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29.皇太后の暗躍(セレナ・ジャスティナ・オーレリアン目線)

「また失敗しただと!? これで何度目だと思っている!」


「……向こうに想定外に強い護衛がついており……」


 苦し紛れの言い訳に、セレナ・ジャスティナ・オーレリアンは「それが通用するとでも?」とぴしゃりと叩き付けた。次いで「公爵家の騎士団くらい余裕で対処出来ると言ったのはお前達のはずだが」と忘れずに非を責めておく。


「その……、公爵家の隠し球なのかなんなのか……、とにかくこちらが把握していない人物が突然現れ、全てをひっくり返していきました。六大公爵家当主、いや、それ以上の魔法の腕を持っているかもしれません」


「魔女が本来の力を取り戻したのではなくて?」


「いいえ、それはございません。確かに赤子の姿ではなくなったようですが六、七歳程度の姿だと言います。いくら魔女とはいえ、魔力量は微々たるもの。我々が送った刺客が負ける事はありえません」


「どうだか。部下のしつけも満足に出来ない者の言葉は信じられぬ。ただの監視役が先走らなければ、今頃計画は成功していたのではないか?」


 それはまだセレナや目の前の者が本格的に動き出す前の出来事だった。エバーナイト公爵家へと潜入させた監視役の下女が、セレスティンとナディアが決裂したとの情報を前に、手柄を立てたい一心で勝手に動いたのだという。それ以降、エバーナイト公爵家の護りが強固になったのは言うまでもない。


 セレナの指摘に男はなにを言うでもなく、ただいたずらに沈黙が続くだけだった。


「もう良い、下がれ」


 セレナの言葉に男は一礼してからその場から消え失せた。それだけの能力があるならいっそお前が出向けと言いたい気持ちをぐっと押し殺し、深い溜息をつく。


(お父様も見る目がないわね、こんなに使えない者共を寄越して……。本当に死ぬ前に孫娘の戴冠を見届けるつもりがあるのかしら)


 セレナとて娘を皇帝に、という思いは当然あったが、状況を鑑みた上で急ぐ必要はないと考えていた。前皇帝と女狐の間に生まれた現皇帝レニスは皇帝とは名ばかりで、セレナと、セレナがあてがった皇后カミラの顔色を窺うばかりでまともに自分の意見を通せた試しがない。


 自身にとって最も脅威である妹達——セレナの娘達——を誰かと婚約させ、皇城から追い出す気配すらないのだから、脅威に感じるのも馬鹿馬鹿しい。


 そんな彼の優柔不断さを考えれば、近いうちに六大公爵家が皇帝に見切りを付け、上の娘プリマに忠誠を誓うと考えていたのに。


 間が悪い事にセレナの実父であるトワイライト公爵家現当主が病にかかり余命幾ばくもないという知らせのせいで、セレナが積極的に動く必要が出てきたのだ。


 登城し、開口一番その話をセレナに告げたトワイライト公爵は最後に一言、「私が死ぬ前に戴冠式を行うように」と言い残して先ほどの男が率いる暗殺集団との契約の印を置いていった。


(いっそ無視出来ればどんなに良いか……。せっかく気弱な皇帝のお陰で幽閉一つされずに過ごせているというのに。むしろこの件が表沙汰になれば私と娘達の命が危なくなる……)


 残念ながら、トワイライト公爵には家族の情などというものは一切ない。セレナが彼の指示を無視したとあらば、すかさずセレナの秘密を暴露するのが目に見えている……。


 下の娘ヴェレクンディア・カスタ・オーレリアンは前皇帝との子ではなく、セレナの不義密通により出来た子だった。定められた日時に前皇帝と寝てはいたものの一向に第二子を懐妊する雰囲気はなく、焦りの末の過ちから生まれたのだ。


 この秘密が漏れれば、当然セレナとヴェレクンディアはその地位を奪われ、最悪処刑もあり得る。そしてセレナには、トワイライト公爵なら自分の意に従わない娘相手に平気でそれをやってのけるという確信があった。


(むしろあの者達を使って父を害した方が早いかしら……。無理ね、父が手を打っていないはずがない。だけど別の暗殺者を雇う為の人脈がない……)


 本来皇太后という地位に居る以上、もっと人脈があるはずだった。ところが前皇帝が早々に側室との間に男子を儲け、当時皇后であったセレナに見向きもしなかったせいで貴族達はセレナに近付こうとすらしなかった。結果、セレナの人脈はトワイライト公爵ただ一人だけだった。


 プリマ・フィリア・オーレリアン。「最初の娘」という安直な上の娘の名前は、セレナに政治的価値がないと皆に知らしめた。それ故セレナは、毎日娘の名を呼ぶ度に名付け親である前皇帝()への行き場の内憎しみが募っていった。


 現皇帝レニスに罪がない事は知っている。だが皇后だったセレナを差し置き、男子を産んだ側室と前皇帝への憎しみは、その二人の子であるレニスにも向かうのは当然の事で。


 前皇帝への復讐という意味で、プリマを皇帝の座につかせる以上に相応しい結末はないだろう、と考えていた。


 その為にはどうしてもエバーナイト公爵セレスティンと次女ヴェレクンディアとの婚姻と、セレスティンの支持が不可欠。セレナの計画には突然降って湧いた養女の存在が邪魔以外の何ものでもなかった。


 どうにかレニスの意見に横やりを入れ、ナディアの裁判を皇室裁判所から市井の裁判所へは変更させた。その上でトワイライト公爵を通じて裁判官の抱き込みも行った。


 だが肝心のナディアの罪に関する証拠が見つからない。


 既に罪人扱いされている以上、ひっくり返る可能性は万に一つもないだろうと思う一方で、こうもナディアに関する情報が隠されている理由が気になる。


 手を出してはいけない領域なのではないか、という考えが昼夜問わずセレナを不安にさせ、最近ではあまりよく眠れていない。


(レニスを害せば真っ先に自分が疑われると思って魔女を選んだけど……間違えたかしら。だけどもう後戻りは出来ない。念の為、父に頼んで証拠をねつ造してもらいましょうか……)

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