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序章、または前日談。(エピソード内順序入れ替え&微調整版·改メ)



 





 ――西暦1999年、碧蒼4年の7月――


 アメリカ合衆国西部、ロッキー山脈の上空25000m。

 "空気が薄い"などと生易しい表現では到底言えないその高さに、一つの人影があった。

 その周囲には、三色の小さな光球が旋回し、その人影――"彼女"と共に眼下の広大な山脈を静かに見下ろしていた。


 そんな人影の周りを回る三色の小さな光球の内、朱光色を発する光球が次の様な事を告げている。



『汝、本当にやるのか? もし、汝が鬼の王達や政府の偉い者らに告げた通りの事を今から行えば、確かにアメリカとやらの攻勢が止まるやも知れぬ。が、その代償は……』



 ここまで告げたところで、光球が語りかけた相手――それは、肩に触れる程度の長さの銀髪を持ち、その一部が金色の角の様な二本の突起物を頭部に生やした、"一人の少女"であった。


 その少女が『アメリカの人達は今から行う事の実行役がアタシだと知ったら必ず恨むだろうね~。だけどさ、何時までも受け身のままなら何度でもヤマト国に攻め込んで来るんだろ? なら、それが出来ない様にするしかないと思うんだけど……アタシ何か間違った事言ってるかな?』と、光球の発言に被せるが如く言葉を口に出している。


 少女の発言に、最初に言葉を発した朱光色の光球だけでなく、他の黄光色と蒼光色を発する二つの光球も暫し考え込む様に明滅しながら沈黙する。

 そして程なく、黄光色の光球から『ふむ、"(つるぎ)"の発言を遮る様に物を申すのは不謹慎ではあるが、申したい事は理解した。確かにアメリカの攻勢を頓挫させれば、他の国々も攻勢を控える事となろう。……ま、汝が決めた事だ。我らも"見届け役"として付き合ってやろうぞ。そなた一人が業を背負うよりは幾分マシであろうからのぅ〜。』と述べると、他の二つの光球に対して斯く告げている。



『"劔"、それと"鏡"よ、こやつがこの馬鹿げた戦を終わらせようとする、また全ての業を背負うというならば、我ら"別天津神(ことあまつがみ)"の立場ならば、見届け役を果たすなど大した事ではないと思う。』



 その様に告げた黄光色の光球……"勾玉"とも呼ばれる存在は、少女の様子を確かめる様に沈黙し、他の二つの光球も明滅を繰り返しつつ同意して少女の次の行動を待った。

 三つの光球の沈黙を見た少女は自らの行動に賛同が得られたと判断すると、一度深く深呼吸を行った後おもむろに右腕を身体の前方に伸ばし、握り締めていた拳を開く。


 すると、何も無い空間から五角形の打突部を持つ一本の煤け気味な銀色の金棒が雨後の筍の如く音もなく出現した。

 その現れた金棒の柄を握り、何かを確かめるように軽く振るった後、少女は金棒を頭上に掲げ、一息静かに息を整えると、力強く斯く告げた。



 ――我、"天破邪(あまつのはじゃ)の鬼"の名に於いて、ここに念じ発する! 我が眼下に在りし山々の嶺の時を進め、砂塵の塊へと還しせしめよ! 山は荒地に、荒地は砂に。万物、森羅万象に……定形(じょうけい)無し!――



 この一言と前後して、振り上げていた金棒が俄に発光を始め、その光が金棒の先端部に収束し始め、遂には虹色を纏う一個の光球となって顕現していた。

 少女は自らの発言が終わると同時に、持っていた金棒を眼下の山々を指し示すように軽く降り下ろす。


 すると次の瞬間、金棒の先端部に形成されていた虹色の光球が眼下の山々へと向けて勢い良く向かっていく。

 厳密には落ちていくというのが正しいが、 光球が視界から見えなくなる程に小さくなって大地に落着したと思われたのと同時に、彼女の眼下の山々に変化が生じる。


 一言でいうなら――それまでの光景が全く別のモノに置き換わり、まるで完成されていた絵が別の絵に塗り替えられるような、そんな変化であった。


 その現実を見ながら、"勾玉"と呼ばれる黄光色の光球が明滅しながら『まさに昔……いや、我にとっては昨日見たような光景と同じよな。あの時は「山になれ、川になれ、谷になれ」の様に地形が変わっておったが、今回は全てが砂に変わるという感じじゃなぁ~。』という言葉が紡ぎ出された。


 それを聞いた少女は一瞬息を止めるかの様な素振りを見せたものの、すぐに次のような突っ込みを呆れた表情を浮かべつつ入れている。



『あ~、何だその昔話みたいな話。確かそれって、最後のオチが一種の騙し合いの果てに騙された側が豆になって食べられてめでたしめでたしって奴だろ? 随分と縁起の悪い事を言う自称"源初の神様"だなぁ。』



 そうツッコミを受けた側の光球は『悪かったな! 人の子にとっては縁起が悪いだろうが、我にとっては路傍の小石も同然。何も問題は無いっ!』と強く明滅しながら言い返している。


 しかし、その直後に他の2つの光球から『汝、それでも曲がりなりにも源初神なのだから、少しは物言いに威厳をだな……』だの『全く、我ら別天津神の主座に在りし一柱(ひとはしら)の発言とは思えぬ。少し人の子の世に毒され過ぎておるぞ? 少しは自重をだな……』等の突っ込みが即座に入ったとか。


 そんな突っ込みが続々と飛び交い、『皆してそんなに突っ込まなくても良かろうに……』と呟きながら、明らかに意気消沈したかの様に明滅が弱々しくなる黄光色の光球を尻目に、眼下の大山脈――"ロッキー"は、隣接する地域もろとも巨大な"砂砂漠(すなさばく)"へと変わっていった。


 コレがのちに、アメリカ側から"ロッキーの悪夢"とも、時期が時期だった事もあってか"恐怖の大王の所業"と恐れられる事となる所謂"ロッキー山脈崩壊事件"に関わった者達の行動の一幕である……






 この"ターニングポイント"と言える大事件により、アメリカはその国土が西海岸と中央部より東側で寸断される事となる。

 東西の交通は道路も鉄道も大量の砂に埋もれ、完全復旧がいつになるか解らない程の期間を要する事が避けられなくなった。


 また、この一件により、ロッキー山脈周辺の火山地帯の活動が活性化してしまう。

 代表格と言える"イエローストーン"は言うに及ばなかったが、カルデラ湖だった"クレーターレイク"、世界最大級のカルデラ火山であり、風化して原型を僅かに保っていた"ラ・ガリータ・カルデラ"など、活動が休眠状態だった火山までもがこの事態に触発されて活動を再開する兆しを見せ始めたのである。


 この為、アメリカ政府はヤマト国との戦争どころではなくなってしまい、翌年の西暦2000年の上半期までにヤマト国との間で終戦及び講和条約を急ぎ結ぶ必要が出てきてしまった。

 そして、それに続く形でイギリスやフランス、イタリア、オランダなどヨーロッパの国々もヤマト国との終戦及び講和条約を続々と結ぶ。


 最終的に西暦2001年9月、大陸の"民国"政府や、朝鮮半島から中国東北部を中心に、所謂"華北(かほく)""中原(ちゅうげん)"と呼ばれる地域や、蒙古高原東部に広大な版図を持つ"高句麗帝国"もアメリカなどからの説得を受けて渋々講和条約をヤマト国と結ぶ事となった。

(もっとも、この二か国に関しては講和条約の交渉過程で文字通りの"身を切る"事態に陥る事となるが、ここでは敢えてその内容を語らない事とする。)


 なお、この条約はハワイの真珠湾に鎮座し、第一次碧蒼戦役序盤の"南鳥島沖海戦"で唯一戦没を免れ、そののち記念艦となっている戦艦"アリゾナ"の甲板上で結ばれた事から"真珠湾条約"とも"アリゾナ条約"とも呼ばれる事となる。

 そして主要交戦国全てとこの条約を締結した事を以て、所謂"第三次碧蒼戦役"は終結を迎えた。


 以降、世界は旧来の欧米列強の弱体化による植民地支配の終焉と、その後の激動の時代へと突入する一方、ヤマト国は高天原との政治・経済的、また国防面での統合を強めていったのだった……






 ―― 後世『第三次碧蒼戦役(だいさんじへきそうせんえき)』と呼ばれる、"諸外国の連合軍"と"ヤマト国及び高天原"の同盟が世界の覇権を賭け……いや、厳密には連合軍がヤマト国を滅ぼそうと試み、高天原がそれを阻止する為に介入したというのが正しいだろう。そんな戦いが嘗て起きた時代があった ――


 開戦以来、数年に渡る戦いの過程で、ヤマト国内の諸外国との関係を巡る対立や陰謀が積もり、やがて"碧月事変"と呼ばれる政変が勃発した。その結果、永らくヤマト国の帝の位を世襲してきた一族が、連合軍の進攻を防いできた『鬼の王』達と、高天原側の結託により、その一族と関係者達は地位を失い、高天原側にあるヤマト国総督領へ追放された。


 代わりに高天原側の高貴な一族(長命種)の女性がヤマト国の帝に即位する。

 この女性以降、ヤマト国の帝は高天原側から迎えられる形が続く事となる。その内容は世襲というより『禅譲』での即位であった。


 蒼の月(地球)での常識ならば、禅譲による即位は王朝交代を意味するのだが、ヤマト国で起きている事は少し事情が異なっていた。

 ヤマト国の帝となった、この高天原出身の女性。及び以降の女性の帝達は、その全てが共通の祖先を持つ親戚であり、これまでのヤマト国の帝を世襲してきた一族と共通の祖先を持つ存在でもあった。






 西暦1950年代初頭、時の帝は自らの崩御後を案じ、それまで帝の位に就ける事ができる存在に関して、旧来の伝統――天壌無窮の神勅――を意図的に無視する様な勅命。厳密には効力を停止する詔書を残した。


 この勅命や詔書により、帝の位に就ける事ができる存在の範囲が一気に広がり、帝と共通の祖先を戴く存在にも帝位継承権が発生する事となったのである。

 当然だが、この勅命は高天原側に居た存在にも及んだ。そして、碧月事変はその勅命詔書を背景として起きた政変でもあった。





 戦役勃発から数年、ヤマト国の防衛を一手に引き受けてきた『鬼の王』達であったが、連合軍側の反復攻勢とヤマト国内の厭戦気運を見ていた。

 そして、当時の帝が戦役を終わらせる為、密かに連合軍側と講和を図っている事を知る。


 その講和条約は、事実上ヤマト国の降伏とを意味し、更に高天原に関係する者達の身柄拘束や追放が含まれていた。この内容に鬼の王達は大いに憤ったという。

 何故ならこの頃、ヤマト国の窮地を見て、高天原側から数人の次代の鬼の王候補と、数万の兎人兵(とじんへい)がヤマト国に派遣され、鬼の王達の手の回らない戦域で連合軍側と激闘を繰り広げながら、彼らのヤマト国領域への侵入を阻止し続けていたからであった。

 そのため、この帝の行為はまさしく裏切りであり、鬼の王らの価値観からすれば決して許せるものものではなかった。


 先帝との約定でヤマト国を護ってきたのに、斯くなる動きをしていたとなれば程度の差こそあれ、怒り心頭だったのである。






 西暦1996年正月。鬼の王達は高天原側の了解と、先帝の勅命詔書を錦の御旗として掲げ、クーデターを断行した。

 その結果、降伏工作に関与した帝の一族は次々身柄を拘束され、当時10以上存在する分家に当たる"宮家"の大半の関係者も拘束された事により世情は騒然となった。


 その混乱が最小限に収まったのは、皮肉な事に、嘗て陸軍のクーデター未遂事件で首謀者として奉じられたため、皇太子の地位を失った人物を初代として創設された『上総宮(かずさのみや)家』の、この時代の当主が帝や親族、側近らの密約をマスコミに告発し、ヤマト全国民に向けて公にしたためであった。


 世が世なら帝になり得た可能性があった、優れた人格者だった人物の告発により、国民は今上帝が理由はどうあれ国を売り渡そうとしていた事に衝撃を受け、退位はやむを得ないと受け止めるようになった。


 退位した帝は一族と共に高天原の総督領へと移住(事実上の追放)した。上総宮家もそれに従っている。

 ただ、追放された者達は高天原の隠棲の地において"高貴な一族の子孫"という事で、逆に歓迎される事となる。

 その事を受けて、複雑な感情を持つ者も少なくはなかったという。






 そして、それらの代わりとして帝となったのが『碧月帝(へきげつてい)』と呼ばれる事になる存在であった。

 高天原出身の女性でもある碧月帝は、蒼の月(地球)に存在する「穢れ」の関係もあり、戦役終結までに二度同族の女性が禅譲により即位する事となる。


 だが、戦役終結の後、ヤマト国の各地にある『神域』『聖域』とされる神社に特殊な力を持つ『要石(かなめいし)』を配する事で、それより発せられる『退穢(たいわい)の結界』の力により、21世紀以降の碧月帝は蒼の月の穢れに気を配る必要が無くなったという。

 要石による結界とは、結界の影響下に入る土地に高天原と似た環境を形成させるものであり、その為、穢れの影響が著しく抑えられたのである。


 この要石は特に古い神域・聖域を持つ神社や聖地に配されたが、その東の端は諏訪地方と富士山を結ぶラインとされた。この為、新都を含む関東や東北、北海道は結界の外郭として、旧来の物質文明の影響下に残る事となる。

 また、南西諸島も結界の南の端が霧島連山の高千穂とされた事から、同様に物質文明の影響下となった。


 これらの結果、ヤマト国は結界の内側である『九州・四国・山陰山陽・近畿及び、諏訪・富士山ラインより西側の中部北陸』と、それ以外の2つに別れる事となる。


 戦役終結後、時の三代目碧月帝はヤマト国の都をかつての旧都に戻し、名前も古い時代の呼び名である『平安京』へと変更し、ヤマト国と高天原双方の共通の首都とした。

 その一方で、大多数の国々の大使館等は新都側に残したままであり、新都にはヤマト国としての政府機関が残り、外交や内政などを主に司る事となる。






 要石が配された理由が実はもう一つある。

 それはヤマト国を含む蒼の月が高天原と繋がって以降、高天原側の空間に満ちている高密度の精神エネルギーが蒼の月に流れ込んだ為、蒼の月……つまり地球側の各地で異形の怪異が息を吹き返した事による事件が続発したことであった。

 地球各地には色々な神話伝承などがあり、当然だがそれらには怪異の存在が記されていたりする。

 その存在が高天原から流れ込むエネルギーの影響を受けて活性化し、往年の勢いのままに暴れ始めた事が、高天原側としても見過ごせない事案となっていたという。

 即ち、要石をヤマト国の各地に配したのは、高天原のエネルギーがヤマト国の外側に漏れ出さない様にするという理由もあったのである。


 結果として、西暦2010年代には、それら地球各地の怪異は、多くの場合で兵糧攻めに陥った籠城側の将兵のように力を喪失していった。

 ただし、要石の結界の内側であるヤマト国の領域では怪異の類いは変わらず跳梁跋扈していたという。

 その跳ねっ返りの怪異を鎮め、また睨みをきかせて黙らせるのが、戦役終結以後の鬼の王、もしくはその関係者の役割となったという……






 さて、時は遡って西暦1996年正月の政変後、碧月帝の即位に伴い、ヤマト国の従来の暦だった『皇暦』は『碧蒼暦』へと改められ、西暦での1996年が『碧蒼元年』と定められた。

 以降、碧月帝が二代目、三代目と禅譲を繰り返しても不動の暦として、時を経て馴染んでいく事となる。

(この変更は元々あった"皇暦"が、廃された帝の祖先たる初代の帝の即位に起源があった事とも関係しているとされる。なお、碧蒼戦役の名称もここに由来する。)






 ―― そして、その激動の時代から二十数年あまり経過した頃。ヤマト国西部、九州島の西の端にある終点の駅へと向けてひた走る急行列車の一席。

 その席に座り、うたた寝をしている一人の少女が、従者と思われる別の少女から眠りを覚まされるところから今の"物語"は始まるのであった。 ――




 ー つづく ー

 


 さて、ここまで読んで貰いまして、改めてありがとうございます。

 数年前から暖めていた作品を(荒削りな駄文雑文ではありますが)ようやく目に見える形で出すこととなり、書き手としては一つの山を越えたと思っております。


 ※令和7年6月19日追記。

 書き貯めた分が尽きているので、現在不定期です。

 『ああ、ネタ切れして、のたうち回っているんだな』くらいに思って頂けましたら幸いに存じます。


 ※令和7年10月7日追記。

 更なる手直しを加えた。疲れる……


 それでは、改めてダメ書き手の綴る物語、見届けて頂ければ幸いです。






※ちょっとした追記。

本編にて『砂漠化』したアメリカ本土の領域に関して、もう少し具体的に記してみる。


具体的に砂漠化したのは、北から『ワシントン州東部』『モンタナ州西部&中部』『オレゴン州東部』『アイダホ州全域』『ワイオミング州西部』『ネバダ州全域』『ユタ州全域』『コロラド州西部&中部』『アリゾナ州全域』『ニューメキシコ州西部&中部』となります。

設定として、カナダ側のロッキー山脈や、メキシコ側の高地は巻き込まれていないというオチ。ピンポイントでアメリカ本土部分だけひどい目に遭うという事になった次第です。


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