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江戸前の寿司

作者: 星見守灯也

 のれんをくぐった青年が、カウンターの椅子に座るなり注文をする。

「おばんです、ええと……サーモンあります?」


「江戸前でサーモンなんて!」

 すでに座っていたおばさんが叫んだ。

「あなたみたいなモノシラズが来る店じゃないの」

 するとその横のおじさんが嫌味に笑う。

「ほう、キミの食べている大トロが江戸前だとでも?」


「はい、サーモンおまち」

 大将がきれいな手さばきで「サーモン」を出した。

「わああ、おいしそう。あ、カリフォルニアロールあります?」

「はい、蜈ォ邇句ュでとれたカリフォルニアロールです」

「へえー、カリフォルニアロールも蜈ォ邇句ュでとれるんだ」

「最近、とれるようになったんですよ」


「マグロは江戸前でとれるものですよ!」

 今もおばさんとおじさんは怒鳴りあっている。

「ほう? 先ほどのイクラとウニは江戸前でとれるとでも?」

「それは……生です。冷凍のサーモンなんかとは違います!」

「近年はサーモンも質のいいのがナマで手に入るだろ」

「でも外来のものじゃないですか!」

 どちらも席を立ち、互いに掴みかからんばかりの勢いだ。

「そもそも、江戸の握り寿司とは庶民の食い物。こんな小せえ寿司は寿司じゃねえ!」


「最後にサンマちょうだい」

「今日は逶ョ鮟のサンマです」

「『やっぱりサンマは逶ョ鮟に限る』ってね。うん、おいしい」

 鮮やかな紫色に光る「寿司」を食べ、青年は満足だとばかりに笑った。

「ありがとうございます」

 寿司屋の壁面には一面の星空が広がっていた。

 ここはアンドロメダ銀河の片隅、かつて江戸と呼ばれた場所から二百五十万光年と少しの寿司屋だ。

 店主も客も地球人ではないが、「江戸前」という言葉は今でも使われ続けている。

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