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27.独白

 ここに来た日からずっとうやむやにしてきたけど、本当はナディアに会ったら最初に謝ろうと思ってたんだ。本当にごめん。あの時君にした事全部……悪かったと思ってる。今更こんな事言われたって困ると思うけど。


 僕も君と同じだけの時間を、色々な場所で過ごしてきた。人間は自分可愛さで平気で他人を陥れる。それは魔塔だろうがそうじゃなかろうが変わらない。だけど魔塔と違って、他の場所では普段は互いを思いやって持ちつ持たれつの関係を築く。決して蹴落とし合ったりしないんだ、自分の権利が脅かされるまでは。損な事すら僕は知らなかった。


 それどころか中には、たとえ自分の権利が脅かされても他人を優先する人が居る事も分かった。そんな立派な考えを持つ人に対して、感謝するどころか偽善だと言って貶めようとする人が居る事も知った。僕は彼らの生き方を理解出来なかったし、見ていて疑問が浮かんだ。自分の権利が脅かされた訳でもないのに、どうしてナディアが住んでいた村の人達はナディアを邪険に扱ったんだろう、って。それで、彼らの事をもっと深く知る為に、意識を書き換えて村の一員として過ごしてみたんだ。それで気が付いた。


 ナディアには当たり前だって鼻で笑われちゃうだろうけど……彼らは自分で外部から食料を調達してくる事が出来ないんだ。その力がない。だから村の中で作物を育てる。だけど村の人々全員が食べられるだけの量を確保するのは厳しい。天候に恵まれなかったり、動物に荒らされたり。それらに対処したり撃退するだけの力を持つ者が少ないんだ。


 そうして心に余裕がなくなると、こう考える訳だ。「どうしてこいつはろくに働いてもいないのに、食べる量だけは一人前なんだ?」って。子供だからって容赦ない。ナディアは……君はその対象になったんだね。


 「飢え」という概念が外の世界にある事は知っていた。だけど正直「なんで自分で調達しないんだ」ってずっと思ってたんだ。怠け者なんだから飢え死にしたって仕方がない、食べ物を巡って争うなんて愚の骨頂だ、って。それが出来ない人が居るなんて事、微塵も考えた事がなかった。


 魔塔で暮らす前も、魔塔での生活でも、僕は一度も飢えた事がなかったから。食べ物はたっぷりと出される。仮になかったとしてもそれを手に入れる手段は持っている。だから他人も同じようにすれば良いのに、と思っていたんだ。分からないなら学べば良い、考えれば良い、ただそう思っていた。その為の教育機関もなければ、考えるだけの余裕もない事に思い当たりもしなかった。


 ああ、話が逸れちゃったね。どこから話そうか……。見ての通り、僕は不老不死になった。森の魔法陣を応用して不老不死の術を作り上げたんだ。「さあ、準備は整った。世界中の魔術を学び尽くすぞ!」って意気揚々と魔塔を出て、愕然とした。さっき言った通り、外の世界は魔術の研究どころか生き延びるのもやっとの人達でいっぱいだったから。


 結局のところ、魔塔が世界で一番の魔術研究機関だったんだ。それで計画を長期的なものにする事にした。皆の生活の基盤を整えて、学べる環境を作り出す。それでいつか僕よりも優秀な魔術師が生まれれば……、そう思ったんだ。


 計画は上手くいったよ。僕が介入した地域の生活水準も良い感じに上がった。だけど今度は争いが増えた。生きる事に必死だったのに外を見る余裕が出たんだ。「あの土地はここよりも豊かだ」「あそこを支配下に置けば俺達は働かずに済むんじゃないか?」そういうあくどい事を考える者が増えた。その逆に近隣の地域が「あの地域が急に豊かになったぞ、なにかあるに違いない」と攻めてくる事もあった。


 僕が一地域に悪戦苦闘してる間に、いつの間にか王国も近隣国を攻め滅ぼして、帝国を名乗るようになっていた。それで悟ったんだ。飢えから来る争いはまだ生存本能だと理解出来る。タチが悪いのは、富から発生する争いだ。周りを見る余裕が出来た途端、相手と自分を比較するんだ。相手が自分より上なら欲しくなるし、自分より下なら支配したくなる。そうして争いは最後の一人になるまで終わらない。


 ナディアを犠牲にした僕が言う事じゃないのは分かってる。だけどこう思ってしまった。「ナディアを犠牲にして平和を手に入れたのに、こいつらはどうして進んで争い事を起こすんだ」って。「平和の為に僕達に結界の魔法陣を研究させたんじゃないのか。今も苦しみながら森の魔獣を食い止めてるナディアが馬鹿みたいじゃないか」……ってね。


 皇都の結界だって似たようなものだ。元々、自分達が吸収合併した国からの報復が怖くて張った結界だ。そうまでしてどうして他国を攻める必要があったんだ? 結界を維持している人達の苦労は? 皇都以外はどうでも良いのか?


 ああ、また話が脱線してしまった。……僕はね、天才だと思っていたんだ自分の事を。だけどそんな事はなかった。争い一つ止める事が出来ないし、終わりが見えない分、止める努力を続ける根性もなかった。


 だから見たくない事から目を逸らす為に自分の身体にかけた不老不死の術を解除しようとしたんだ。けど出来なかった。怖いからとかじゃない。技術的にどうしても上手くいかないんだ。はは……、自分の命一つ満足にコントロールできない天才なんて、聞いて呆れちゃうよね。


 ナディア。都合の良い事を言っている自覚はある。どうか……、どうか僕の願いを二つ聞いてほしい。一つ目は僕の不老不死の術を解除する研究を手伝ってほしい事。もう一つは、君の自由だ。森の結界が消失する事で、今まで誰の犠牲の上に平和が成り立っていたのかを国民に理解させたい。……感謝もせずに争っていた事を後悔させてほしいんだ。


 僕の話はこれでおしまい。君にこんな事を頼むなんてどこまで厚かましいんだろうね。……君がここで幸せに暮らしてるなら、裁判資料だけ置いて去ろうって思ったんだ。時間は無限にあるんだから、自分だけでもいつか不老不死の術は解除出来るだろうし。


 だけど最近、あの公爵がナディアの事を無視するから腹が立って……。ねえナディア。裁判で勝ったら僕と一緒にここを出て世界中を旅しない? 君と一緒なら僕は生きるのも悪くないなって思うんだ……。

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