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春と夏の狭間にて。その3(後編)




 クーリアと家政婦の教来石嬢が去り、客間にリッサとヴァルターの二人だけとなったところで、両者の間で早速会話が再開される事となる……




「さてリッサ、こっちに来てから身体の調子……いや、光の枝の力の感触は変わっているのではないか? 何せ、今我々が居る土地は"退穢(たいわい)の結界"とヤマトの者達が呼称している領域の内側。つまりお前さんの国などで研究されている"ウブスナエナジー"に満たされている領域でもある。何か感じる所はあるだろう?」


「……そうね、確かにヤマト国の、とある地域より西に踏み込んだ頃から妙に力が強くなった感覚があるわ。それこそ、先の戦役の頃に戻ったかのようにね。」


「ふむ、そうか。ならば俺の方から詳しく言わなくても良さそうだな。……ヤマト国がさっき言った結界を張り巡らしてウブスナエナジーが領域の外に漏れないようにしている事を。」


「ええ、大体の事はアンタが言ってるように承知しているわ。ただ、ヤマト国がどうやってその結界を構築して、かつそれを維持しているか? それに関しては連合国の諜報部門も解ってないけど……」


「ふぅ……連合国の諜報部門が把握出来ぬとはな。随分と諜報能力が落ちたというべきか? それともヤマト国側の防諜能力が極めて高いというべきか? ウチの古巣の商会のセキュリティ部門にも見習って貰いたいところだが……」


「ん? そう言えばアンタの古巣もロシアに機密をスッパ抜かれてアタフタしたんだっけ? それで結果的にウチの国の情報部門に保護を求めたとか聞いたわ。」


「ん、まあ、俺が離れた後の話だから、大まかな話しか聞いてないがな。それより……」


「退穢の結界ってヤツの話、アンタの口振りからして何か知ってるっぽいわね。」


「ふっ、察しが良いな。まあ、リッサの所の……連合国の諜報部門よりは真実に近いところにはな。」




 そう語ると、少し周囲や部屋の外の気配を探る感じの素振りを見せ、誰もいない事を確認してから、ヴァルターは知り得た範囲の話を始めた……



『……退穢の結界とやらを張る為のツールとして、どうやら"カナメイシ"なる代物をヤマト国内の主要なパワースポットに配しているらしい。コイツがどういう形状をした代物かは俺も確認はしていない。ただ、このカナメイシとやらが結界を張る際の動力源として、タカマガハラから流れ込むウブスナエナジーを使っているらしい……という事までは、状況証拠から予想はしているがね。』



 ……ヴァルターが斯く語ったところで、今度はリッサから『空間中のウブスナエナジーをカナメイシって物に吸わせて、それを動力源として結界を生じさせ、大量に流れ込むウブスナエナジーがヤマト国内から外に出ない様にしている……か。となると、昨今のヤマト国外での空間中のウブスナエナジーの低下に関しても改めて説明がつくわね。』という発言がなされ、続けて斯く述べている。



『前にヤマト国の政府幹部と表敬訪問ついでに色々話を交えたけど、ウブスナエナジーに絡む部分は高度な情報統制をしていたという印象を持ったわ。そしてヴァル、アンタの言う事が確かならやはり連中、ウブスナエナジーを独占して他国に対して優位な状態を固定化しようとしていると言えるのよね。』



 そう述べながら、リッサは以前部下と会話した時の(蓋だの蛇口だの……)見立てが概ね正しかった事を確信したのであった。


 もっとも、ヴァルターですらカナメイシの明確な容姿形態が解らないとしている事や、仮に破壊を試みた場合の外交的リスク……

 つまり四度目の戦役勃発に繋がる行動は慎まねばならない点に加え、破壊してしまった場合に生じると思われる"もう一つの問題"の再燃もあってカナメイシの件は暫く本国には報せないでおく事が妥当だと思ったようであった……



『カナメイシを破壊してウブスナエナジーを世界に向けて解放した場合、またぞろ中南米の神話生物連中が跳梁跋扈して合衆国に襲来してくるでしょうね。 他にも世界各地の同様の存在が力を取り戻し兼ねない。それだけは避けないとならない事を思えば、暫くカナメイシの事は本国には伏せておきましょう。大統領閣下も含めてね……』



 ……このようにリッサが思っていた事など知るよしもないヴァルターは、彼女に『さて、世間話ばかりもあれだから、何か飲み物を用意しよう。コーヒーが良いか? ミルクや角砂糖もあった方が良かったかな? 久しぶりなのでお前さんの好みを失念しているが。』と言ったところで……



『忘れた? ……私は紅茶派なのよ?』



 ……という一言が飛んで来て、ヴァルターもこれには苦笑いしつつ『了解した、早速用意するよ。』と述べつつ、客間の片隅にある各種飲料の原材料が納められた棚を漁り始めるのだった。
















 さて、リッサとヴァルターが会話をしていた頃、クーリアは家政婦の教来石さんに案内されて自分たちが寝泊まりする部屋に来ていた。

 その部屋は元々宿泊する来客用の部屋だったのだが、留学生を受け入れるという事から急遽部屋の内装に手を加えたのであった……




「クーリアさん、此方が本日から貴女方が寝泊まりする部屋になります。」


「ワオッ!? この部屋がですカ? ……ウーン、何だか少し狭い気がしますネ。」


「あ~、それに関しては致し方無いかと思います。元々この邸宅のこの手の部屋の間取りは、ヤマト人規格で造られているので、アメリカのそれとは大きく異なるかと。」


「ウワァ……。話に聞いてはいましたガ、改めて自分の目で見て理解できましタ。ヤマトの家は"ラビットハウス"だという事が。」


「ラビットハウス? ああ、所謂"兎小屋"という事ですか。外国ではそう言われてるとは聞き存じています。お館様も完成したこの邸宅を初めて見た時"小さい"という事を仰ったと、先輩の家政婦の方から聞かされた事があります。」


「オゥ……あのナイスミドルのグランパもそんな事ヲ? 確かに初めて見れば狭いと思っても不思議じゃないですネ。」


「クーリアさん、一応建築した方々の名誉の為に申しますが、この邸宅は一般的なヤマト住宅よりは広めに建てられた住宅なんですよ?」


「何とっ!? ……ヤマト国の建物がますますラビットハウスだという事がその話で解りましたネ。」




 そんな会話を交えたあと、クーリアは早速室内に入室した。

 その部屋広さ、畳の枚数にして凡そ八畳程であり、入口から見て左右の壁沿いにベッドが一つづつの合計二つが配されていた。

 無論、クーリアとリッサが寝泊まりする事に合わせたモノなのは言うまでもない。


 そして、入口から見て奥の壁に窓が一つあり、その手前の壁に沿う形で本棚と一体化した机が置かれていた。

 それはクーリアが使う学習用のモノが一つと、リッサが使うであろう事務作業用のモノが一つだった。

(学習用はともかく、事務作業用というのは、休職扱いになってるとはいえ現役の軍人が暇をもて余す事がないようにする為、済州島のアメリカ軍基地から簡単な事務書類を送り付る様にヴァルターが手続きをした為である。無論、ヤマト国の国防部門や外務部門に見られても差し支えのない、機密性の極めて低い代物なのであるが……)




「あらかじめベッドが用意してるんですネ。……ウーン、実にフカフカしてよく眠れそうでス。」


「気に入って貰えたなら助かります。準備をした甲斐があったというモノです。」


「ホワッ? これ全てメイドさんが準備したのですカ?」


「はい。お館様からのご指示で、私が選ばせて頂きました。お気に召しましたら幸いですが。」


「オオゥ……何から何までサンキューでス。小婆様も気に入ってくれると良いですネ。」




 ベッドに敷かれた布団の上に身体を預けて感触を確かめるクーリアを見て、教来石さんは『産まれた国は違っても、似たような反応をするのは同じという事でしょうか? ……小さい頃の妹にも同じようにしたら喜んでたし。』と思ったとか。


 しかし、程なくクーリアの様子が変わる。

 様子が変わった事に気づいた教来石さんが『何か不都合がありましたか?』と訊ねると……



『布団は良いのですガ、妙に湿っ気が空間を支配しているみたいでス。どうにかならないですカ?』



 ……という返事がなされたのである。

 そう、季節はまさに春が終わり、夏の入口に差し掛かった狭間の季節……つまり"梅雨"の時期だったのである。

 これには教来石さんも『しまった。梅雨の時期だったのを忘れてた!』と思ったらしく、すぐに除湿機を用意する事を告げ、保管されている場所に取りに行く為その場を離れたのだった……






 その部屋にリッサが来たのは、クーリアが入室してから一時間程経過してからであった。

 妙に紅茶の匂いを漂わせながら部屋に入ったリッサが見たモノ。

 それは除湿機を最大稼働させて、合わせて扇風機の前で比較的薄手の服装になって風を浴びていたクーリアの姿であった……




「……アンタ、なにやってんのよ。」


「あ、小婆様。見ての通り、扇風機の風を身体に受けて涼んでいたトコですよォォォォ〜。」


「ハァ……それは解ったわ。で、この煩い音は何なの? あの窓際に置かれた箱みたいなのから聞こえてるのだけど。」


「ああ、あれはメイドさんが持ち込んでくれた除湿機ですネ。何でも少し型が古いので音が煩めだと言ってましたガ。」


「古いタイプの除湿機!? ったく、何てものを設置するのよ。すぐに抗議と別のモノに変えて貰わないと……」


「小婆様、メイドさんが言うにハ『寝泊まりする方が現れるとは思わず、古い型の除湿機しかこの邸宅には置いてはいませんでした。お館様も気にしてなかったので。』という事でしたヨ。それと、後で新品を購入する予算をお館様に請求する~って感じの事も言ってましたネ。」




 クーリアからその様に聞いたリッサは『あのバカ、変なところでケチるな! ったく、ゲルマン人は堅実じゃなかったのかぁ!? いや、堅実が空回りしてケチくさくなってるの!? ど、どちらにせよ、アタシの方からも色々要求しないとならないわね……』と思い、後日ヴァルターに色々要求する事を誓うのであった。

(もっともヴァルターからすれば、居候なんだから少しは我慢してくれ……と苦笑いしつつ思ったとか何とか。)


 斯くして、リッサとクーリアはこのような経緯でヴァルター邸の居候となり、合わせてクーリアが山の上の学校に留学生として転入学する事となったのだった……






 ー つづく ー

 


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