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春の章その14



 美鶴が美紗音に加えて"石田なりみ、近島さちか"の二人と友人関係となった……丁度同じ頃、同じ学校の保健室に意外な人物が暇潰しでやって来ていた。

 それは言わずもがな美鶴の親である"東雲いづる"であった……




「ちょっといづる、保健室にお客さんとして来てくれたのは嬉しいけど、来て早々備え付けのベッドで昼寝をするのは止めて欲しいわね。」


「良いじゃねぇか。生徒が来ないって事は基本的に皆健康に過ごしてるって意味だろうし。」


「いや、確かにそうだけど急患が来た時に『石田先生、このガサツなオバサンは誰ですか?』とか言われたら、友人としてどう対応すればいいのか困るじゃない。」


「オバサン呼ばわりされるのは別に良いが、その前のガサツは余計だな。仮にそういう生意気な小娘が居たら一泡吹かせて現実の恐ろしさって奴をだな……」


「止めてよねいづる。貴女がソレをやったら生徒が逃げ出してしまうわ。それは浪岡代表も私も望まない展開よ?」


「え~。……ちっ、仕方ねぇな。その時が来たらお前やお花畠の顔を立てて我慢してやるよ。」


「はぁ~、お願いよいづる。できればそういう事にならない事を祈るわ。」




 保健室の主である"石田小百合"とこの様な会話を交えていたいづるであるが、今日学校に来たのには理由があった。それは……




「ところでいづる。貴女の娘さんが本日転入学してるみたいだけど、貴女が来ているという事は心配で仕方なくて様子を見に来たってところかしら?」


「……悪いか? 様子を見に来てさ。一人保護者参観って訳じゃねぇが、色々と見届けたいってのもあるし。」


「そう言ってる割には彼女がいる教室を覗きに行かないでこっちに来てるのは……やっぱり気恥ずかしさありありかしら?」


「うるせ~、別に良いじゃねぇ。美鶴の事なら気配察知で確認できるし、周囲に怪しげな気配は感じないし。それに……」


「それに……一体なに?」


「他に美鶴を見守ってる奴が何人かいるからな。兎ねーさんとか小蓮の奴とか、あと恐らくあのポン神も……」


「兎ねーさん? 小蓮? また知らない知り合いが増えてるのね。それとポン神って、恐らくあの御方の事ね。相変わらす畏れを知らない物言いをしてるのね。」


「いいじゃん、ポンはポンなんだし。」




 そう言いつつベッド上でゴロゴロするいづるを多少呆れ気味に見る小百合。

 だが、ここで彼女は話題を変えてくる。それはいづると関わり合いを持っていた"自分以外の人物"に関するモノであった……




「ああ、そうだいづる、昔貴女が絡んだ人達の現在の状況、聞きたくないかしら?」


「ん? 昔絡んだ連中……何人かアタシが"色々な方法でこっちの世界に引きずり込んで"暮らしてる奴らの事か?」


「ええ、そうよ。昔の私と似た口でこっちで暮らしてる人達よ?」


「あ~、なるへそ。アイツらの事か。なんだかんだでお前も面識持ってたり、話を聞いていたんだったな。そういえば元気にしてるのか?」


「ええ、皆元気にしてるわ。"松永さん"も"ダルクさん"も"安倍さん"も、"それ以外の方々"もね。」


「自爆野郎に魔女扱いされた戦闘狂に自称陰陽師。それに……ん、そっか、一応皆元気なんだな。」


「ちょっと酷い言われようね。まあダルクさんは兎も角、自爆さんと陰陽さんはね……」


「アタシの頼みを聞いたポン神の手配でとんでもない事になったんだったか? 二人とも今いくつくらいなんだっけ?」


「貴女の学生時代の頃に絡んでいた事からすると、二人とも二十歳くらいじゃないかしら? 何せ彼ら……"転生"した訳だし。」


「そうそう、転生って奴だな。まあ、あんな面白オヤジ共を普通に死なせるのもアレだし、ポン神に無理言って転生させたんだっけか。もっとも陰陽オヤジは兎も角、自爆オヤジに関しては……」




 そこで一息入れたいづるの口から次に出てきた一言は、当事者からすれば恥ずかしさ全開だった事だろう。



『自爆オヤジに関しては、まさかの性別変更での転生だからな。本人も転生した時に娘っ子になってたなんて思いにもよらねぇだろうからなぁ〜。』



 ……こんな一言をケラケラ軽く笑いつつ述べるいづるを見て、小百合は『いづる~、そんな事を言ったら可哀想よ? 彼らの転生後の生活は貴女確認してないでしょうし、今度暇が出来たら会いに行って二十年分の御詫びを入れて来なさいね。』と釘を刺してきた。

 ソレを言われたいづる、一瞬真顔になった後『うげっ、マジで会いに行かねーとダメなのかよ。戦闘狂は兎も角、残り二人は色々文句行ってきそう。』と、ため息を吐きながら小声で呟くのであった……
















 その数時間後、登校初日を終えた美鶴は、美紗音と共に学生寮の自室に戻って来ていた。

 その部屋はまだ荷物……特に美紗音の私物の整理が終わっておらず、美鶴は彼女の整理整頓を手伝っていた。

 そんな折、彼女らの部屋に来客があった……




「あー、失礼するぞ。お主らが新入りの寮生か?」


「あ、はい。その通りですが。ところで貴女様は?」


「うむ、儂……じゃなかった私は学生寮の複数いる管理人の一人である"永松はずみ"という者だ。本日からこの学生寮で暮らす新人がいるという事で管理人を代表して顔を出したという次第でな。」


「あっ、そういう事でしたか。これは失礼しました。改めて自己紹介致します。私は東雲美鶴と申します。あちらで荷物の整理をしているのは今川美紗音さんです。」


「そうかそうか、今川に……東雲っ!?」




 美鶴の名字を聞いた瞬間、管理人の永松は何かを思い出したかの様に驚きを露にしていた。

 そして美鶴の事を舐め回す様に見て回り始めていた……




「あ、あの……」


「ふむふむ……われが知る女とは似ても似つかぬ清楚な娘よな。どうやら同姓というだけのようじゃな。」


「同性? ようじゃな? ……失礼ですが管理人さま、先ほどから聞いていますと、いささか古風な男性の方の言い回しをしている様に感じ取れるのですが……女の方ですよね?」


「ん? ……あっ、しまった。思わず素が出てしまっていたか。済まぬな、これは儂……じゃなくて私の癖みたいなモノだ。気にしないでくれると助かる。」


「癖、ですか? そういう事でしたら承知しました。私の方も基本的に気にしない様にしますね。美紗音さんも良いですよね?」




 美鶴から話を振られた美紗音も承知はしたのであるが、管理人の妙な喋り方がやはり気になるようであった。

 そこで永松にその点を更に突っ込んでいる。すると……



『あはは、先ほども言ったが癖よ癖。幼き頃より時代劇とやらを見て育ったゆえ、斯様な言葉使いをするようになったのだ。だから……余り気にしないで貰えると助かる。』



 ……と答えている。

 もっとも、妙に歯切れの悪さの様なモノを美紗音は感じたが、この場ではそれ以上追及する事はしなかった。

 なぜなら自分を見る美鶴の目が無理に追及をするなと言わんばかりのモノに見えた為であったからだった。


 程なく一通りの挨拶を済ませ、永松は部屋から退散する事になるが、最後に『何かあったら何時でも私の管理人室を訪ねるがよい。寮生の困りごとに対処するのも管理人の仕事なのでな。』と告げている。


 美鶴の側もその申し出を受け入れており『管理人さまのご厚意、有り難く受けさせて貰います。その節が来た際にはよしなにお願いしますね。』と答えたという。






 二人の部屋から離れ自室に戻った永松は、部屋の一角にある"茶室"っぽく拵えた空間で茶を点てながらふと考えに耽っていた……




「いかんな。まだまだ癖が抜けぬというか、東雲という名字に過剰に反応してしまったわい。もう、今の姿になってから何年経過したと思っているのだ儂。」


「しかし、このおなごの身体は幾つ歳を取っても慣れぬ物よな。……確か"転生"とかだったか。あの時"信貴山城"が落城を迎えた折、儂は名物茶釜"平蜘蛛"を道ずれに自害したハズなのに、気がついたら身動きが取れぬ赤子の身体になっておった。」


「暫くして動けるようになり、多少喋れるようになった儂の前に現れた"さーな"と名乗る小娘の説明で色々合点がいったが……、いづるというあの小娘の頼みで儂の魂を拾って、昔の記憶を残したまま新たな身体に生まれ変わらせた……とは。」


「全く余計な事を……と言いたかったが、折角生まれ変わりという物を経験したのだ。今度は好きに過ごして良いだろうと思ったがこの身体よな。こんな儂の姿を信長が見たら何とほざく事やら……」




 こんな事を思いつつ、永松は更に『まあ、その信長も明智光秀に反逆されて討たれたと聞いた時には因果応報よな~と思ったが、ソレを我が目で見れなかったのは残念よ。……あ、ずいぶんと思い出話を独り言しておったわい。』と呟くと、点てたお茶をススッと口に含む。

 そして『生まれ変わり、娘の身体と名前で過ごそうとも"松永弾正"ここに健在よ。こればかりは信長も経験できていまい。今世では好きに生きさせて貰う事に変わり無し! 』と発すると、『ぐふふふ……』という妙に悪党染みた……


 いや、いささかアホ面全開な含み笑いを浮かべていたのだった……






 他方、佐世保市街の某所。複数の女性が囲む天幕の中に一人の男がいた。

 この男、見た目は所謂イケメンと呼ぶに足る二枚目だったが、その出で立ちは時代錯誤と言える"平安かぶれ"な衣装を身に纏っていた。

 なぜそんな男がいる天幕が女性に囲まれているのかというと、彼の職業柄ゆえであった。彼がいる天幕の背後の壁に貼り出されていた一枚の張り紙が全てを物語っていた……



 “恋の悩みを陰陽道でズバリと解決、当代随一の陰陽占い師ここに参上”



 こんな謳い文句を掲げていたこの男だが、その評判はかなり上々であり、口コミもあって占って貰いたい女性客が日に日に増えていったという。

 そして、その男は自らを"安倍晴明の再来"と豪語していたという……




「……って訳で、君と彼氏の関係は先ほど説明したように動けば上手く行くだろう。あとは君の頑張り次第だよ。」


「あ、ありがとうございます! 言われたようにやってみます!」


「うんうん、頑張りなさい。陰陽の道も占いの術も、君のような迷える者を助ける為にあるのだからね。」




 迷える者を一人救い、次の診断者を待つ男であったが、次に彼の前に現れたのは女性客ではなかった……




「やあ、若いの。」


「おや? これは俵ヶ浦のご隠居様ではありませんか。」


「ご隠居な……毎回会う度に思うが、君の口からそういう言葉が出ると何だか不思議な気分になるよな。」


「……ソレで何か御用ですかな? わざわざこの時間にここに居るという事は、何か特別な話でも?」




 この男の前に現れたのは俵ヶ浦のご隠居ことヴァルターであった。

 なにゆえ彼が現れたのか?と訊ねたところ、ヴァルターの口から一言……



『なぁに、大した事ではないよ。ただ、君がよく知る女性が数日前に佐世保に戻って来ておる……という事を教えに来たのじゃよ。』



 ……と。

 その一言を聞いた途端、占い師の男の表情が少し狂気を秘めた物へと変化していった。

 そして『ほう、あのバカ女が戻ってきましたか。フフフ、暫く暇を持て余していましたが、やっと借りを返せそうですねぇ~。』と述べつつ、『フフフ、ハハハッ!』と狂喜が入り交じった笑い声を発したのだった。


 そんな彼を見ていたヴァルターは『やれやれ、我が悪友といいこの男といい、なぜ奇人変人の類いはネジが飛んでおるのだ? いや、悪友はともかく、こ奴はフロイラインに暇潰しと面白半分と興味本位で色々人生設計に変更が生じたとか、そんな感じだったかの? ま、どうなるか高見の見物という事で……』と思ったとか。


 ヴァルターからそんな事を思われているなどと思う由もなく、この占い師の男……



 ―― 安倍晴明 ――



 ……かつて平安の昔に威名を轟かせた伝説の陰陽師。その晴明その人が、この時代に再誕していたのである。

 そして彼といづるとの間でも何やら因縁があるようである。果たして如何なる因縁があったのだろうか?


 それは本人達のみが知る事であった……






 ― つづく ―


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