違う!」と言い放った。


「そう言うと思いましたよ。でしたら現魔塔主のはずのレイモンド氏をお呼びになったらどうですか」


「言われなくてもそうするつもりです! 貴方はすぐに身分詐称の罪に問われる事になるでしょう、後悔しても知りませんよ!」審問官が魔塔側に連絡を取ろうとすると、傍聴人席に居たらしいレイモンドがすっと立ち上がり「ここに居ます」と名乗り出た。魔法陣の解析に協力したので気になって傍聴していたらしい。


「では自己紹介をお願いします」という法理士の言葉に対し、レイモンドはちらりとイノセントの方に視線を向けた。軽く頷くイノセントに対し、レイモンドはホッとしたような表情で自己紹介をし始めた。


「レイモンド・ド・ラ・トゥール、魔塔主代理です」


「だ、代理……!?」と審問官はわなわなと声を震わせながら「そんな話は一度もしていなかったではないですか!」と続けた。


「ええ、代理である旨はそこに居るイノセント様が認めた時にしか話す事が出来ません。そういう契約ですから」


「魔法陣の解析依頼時に貴方は魔塔主を名乗っていましたよね。これは立派な身分詐称に当たります。神聖な法廷を侮辱している!」


 審問官の責めるような口調に、レイモンドはきょとんとした表情で「ですから今正式に代理である事を認めましたよね。法廷では嘘はついていませんよ? 魔法陣の解析結果を偽証した訳でもないのですから、魔塔の中で魔塔主を名乗ろうが魔塔主代理を名乗ろうが、それは魔塔の規則内の話ですからあまり関係ないのではありませんか?」と告げた。


「差し支えなければ、イノセントさんとレイモンドさんの関係性についてご説明いただけますか。私の記憶ではアルタニス帝国の公式書類にも現魔塔主名はレイモンド・ド・ラ・トゥール氏と記録されている認識なのですが」


 終始声を荒げる審問官とは対照的に、法理士は淡々と質問を続けている。真相の究明——傍聴人席の人々にとってはただのゴシップだろうが——に法理士が貢献している一方で、先ほどから騒ぐばかりで妨害としか思えない審問官の態度に、傍聴人席も鬱陶しげな表情で審問官の方を見ている。


「まず……我ら魔塔の主は数百年前から変わらずイノセント様です。代々の魔塔主代理はイノセント様からその事実を聞き、対外的には魔塔主として振る舞う事を条件に代理になります。魔塔主の胸元の印が私と違うのは、年代によって印の種類が違うというだけです。ちなみにアルタニス帝国側に正式な届け出をしていないのは、我々がアルタニス帝国に属していないからです」


「なにを馬鹿な事を……帝国の敷地内にあると言うのに属していないはずがない」


「それは帝国が何百年もかけて領土を拡大したからでしょう。我々魔塔は外部起因で自分達が移動するのを快く思っていないだけです。あとで皇城にある書類でも探してみてください、魔塔は帝国領内にありながら外国扱いになっているはずですから。事実、税金諸々帝国民が払うべきものを我々は払っていませんし」


 レイモンドとイノセント曰く、アステリオン王国時代に王国の魔術師が結成した組織であり、結成当初は王国領土だったらしいが、所属する魔術師の能力が高くなるにつれ、無理難題を言う王国からの独立を宣言したのだと言う。今では諸外国から魔塔入りする者も増え、多国籍機関となりつつあるらしい。


 よくよく考えてみれば、イノセントから聞いた話では数百年前にナディアが起こした魔力暴走の規模を見て、王国側は最初魔塔に加入させろと要請したのだ。ところが魔塔はすげなく断っている。そこからも魔塔と王国の力関係が分かるというものだ。

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