マリアさま
2024年 1月 1日 投稿開始
1月11日 次回投稿予定。投稿時間は “午前11時” です ←
夜勤は一人だ。
ユニット型の施設で、各個室があり1ユニット10名の利用者が住まれ、
夜勤は2ユニットを1名体制で勤務をする。
16時30分から9時30分までの勤務。
遅番が19時まで居て、早番が7時から来る。
その間は一人だ。
一人に掛かる負担がある。
徘徊する利用者の対応を一人でする。
特に用事はないが、ナースコールを何度も押す人がいる。
ベッド上で動きがあったら、職員の携帯端末に知らせがくる「センサー」を使用している方が、眠れず起き上がろうとする。
寝てはすぐに起き、トイレ。そういう人に限って、転んでしまう危険がある。
最大で20名のオムツを交換する。
交換中に、ナースコールを呼ばれ、センサーが鳴り、重なったり。
普段の行動間隔の傾向や、段取りの組み方が重要である。
僕の施設では夜間は2回交換する。
だから、20名×2回=40回。
まあ、自分でトイレに行ける人がいたり。
夜間に1回しか失禁されない方も居るから、40回まではない。
最小回数から、最大回数まで、その施設、そのユニットで振り幅があり。
その中で、簡単にオムツを交換できる人と、簡単ではない人との差もある。
簡単ではない人…例えば、「さっきトイレに行ったから」と
立つこともできないのに、断る人。
「嫌だ!」と、オムツ交換を断る人がいる。
本多さんと仮名する。
夜勤の憂鬱。
本多さんのオムツ交換をしなければならない。
2回で良い、たった2回。
ただ、大きな声を出される。手を出される、暴れる。
足は不自由、手は動く。
自分で起き上がることはできない、だから、その場で我慢して
嫌がることをすれば、それで済む。
リビングのテーブルに据え付けられた本多さんはTVを観ている。
就寝時の眠剤を内服されて2時間ほど経った。
テーブルに伏せては顔を上げてを繰り返される様子だ。
眠気がみられてきた。
「お部屋へ戻りますよ」
聞こえていないだろう声かけをし、居室へ連れて行く。
ベッドで横になるのは抵抗がない。
でも、そこからだ。
「オムツ替えるね」
これからすることを本多さんに伝える。
「嫌だ」
険しい顔され、大きな声で訴える。
これ以上は何を言っても、接し方を変えても同じだ。
だから諦めている。
本多さんをベッドで仰向けにする。
「嫌だ!嫌だ!」
本多さんのズボンを下げる。
「ごめんね、ごめんね…」
本多さんは手を伸ばし、下げたズボンを上げようとする。
「嫌だ、嫌だああああ!!」
最近、以前よりも声を出されるようになった。
本当に嫌なのだろう。
僕の手を掴み、力強く爪を立て、叫ぶ。
僕の前腕に爪が深く突き刺さる。
その爪、その手を振りほどいてしまうと暴れてしまう。
だからそのまま傷跡にさせる。
嫌がる本多さんの視線を感じながら、悲しい思いで無理やりズボンを下げた。
オムツのテープ止めを外す。
本多さんは僕の顔を覗いた。
「マリアさま」
瞬間ーー光が射した
オムツ交換をしていた手を止めた。
不意の言葉に思わず僕も本多さんの顔を覗いた。
掴んで突き刺していた爪の力が弱まった。
僕を見ていた。
突き刺された皮膚から爪が離れ、掴んでいた手も離された。
僕の腕筋に赤い線を遺し、血が滲んだ。
そこに光が射していた。
静かになった本多さんのパット交換は簡単だった。
開眼していたが、どこに視線があるのか分からない表情だった。
眠剤が効いたのかもしれない。
手を洗った。
掴まれていた前腕を洗った。
腕筋の赤い線に水が沁み入った。
傷口から血が滲んだまま、そこにあった光が訴えかける。
ここに居ては、自分はダメになる
そう思った。
視線が僕の頭上に落ちたままーー
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