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49.裁判所からの通達

 皇女一行を牽制しながら公爵代理として慣れない仕事をこなすうち、気付けば裁判が二日後に迫っていた。


 本来であれば当日セレスティンと共に裁判所に向かう手筈になっていたけれど、ここに来て裁判所から「前入りしろ」との連絡が届いた。曰く、元々ナディアが公爵城で自由に過ごせていたのはセレスティンが監視役として名乗りを上げていたから。そのセレスティが意識不明の今、逃亡の恐れがないよう皇都の牢に収容する、との事だった。


「ばかばかしい……。ナディア様が本気になれば閣下でもどうにも出来ないのでしょうし、監視は形式的なものでしかない。それに閣下がお倒れになったのはだいぶ前の話、その理論なら閣下が倒れた当日に拘束すべきでしょう」


 そう怒りを露わに吐き捨てたのはバーナード。彼の言う通り、今このタイミングでというのは妙だ。


「んー……、いつまで経っても皇女が公爵城を掌握出来ない事に痺れを切らした皇太后の指示かな。でも今更感が否めない……。皇女が上手くやってると思ってた? それとも曲がりなりにも私が公爵代理として正式な委任状を持っていたからか……いや、皇太后の性格上あり得ないか」


 皇女を軟禁して以来、外部との連絡の類いは全てこちらで握りつぶしている。皇太后にはこちらの様子が伝わっていないはずだ。とはいえ皇太后の指示は早い印象がある。事実、セレスティンが倒れた翌日に第二皇女を送り込んできたほどだ。状況が掴めないからといって手をこまねくような性格ではなさそうだし、公爵の仕事が停滞する事へのリスクに関心があるとも思えない。


 そんなナディアの疑問に、バーナードが「もしかしたら」と一つの可能性を口にした。


「皇帝陛下が閣下の味方として介入したのかもしれませんね、公爵の仕事が停滞するリスクを把握しているでしょうし。ですが日和見主義が早々変わるとは思えませんから……全ての要求を突っぱねる事が出来ず、折衷案として裁判の直前には拘束を……という話になった可能性は否めません」


「問題は……十中八九ナディアを消そうとしてる事だよね。ナディアが罪人じゃないという証拠を僕らが集めるのに苦労したのと同様、あっちも苦労したはずだ。裁判の結果がどっちに転ぶか分からないなら、いっそその前にナディアを消した方が早い、って考えたんだろう。向こうにはナディアがまだ罪人という名分があるから、魔力拘束具の着用は免れない。魔術さえ無効化すれば楽勝ーとか思ってるんだろうなあ」


「皇太后は私を森に戻す事にこだわりはなさそうだしね……下手に森で生きられるより死んでくれた方が今後の為、くらいに思ってるだろうさ」


 まあ皇太后にとってナディアは、いきなり現れた上にセレスティンに婚約破棄の口実を与えたこの上なく目障りな相手だ、恨まれるのは仕方がない。けどナディアもセレスティンと約束した手前「はい、そうですか」とやられる訳にはいかないし、婚約を押し通す理由が私利私欲で皇帝を引きずり下ろす為となれば賛同のしようがない。


 使用人の第二皇女への対応についても、皇太后が知らないはずがない。実の親に捨てられたナディアとしては、まるで自分の子は第一皇女だけだと言わんばかりの彼女の態度には思う事がある。いや、正直言って腸が煮えくりかえっている。もはやセレスティンの為なのか、自分の都合で皇太后の企みを潰したいのか微妙なほどだ。


「とりあえず……魔力拘束具を付けられたら魔術は使えないだろうし……どうしたものかな」


「心配しなくても魔力拘束具なんてナディアには大して効かないと思うよ? まあ僕もこっそりついてくつもりだから、どっちにせよ関係ないけど」


「……魔力拘束具が効かない? 何故?」


「ナディア、数百年前に魔塔で使われたレベルの物を想定してるでしょ? 言っとくけどあれの製造技術はとっくに|失われ≪ロストし≫てるからね? 今の技術でも魔塔所属の魔術師は拘束出来る。だけどそもそも魔塔の魔術師と僕達の魔力量じゃ二倍くらいの差がある。前提条件が違うんだよ。魔術素人の皇太后じゃ、ロストした拘束具の存在なんて知らないだろうし……というか知ってるのは僕だけだろうし。だから語り継がれてるナディアの力についても眉唾物で、実際は魔塔の魔術師と同等、くらいに思ってるよきっと。閣下を監視役にというのも、案外あっちは本気でそう思ってる可能性が高い」


 いつものように軽い口調で、とんでもない事を言うイノセント。その上ついでのように「そもそも森に魔女が住んでるって事自体作り話だと思ってる人も居るし?」と付け加えるものだから、ナディアは思わずバーナードの方を窺ってしまった。


「ああ……私達の領地は森と隣接してますから、森に住む方の存在はしっかりと認識しておりました。ですが皇都を挟んで反対側の地域辺りでは確かに作り話と思われていてもおかしくないでしょうね。人一人の力で森に結界を張るなど、それこそ今の技術ではあり得ない事ですから。昔より今の方が様々な研究が進み、生活の質も大きく向上しています。それなのに一部の技術は昔の方が優れていた、なんて言われても、にわかには信じられないでしょう」


「確かに……」


「かくいう私も、実際にナディア様を見るまでは『森に誰かが住んでいる』程度の認識しかなかったのです。実際にお会いして、赤子の姿でありながら意思の疎通を図り、ある日突然七歳程度の子供の姿になったからこそ凄いお方なのだと察しただけで」


「ね? ほら、閣下の側近ですらこの程度の認識なんだ、世間知らずの皇太后陛下の認識なんてたかが知れてるだろう? だから魔力の拘束に関しては心配しなくても良いとは思うけど……問題は向こうの攻撃をどう防ぐか、だよね。返り討ちにしたら『突然暴れて民間人を傷つけた』とか新たな罪をでっち上げられそうだ」


「過去の罪が帳消しになっても新たな罪で罪人扱いされるって事か。だけど黙ってたら殺されるし……面倒臭いな」


「では……嘘偽りなくなにがあったかを証言してくださり、且つその発言が軽んじられない身分の方にナディアお嬢様の側に居てもらう必要がありますね」


「皇太后の手の者でも追い出せない地位となると……まさか皇帝に寝ずの番をしてもらう訳にはいかないよねえ……」


「……身分か……。ヴェスペリオンは? 一応六大公爵家の人間だし問題なさそうだけど」


「ちょっと待ってください! グローミング卿はトワイライト公爵家の者ですよ、皇太后陛下に逆らうような真似をするはずがありません。それなら皇太后と敵対しているオーロラ公爵家かスターフォール公爵家に協力を仰ぐ方が現実的です」


 半ば悲鳴じみた声で反対するバーナードに、ナディアは意識的に落ち着いた声音で語りかけた。


「会った事もない人間に依頼するくらいなら、たとえトワイライト公爵家の人間でも一度言葉を交わしたヴェスペリオンの方が、人となりが分かる分マシだよ。それにそのオーロラ公爵家?だっけ? そこだって、トワイライト公爵家を嫌悪してるからといって得体の知れない魔女の味方をすると思うかい? 今回の連絡はセレスティンが目覚めない事に起因する。ヴェスペリオンが結界修復の儀式での失態の責任を取りたがってる今だからこそ、協力してくれる可能性があるだろう? トワイライト公爵家の人間なら皇太后が許可する可能性も高いし」


「しかし、一回会ったくらいでは判断出来ないでしょう。皇太后の味方をされたら一巻の終わりです……」


「僕が彼の意識を覗くよ。ナディアの味方をする腹積もりならよし、そうじゃないなら、発覚のリスクはあるけど意識を書き換えれば良い。彼と皇太后との年齢差を考えると大した繋がりはないだろうから、ナディアの味方をするように書き換えるのはそんなに難しくないはず……。ただ証言を採用する際に、魔術の痕跡調査くらいはするでしょ。バレない自信はあるけど万が一って事もあるし、あくまで最終手段だね。バレたらそれこそナディアが魔女として糾弾されちゃうもん」


「イノセントがヴェスペリオンの意識を書き換えなくても、皇太后に有利な発言をされれば私は罪人確定だろう? だったら露呈しない方にかける方が良いんじゃないかい? 上手くいけば無罪どころか、反対に皇太后を罪に問える訳だし」


 その言葉が決め手となった。ヴェスペリオンへと連絡を取ると、こちらが拍子抜けするほどあっさりと協力を取り付けられた。バーナードはそれこそ怪しいとまだぶつくさぼやいていたけど、騙すつもりならもう少し悩む演技くらいするんじゃないか、というのがナディアとイノセントの見解だった。


 何度かのやり取りで、ヴェスペリオンから皇太后へと見張りを申し出てもらう方向で話はまとまり、ナディアは皆に心配されながら皇都へと旅立った。イノセントもいつも通り、ひっそりとついてきている。


 良い方向にせよ悪い方向にせよ、ナディアの未来は明後日の裁判に委ねられたのだった。

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