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52.茶番

 審問官自身が冒頭陳述で発言した通り当時の資料が見つからなかった為、どうやら現代でも入手出来る情報からナディアの罪状を推測し、印象を悪化させる作戦に出たようだ。


 魔塔全面協力による永劫の森の魔法陣の解析結果もその一つという訳だ。審問官は解析結果を読み上げ、ナディアが如何に重罪人だったのかを裁判官や傍聴人に訴えかけている。


「——と、なにぶん数百年前に作られた物ですから禁術として失われてしまった情報も多く、全面解析には至りませんでした。しかしながら、かなり大がかりな魔法陣であり、最高位の魔術師複数人がかりで作り上げた形跡がある事、また、その維持には膨大な魔力が必要であり、且つその供給元として被告人が指定されている事、指定された人物は己の意思に関係なく日夜自動的に魔力を魔法陣に奪われ魔力枯渇状態になる事、そして魔法陣を維持する者は森から出られない設計になっている事が読み取れました。

 以上の事から、当時の人々が被告人に苦痛を与えながら拘束しようとしていた事が分かります。……では、そこまでしたかった理由とは? ……それはひとえに、被告人が重罪人だからに他なりません。……以上です」


「第一の証拠について、法理士側に反論の機会を与える。ただし時間が限られている関係上、魔法陣に直接関連する内容のみとする」


「発言前から内容を絞られるなど……前代未聞です。閣下の言う通り、どうやら裁判官も向こう側(・・・・)のようですね」


 ナディアにのみ聞こえる声量で顧問法理士が呟いた。道理で「当時の証拠がない」などと不利な発言をするはずだ。裁判官が味方な以上、結果は一目瞭然だと考えているのだろう。


「まず……後ほどこちらからも魔法陣の内容については提示する予定ですが、解析結果について異議はありません。ただしその後の憶測に関しては一切根拠がなく、同意は出来かねます。依頼人が膨大な魔力を有している事に気付いた者が、森に設置する為の魔法陣に彼女を利用したという可能性も十分あり得ます。その場合、依頼人は重罪人どころか人柱、つまりは被害者です。執拗に依頼人を苦しめ、拘束しようと作られた魔法陣の作りからして、そう受け取れるのではないですか?」


「法理士は依頼人を弁護するのが職務であり、その意味では君は立派に役目を務めている……が、裁判とは事実のみを取り扱い、物事を客観的に見る必要がある。根拠のない憶測は控えるように」


 審問官側の憶測に基づく発言には意見せず、あくまでこちら側にのみ注意をする。裁判官によるあからさまな肩入れに傍聴人席もざわついた。今の流れではっきりとこの裁判の趣旨を理解しただろうけど、悪名高い魔女の為に身体を張って裁判官に意見する者が居るはずもなく。案の定、「静粛に」という裁判官の一声でざわめきは即座に霧散した。


(セレスティンやイノセントが用意してくれた証拠は完璧だと思ったけど……、覆せない可能性も高いね。イノセントを証人として召喚しても、当時の魔術師である証拠がない、と一蹴されそうだし)


「審問官は次の証拠を提出せよ」


「はい。続いてはアルタニス帝国内に広がる被告人についての民間伝承です——」


 曰く、ナディアが村一つを攻め滅ぼしたせいで地図上から消失しただとか、突然の流行病——恐らくファントム・マレーズ病の事を指している——はナディアによる呪いだとか、夜遅くに出歩く子供達はナディアの魔術で森に誘われ、そのまま実験に利用されるなど。


 魔力暴走による死傷事件など、元になった出来事がある以上完全なでたらめとは言えない。けれど決して事実を正確に表してもいない。夜に出歩く子供を連れ去る云々など明らかに子供を教育する為の作り話なのに、「民間伝承は時代を経る毎に変化するものであり、証拠として取り上げるには根拠に欠ける」との反論は裁判官によって意図的に無視された。


 次から次へと提示される根拠のない証拠に法理士が反論するも、裁判官はあくまで審問官の肩を持つ。もはや茶番としか思えない流れに、審問官は満足げな表情で発言を続けていく。


「——このように、まだ年若いエバーナイト公爵が突然孤児院で跡継ぎを探すという行動そのものが不自然極まりなく、なんらかの手段を持って被告人が公爵の行動を操ったと考えております。また、それを裏付けるような発言も公爵城の使用人から聞き及んでおり——」


 そうして召喚された使用人は以前から度々勤務態度が問題視されていた下男で、ナディアが紹介状なしに追い出した者だった。本人曰く「自身の罪が明るみになる事を恐れ、セレスティンが屋敷の管理をナディアに委ねたのをきっかけに不当解雇をされた」らしいが事実とは全く異なる。しかしそれを証明出来る者は今この場にナディア以外居らず、当然の如くナディアの反論は信憑性に欠けるとして却下された。


 法理士も「屋敷に事実確認を」と応戦してくれたが、「審理は今日中に決着を付ける為公爵城への確認は棄却する」の一点張り。「であれば事実が確認出来ない事を理由に下男の証言も棄却するべき」との追加の嘆願も、なんだかんだと理由を付けられ認められず仕舞いだった。


「以上の証拠から明らかなように、被告人ナディアは魔術を用いて村を滅ぼし、無辜の民を殺害した容疑で罪に問われたと断言します。更に数百年の刑罰を経てなお反省の色はなく、それどころか今度は権力を得る為に不当な手段でエバーナイト公爵を従わせたのは明らかです。また、昨夜の民間人死傷事件からも被告人の凶暴性が立証されています。……裁判官、被告人の罪状をより明確にする為、審問官側より最後の証拠として、事件当時被告人を監視していた者の召喚を申請します」


「審問官側の申請を認める。事件当時被告人を監視していた者を直ちに証人として召喚せよ」

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