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春と夏の狭間にて。その9(後編)




 一方、美鶴に手首を掴まれて連れて来られるクーリアの姿を見た那苗と小蓮の二人は、各々その光景に関して心の中で感想を洩らしていた。


 小蓮は『うわっ……美鶴様があんなに嬉しそうにしながら人を引っ張ってくる姿を見る事になるなんて。だけど、彼女と私達が面識ある事は何とか美鶴様には隠しておかないと……』と思い、那苗の方も『美鶴嬢があんな表情を見せるなんてな。比較的感情を表情に乗せる性格ではないと思っていたが、学生生活とかの影響で心境の変化があったかな? ……それはそうと、クーリアは上手く動いてくれるか、それだけが心配だ。』と思うのであった。


 そして美鶴とクーリアの二人が合流し、全員集まったところで、美鶴がクーリアの事を紹介し始めるのであるが、那苗らにとっては一応知ってる相手なので相槌を打つくらいの反応はしていた。

 もっとも、そんな二人の挙動に妙な引っ掛かりを感じた者が当然居た訳で……




「なぁ、なりみ。」


「なんですの?」


「那苗さんと小蓮さんだけど、東雲さんがああも嬉しそうに話をしてるのにどことなく上の空と言うか、そんな感じがするんだよな~。」


「そうなんですの? あまりわたくしには良く解りませんが……」


「ん、流石に解らないか~。なりみって、まだまだ心の感度が鈍いよな。」


「か、感度が鈍い……。さっちゅん、流石にそれは言い過ぎですわよ。わたくし、そこまで"にぶちん"ではありませんですわ。」




 ……と、このような会話を小声でやっていたのだった。

 なお、そんな二人の様子をすぐ近くで見ていた美紗音は、二人の会話が意味するところを理解できてなかった模様であった。


 さて、美鶴が一通り話を済ませたところで、彼女はクーリアに自身の口から自己紹介をする事を勧めてきた。

 普通なら、何の問題もない話なのではあるが、美鶴や他の三人が知らないだけで、クーリアと那苗&小蓮が既に見知った間柄という事もあり、互いの紹介が見る人が見れば実にぎこちないモノに見えた事だろう……




「あ、あ~。え~と、改めまして、クーリア・モルゲンでス。よ、よろしく……でス。」


「お、おう。あ、私は那苗。山県那苗だ。こっちは"稲荷人"の小蓮だ。」


「ど、どうも……。小蓮、です。よ、よろしく……」




 この様な形で会話が始まった訳だが、妙に固い雰囲気を醸し出す三人を見て、流石に美鶴も不審に感じたのか?

 思わず『あの……小蓮も那苗さんも、どうしたのですか? 何だかクーリアさんに遠慮というか、何か気になる事でもあるのですか?』と、口に出すこととなる。


 それを聞いて、三人の視線が一瞬交差したあと、次々と何事も無いという意味合いの事が三者三様で語られ出したのは言うまでもない。

 三人のそんな言動に、どこか引っ掛かるモノを感じた美鶴ではあったが、クーリアを留め置ける時間が限られていた事もあり、その疑問はとりあえず横に置く事となるのだった……






 その後、約束の時間まで、七人の女性の会話が続き、そろそろクーリアが帰らねばならない時間となる。

 彼女は迎えが来る学校の校門まで戻る事となり、送迎の車に同乗する事となっていたさちかや、母親である小百合と一緒に帰るなりみを伴って学生寮の敷地の出入口から帰路につく事となる。

 美鶴と美紗音らは出入口まで見送る事となり、一同がそこまで移動した時だった……



『っ!? この気配……(あやかし)か! しかも、そう遠くない!』



 突如として、那苗が険しい表情を見せつつ、こんな事を口走ったのだから、他の面々は大なり小なり驚く事になる。


 気配を察知できる面々ほど、その表情は険しく、そうでない者は困惑気味というのが正しいのだろう。

 とにかく、そんな温度差が出たところで、続けて那苗の口から『美鶴嬢と美紗音は早く寮の中へ。小蓮は残りの三人を連れて校門へ急げ!』と指示を出している。


 そんな彼女に対して美鶴が『那苗さんはどうするのですか?』という問いが投げ掛けられたが、それに対する答えは明白だった……



『妖が出てきた以上、守衛としての役目を果たすまで。……心配は無用です、こういう荒事には慣れていますので。』



 このように述べると、那苗は美鶴に一瞥してその場から妖が居ると思われる方向に向けて走り出して行った。


 走り去る那苗の姿を見送りながら、美鶴は『那苗さん、大丈夫でしょうか? 幾ら戦闘経験があるとは言っても、お一人で向かうなんて……』と、心配の声を上げたのだが、即座に小蓮が『大丈夫ですよ美鶴様。ああ見えて那苗様はかなりの実力者です。間近で見てきたので間違いありません。信じましょう……』と、語りかけた上で更に『とりあえず美鶴様達は早く学生寮の中へ。

 恐らく他の守衛の方々も来援なされると思いますので、那苗様に関しては問題は無いハズです。』と語り、何とか安心させようとしていた。


 結局、小蓮の言を受けて、美鶴は美紗音と共に寮の中へと退避する事となる。

 なお余談だが、この学生寮にはちょっとした結界が張ってあり、建物の中にいる限りは妖と言えども簡単には入れない仕様になっているのだという。


 二人が寮の中へ入ったのを見届けると、小蓮はクーリア、なりみ、さちかの三人を伴い学校の校門へと向かう事となる。

 なお、やはりというかクーリアが心配そうな表情を見せていたが、小蓮が側に寄って小声で『大丈夫ですよ、那苗様を信じて下さい。

 それより今は無事にお迎えの方と合流することを優先しましょう。』と告げたので、クーリアは渋々了解するしか無かったという。


 そうして校門の辺りまで辿り着いた四人の前に、丁度迎えに現れた教来石さん運転の送迎車が待機しており、更にそこにはなりみの母でもある石田小百合の姿もあったのであった……




「あれ? お母様とクーリアさんのお迎えの方が一緒に居ますわね。見たところ親しげな感じですけど。」


「そうみたいだな。だけど表情を見る感じ、少し心配気な感じが滲み出てるように見えるが……」


「そう、ですわね。」




 なりみとさちかが二三会話を交わしたところで、四人の存在に気づいた二人が歩み寄ってくる。

 そして、クーリアが小蓮の事を軽く紹介したところで、その小蓮から早めに帰宅を促す発言が出た事から、クーリアは後ろ髪引かれる想いを残しつつ、教来石さん運転の送迎車に乗り込む事となる。

 だが、ここで突然さちかが学校に忘れ物があることを思い出したらしく、当初の予定と異なり、教来石さんはクーリアだけを連れて帰宅の途につく。

 そして、学校の校舎の方に向かうさちかを見送りつつ、なりみと小百合の母娘は、さちかが戻るまで待つ事を小蓮に告げるのであった。

(更に余談だが、実はこの時、小蓮と小百合は初対面だったという。そして小蓮は小百合がいづると顔馴染みであるという事を、この時点では知らなかったのである……)
















 さて一方、妖の気配がする方に向かった那苗であったが、彼女が現場に到着した時、既に妖は別の存在と交戦状態に入っていた。

 誰が妖と交戦していたかと言うと……



『なっ!? い、いせな! もう来ていたのかよ!』



 那苗の口から放たれる言葉の通り、妖と交戦状態に入っていたのは、既に軽装鎧武者の形態に変化していた"宮城いせな"であった。


 彼女は那苗が来たのを確認するなり『那苗さん遅いですよ!』と一言発し、それを受けて那苗も『悪い。色々と立て込んでた。それよりお前が一番乗りとは驚いた。』と述べると、彼女は『妖の気配がしたので、寮から出たのは良かったのですが、なぜか西棟の方に妖が向かっている事に気づいて、急いで追い付いて足止めをしていたんです。……足止めしてれば那苗さん達が来ると思ってたので。』と答えたという。


 いせなのその言葉を聞き、那苗はいせなの判断に感心しつつ、同時に妖が西棟……

 つまり美鶴らが居る学生寮の方に妖が向かおうとしていた事を併せて知る。

 それが何を意味するか?那苗には心当たりしか無かった……



『妖の動きが今までと違う!? まさか初めから美鶴嬢狙いの動きをしているのか? だとすれば、色々前提が崩れかねない!』



 そんな事を那苗が考えているなど知る由もなかったいせな。那苗に対して『これまでと妖の動きが違いますね。てっきり私を狙うと思ってたのですが……。もしかして、西棟に妖が狙う程の力を持つ人がいるのかも知れません。妖はそれを嗅ぎ付けたのかも?』と述べ、続けて……



『力を持つ人が、その力に気づいてないのだとしたら、ここで妖を止めないと。』



 ……と語り、太刀を握る手に力を込めて妖を睨み付けていた。

 いせなが何故こんな事を口走ったかと言うと、彼女の認識として、西棟には基本そういう力を持つ存在がいないという前提があった。

 ところが今回、妖は西棟に向かおうとしているのであるから、ここで食い止めて害が及ばない様にしようと考え、そしてそれを実行しようとしているという訳である。


 そんないせなの思考を察した那苗は『やれやれ、解っていた事とはいえ、コイツは本当に良い奴なんだな。誰かが傷付く事を黙って見ていられない。自分から火中の栗を拾おうとする。……まあ、それだから"御鏡様"の眼鏡に適ったとも言えるのだろうけど。』と思うのであった。


 そして、改めて那苗も妖の方を向き、腰に掛けている小刀を抜くと『いせな、コイツをここで食い止め、いっきに倒すぞ!』と一言発し、それにいせなも『はい!』と一言返して眼前の妖に仕掛けようとしたのであるが……


 ここで二人にとって予期せぬ事が起きる。

 それは、相対する妖の後方から新手の妖が複数あらわれた事であった。

 これには那苗もいせなも驚かない訳にはいかなかった。何故なら、これまで妖は基本的に単独で現れる事がほとんどだったからである。



『まずい! 複数の妖だと!? ……いせなはまだ力の加減が出来ている状態じゃない。一体くらいなら兎も角、複数で来たら……』



 那苗がこの様な事を思うくらい、状況は良くなかった。

 つまり、まだいせなは力のコントロールが不十分であり、長期戦になってしまうと"ガス欠"になってしまうのである。


 かくして、二人に危機的状況が迫ろうとしていた……






 ー つづく ー

 


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