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53.ヴェスペリオンによる証言

「証人、まずはお名前を教えていただけますか? それから誓いをお願いします」


「トワイライト公爵家、ヴェスペリオン・エルデン・グローミングと申します。私は法廷において、真実を語る義務を理解した上で従う事を誓います。私の証言は私の知る限り、正確なものであり、いかなる虚偽や誇張も加えません」


「ありがとうございます。それではグローミング卿、事件当日……つまり昨日、貴方はどこでなにをしておりましたか?」


 審問官側の問いかけに、ヴェスペリオンは一つ一つ丁寧に答えていく。


「被告人を、監視していました」


「何故監視をしていたのでしょうか?」


「本日の裁判前に一時的に裁判所所有の牢に拘束すると聞き、私が監視役を買って出たからです」


「被告人を拘束するという話は誰から聞きましたか?」


「叔母のセレナ・ジャスティナ・オーレリアン皇太后陛下です」


 ざわり、と傍聴人席でざわめきが起こる。異常なまでに審問官側に有利に進んでいる裁判に、皇太后陛下が関わっている可能性が示唆され、混乱半分、納得半分といったようだ。


「では、事件当日貴方が見聞きした事を教えていただけますか」


「はい。私は、被告人が人を害すところを目撃しました」


 審問官が完璧だと言わんばかりの満面の笑みで頷いた。計画通りに事が進んでいる……、そう思っているのだろう。伝説、創作物など証拠と呼ぶには弱すぎたそれらが今、ヴェスペリオンの証言によって具体的な物語を描き始めたのを肌で感じた。「この女は悪しき魔女だ」。一斉にナディアへと向けられた傍聴人達の視線が、はっきりとそう告げているのだ。


「なるほど、被告人が人を……。それは何人くらいでしたか?」


「私が知る限りでは……三人です。もしかしたらそれ以上かもしれませんが、分かりません」


「差し支えなければ、状況を詳しく説明していただけますか?」


「驚くべき事に、被告人は魔術を使っていました。一人は氷漬けに。一人は眉間に石のような物体を、ガツン、と。そして最後の一人は……突然苦しみだし、倒れました」


「なんと! 魔女の呪いというのは本当だったのか?」などという声が傍聴人席から聞こえてくる。


「ありがとうございます。ところで、被告人は魔女と呼ばれる人物です。魔術を使用したからといって特に驚きはないかと思いますが……?」


「監視役として立ち会う際、前任の者から魔力拘束具をつけているから安心して良いと説明を受けました。被告人の腕に魔力拘束具がついているのは私もこの目で確認したのです。……ですが、被告人は魔術を使いました。私も六大公爵家の人間、魔術に関してはそれなりに詳しいと自負をしております。その私が見るに……あの魔力拘束具は最新技術を用いて作成したものであり、魔塔の魔術師の力も完全に封じ込める事が出来るものです。それをつけてもなお、魔術を使えた事に私は驚いたのです」


「なるほど、被告人が手首だけでなく足首にまで魔力拘束具をつけていた理由に合点がいきました。お話を聞く限りでは被告人は一方的に攻撃をしており、被害者は抵抗する間もなく殺されたように思われますが、間違いないでしょうか?」


「はい、一瞬でした」


「分かりました。……お聞きの通り、被告人は今なお全く反省しておらず、その上魔術師最高峰と言われる魔塔の魔術師以上の力を持っている事が証明されました。大変危険な人物という事です。……さて、その上でこのような質問をするのは心苦しいのですが……グローミング卿はその様子を見て、被告人を止めようとはしなかったのでしょうか?」


「……何故止める必要があるのでしょうか? 被告人は暗殺者から自分の身を守っただけです」


 まるで言っている意味が分からない、そう言いたげな表情でヴェスペリオンは、そう言った。


「な……」


 審問官は口を閉じるという行為を忘れてしまったようだった。完全に味方だと思って居たヴェスペリオンが突然裏切るような発言をした事が信じられないのだろう。もう一度聞き直すべきか、それとも何事もなかったかのように話を逸らすべきか……頭の中で必死に考えているのかもしれない。


 審問官がなにかを言うよりも前に、ヴェスペリオンが再び口を開いた事でその機会は永遠に失われた。


「最初はなにが起こったのか、私には分かりませんでした。被告人……いえ、ナディアさんが首を動かした途端、床が爆ぜたんです。……よくよく目を凝らしてみると、それは矢でした。それからすぐ、二撃、三撃と立て続けに矢が射られました。牢の外、小窓越しに射ていたようなので、素人ではないと思います。ナディアさんが易々と避けるので痺れを切らしたのか、或いは元々そういう手筈だったのかは分かりませんが、とにかく今度は三人の男性が階段を降りて牢へとやってきました。そしてナディアさんは、先ほど説明した通りの方法で彼らを倒しました。……ああ、ナディアさんは牢から一歩も出ていないですし、襲いかかった彼らも死んでいません。これが私がナディアさんを監視した結果、見聞きした情報全てです」


「あり得ない……」


 ぶつぶつと呟く審問官の姿に、ナディアはようやく状況が一転した事を実感した。ヴェスペリオンがこちら側である事は牢屋での出来事で確信していたとはいえ、正直なところ今の今まで生きた心地がしなかったのだ。


(さて……残るは法理士による反対弁論か)


 ここからが本当の勝負だ。……そう思った瞬間、咳払いが法廷に響いた。


「被告人が民間人を負傷させた事は事実であり、また、魔力拘束具を無効化出来る事は、帝国の安全に対する重大な脅威であると判断する。よって、本裁判所は、被告人を『帝国脅威レベル五』の危険人物に指定し、有罪とする」


「あり得ない……!」


 今度は顧問法理士が呟く番だった。

一難去ってまた一難、です

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