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11.魔力暴走

「お前が違法治療を行っているという女か?」


 突然の問いかけに、ナディアは意味が分からずただ呆けるしかなかった。


「おい、答えろ!」


 この辺じゃ見た事もない、立派な鎧を着た兵士達。そのうちの二人がナディアの肩と頭を力強く地面に押さえつけ、怒鳴り散らした。


 周りで見ていたであろう住人達はナディアを助けてくれる気配もない。


「治療は、してた。けど違法って一体……」


「やっぱりな……」


「いつかこうなると思っていたわ……」


 ナディアの答えに、ひそひそと囁く声が聞こえてきた。


(……皆こうなる事を知ってたって事? 何故? 一体私がなにをしたって?)


「王国法により、全ての医師と魔術師は必ず国の管理下にある。無登録で人に治療を施す事は禁止だ」


「……は……、なんだそれ、私はそれが違法だなんて知らなかった。人に治療を施したから罪に問われる? だったら治療された側はどうなの? 罪だと知りながら治療を受けた者はたくさん居たはず!」


「お前の言う通り、勿論治療を受けた者も捕らえておいた。ほら」


 そう言って顎で指し示した先にはぼろを纏った二人の男性。


 ああ、そうか、とナディアはようやく腑に落ちた。夜中にこっそり訪ねる者が多かったのは、気まずかったからじゃない。いつかこうしてナディアが捕まると分かっていて、自分達が罪に問われないように人目を避けていたのだ!


 兵士に捕まっている二人は日中帯にナディアの元を訪ねてきた者達だ。きっとナディア同様、そんな訳の分からない法律がある事を知らなかったんだろう。


「ふざけんな! たった二人!? 私はこの村の人間の殆ど全員を治療したんだ! 近隣の町のやつらもわざわざ私を訪ねてきた! 治療を受けた者も捕まるんだったらここに居る全員捕まえるくらいしな!」


 どうせ自分は捕まる。だったら利用するだけ利用して、助けようともしないこの村の人間を一人でも道連れにしてやろう、とナディアは声を張り上げた。


「……だ、そうだ。この女から治療を受けた事がある者は?」


「冗談じゃない、その女が嘘をついてるんだ!」


「そうですよ。子供の頃から勝手にこの村に住み着いて、迷惑をしていたんですから。近寄った事すらありません」


「は……ははは……」


 ナディアは笑った。確かに子供の頃から住んでいたのは事実だ。だけど、老人が生きていた頃はナディアを可愛がっていた人物だってちらほらと居た。勝手に住み着いて? だったら老人がナディアを拾った時に反対すれば良かったのだ。


「ふむ、誰も居ないようだ。……今のは虚偽の申告、これも王国法違反だ。はは、お前、どんどん罪が増えていくなあ……?」


 ——だが、俺の女になると言うなら助けてやっても良い。


「ひっ……!?」


 耳元で囁かれた声と共に、湿ったなにかが触れた。一瞬遅れてそれが舌だと気付き、ぞわり、と言いようのない鳥肌が立った。


(こいつまさか……! 最初からそのつもりで!?)


 ナディアを抑えつけている兵士二人は確実に今の行為を見ているはずなのに、止めようともしないのがその証拠だ。


 ナディアは別に馬鹿じゃない。むしろ良い方だという自信すらある。だから村に戻ってすぐに文字の練習して、今では誰よりも自由に扱えるようになった。治療の対価として、その人が持っている書籍を読む権利を提案するくらいには知識を得る事が好きだった。


 それでもそんな法律の存在を知らなかった。つまりそれは、文字として伝わっていないという事。村や町という一つの集団の中で、親世代から子世代へ、口伝で伝える類いの当たり前の常識。


(もう残飯を漁る事しか出来ない子供じゃない。この辺りで一番、薬草と治癒魔法に長けてる自負があった! 絶対皆の役に立ってた! 感謝の言葉もかけられて……、仲間だと認められたと思ったのに! いつか捕まるのを知っていて、ずっと利用していただけなんて! このくそ兵士もそう! 法律がどうとか言ってるけど、単に私が欲しいだけ! 罪を増やせば私が折れると思っている!)


「絶対に許さない……!」とナディアが低く呻いた途端、どこかでぷつんと音が聞こえた気がした。なんだろう、と確認する間もなくナディアは真っ赤に染まった視界に飲み込まれていった。


   ◇◆◇◆◇◆


「それで……どうなったんだ?」


 不安げな表情で聞いてくるセレスティンに、ナディアはゆっくりと首を横に振り——赤ん坊の姿でどこまで伝わったかは分からないが——、また文字盤の上で指を滑らせた。


 ——分からない。気付いたら私のような魔術師がたくさん居る場所に居て、「お前は死んだ」と言われた。そこで多分……四、五年くらい毎日人体実験をされた。


「人体実験だと!? 待て、それはどういう……いや、これ以上思い出す必要はないぞナディア殿」


 ——随分と昔の話だ、問題ないよ。……あの場所で聞いた話じゃ、私は無差別大量殺人を行って処刑された……事になっているらしい。多分だけど、意識が途絶えたタイミングで魔力暴走を起こしたんだ。それで兵士も、村人も全員……。


 死んでしまったのだろう。実際のところ、あの時ナディアは「絶対に許さない」と強い負の感情を持っていたし、魔力暴走を起こさずとも怒りにまかせてこの手で殺めた可能性は十分ある。だから無差別大量殺人に対して「やってない」と異を唱える事はしなかった。


 まあどうせ処刑された事になっているのだから、異を唱えたところで決して覆る事はないだろう、と冷静に判断した結果でもある。


 ——そう、それで……あのよく分からない施設での生活もなかなか悲惨だった。毎日身体を切り刻まれたり変な物を飲まされたりといった実験をされたしね。私は手錠のようなもので魔力を封じられていたから、治癒魔法も使えず、一日の終わりにあいつらが治癒魔法をかけるまでひたすら痛みに耐えるしかなくて。だけど、良かった事もあるにはある。例えば、彼らを見ているだけである程度独学では知り得なかった魔術の知識を知る事も出来た。それに、たった一人だけ私と話をしてくれた人も居たしね。


 ナディアを使った実験自体には、その男も参加していた。だけど「君の背景情報を知る事で、その膨大な魔力の根源が分かるかも」という発想から、他の人物とは違って積極的にナディアと対話をしていた。


 ——それで気が紛れたし、私の罪名についてもその男が教えてくれたんだ。まあ多少は感謝しているよ。魔術についても、時折討論が出来て楽しかったし。


「それで……四、五年経ったあとは?」


 苦虫をかみつぶしたような表情で続きを促すセレスティン。どうして本人よりも苦しそうな表情なのだろう、とナディアは疑問に思いながらも文字盤に触れた。


 ——あとは知っての通り、森に連れて行かれて、この国の結界になった。多分その四、五年で私の身体を調べ尽くして、魔法陣に色々と……、私と魔法陣に魔獣が近寄らないようにとか、私が年老いて結界が破損しないようにとか、組み込んだんだろうね。実に用意周到な事だよ。


(あの施設では、魔法陣の魔の字も見た事がなかった。いつか私が解読する事を恐れて、きっと別の部屋で研究を行っていたんだろうね。本当に……優秀なやつらだった)


 ——もしかしたら、あの魔法陣を応用して自分達も不老不死になってたりしてね? 実際になってみるとなかなか飽きるものだけど、人間はそういうのに強い憧れを抱くものだろう。


 実際、森に来る人物の中には、ナディアへ「不老不死にしてくれ」と頼み込む輩が何人も居た。なにも楽しい事はないのにどうしてわざわざ自分から苦労を背負い込もうとするのか……と、ナディアは呆れながら話を聞いたものだ。


「ナディア殿が居たのは恐らく魔塔と呼ばれる場所……、国の管理課にある魔術を研究する為の場所だ。ナディア殿の記録がなかったのは、死んだものとして貴方をそこに送り込んだからだろう。魔塔にの方に記録がないか調べてみようと思う。……今日は本当にすまなかった。ゆっくり休んでくれ。ああ、それから。今は魔術師も医師も自由業だ。それに魔力暴走も事故扱いで罪には問われない。そんなふざけた法律は、とっくの昔に廃止されている」


 ナディアがぎょっとするほど眉間にしわを寄せながら、セレスティンは淡々と説明して部屋を去って行った。


(なんだ? 私が怒らせた訳じゃないよな……。まさか私の代わりに怒っている、とか? ……数百年も前の出来事なのに?)


 突然胸の辺りがかゆくなり「あうえうあ?(蚊でも居るのか?)」と呟くナディアだった。


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