表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/65

序章、または前日談。(エピソード内順序入れ替え&微調整版)



 





 ――西暦1999年、碧蒼4年の7月――


 アメリカ合衆国西部、ロッキー山脈の上空25000mの、空気が薄いなどと生易しいレベルでは形容できない場所に、一つの人影がその周囲を回る三色の小さな光球と共に眼下の広大な山脈を見下ろしていた。

 そんな人影の周りを回る三色の小さな光球の内、朱光色を発する光球が次の様な事を告げている。


『汝、本当にやるのか? もし、汝が鬼の王達や政府の偉い者らに告げた通りの事を今から行えば、確かにアメリカとやらの攻勢が止まるやも知れぬ。が、その代償は……』


 ここまで告げたところで、光球が語りかけた相手である"人影"

……正確には肩に触れる程度の長さの銀髪と、その銀髪の一部が変化して金色の角の様な二本の突起物を頭部に生やした"一人の少女"。

 その少女が『アメリカの人達は今から行う事の実行役がアタシだと知ったら必ず恨むだろうね~。だけどさ、何時までも受け身のままなら何度でもヤマト国に攻め込んで来るんだろ? なら、それが出来ない様にするしかないと思うんだけど……アタシ何か間違った事言ってるかな?』と、光球の発言に被せるが如く言葉を口に出している。


 少女の発言に、最初に言葉を発した朱光色の光球だけでなく、他の黄光色と蒼光色を発する二つの光球も暫し考え込む様に明滅しながら沈黙する。

 そして程なく、黄光色の光球から『ふむ、"(つるぎ)"の発言を遮る様に物を申すのは不謹慎ではあるが、申したい事は理解した。確かにアメリカの攻勢を頓挫させれば、他の国々も攻勢を控える事となろう。……ま、汝が決めた事だ。我らも"見届け役"として付き合ってやろうぞ。そなた一人が業を背負うよりは幾分マシであろうからのぅ〜。』と述べると、他の二つの光球に対して斯く告げている。


『"劔"、それと"鏡"よ、こやつがこの馬鹿げた戦を終わらせようとする、また全ての業を背負うというならば、我ら"別天津神(ことあまつがみ)"の立場ならば、見届け役を果たすなど大した事ではないと思う。』


 その様に告げた黄光色の光球……"勾玉"とも呼ばれる存在は、少女の様子を確かめる様に沈黙し、他の二つの光球も明滅を繰り返しつつ同意して少女の次の行動を待った。

 三つの光球の沈黙を見た少女は自らの行動に賛同が得られたと判断すると、一度深く深呼吸を行った後おもむろに右腕を身体の前方に伸ばし、握り締めていた拳を開く。


 すると、何も無い空間から五角形の打突部を持つ一本の煤け気味な銀色の金棒が雨後の筍の如く音もなく出現した。

 その現れた金棒の柄を握り、何かを確かめるように軽く振るった後、少女は金棒を頭上に掲げ、力強く斯く告げたという。


『我、"天破邪(あまつのはじゃ)の鬼"の名に於いて、ここに念じ発する! 我が眼下に在りし山々の嶺の時を進め、砂塵の塊へと還しせしめよ! 山は荒地に、荒地は砂に。万物、森羅万象に……定形(じょうけい)無し!』


 この一言と前後して、振り上げていた金棒が俄に発光を始め、その光が金棒の先端部に収束し始め、遂には虹色を纏う一個の光球となって顕現していた。

 少女は自らの発言が終わると同時に、持っていた金棒を眼下の山々を指し示すように軽く降り下ろす。


 すると次の瞬間、金棒の先端部に形成されていた虹色の光球が眼下の山々へと向けて勢い良く向かっていく。

 厳密には落ちていくというのが正しいが、 光球が視界から見えなくなる程に小さくなって大地に落着したと思われたのと同時に、彼女の眼下の山々に変化が生じる。

 それは一言でいうなら「それまでの光景が全く別のそれに置き換わる。または完成されていた絵が別の絵に塗り替えられる。」そのような変化であった。


 その現実を見ながら、"勾玉"と呼ばれる黄光色の光球が明滅しながら『まさに昔……いや、我にとっては昨日見たような光景と同じよな。あの時は「山になれ、川になれ、谷になれ」の様に地形が変わっておったが、今回は全てが砂に変わるという感じじゃなぁ~。』という言葉が紡ぎ出された。


 それを聞いた少女は一瞬息を止めるかの様な素振りを見せたものの、すぐに次のような突っ込みを呆れた表情を浮かべつつ入れている。


『あ~、何だその昔話みたいな話。確かそれって、最後のオチが一種の騙し合いの果てに騙された側が豆になって食べられてめでたしめでたしって奴だろ? 随分と縁起の悪い事を言う自称"源初の神様"だなぁ。』


 そうツッコミを受けた側の光球は『悪かったな! 人の子にとっては縁起が悪いだろうが、我にとっては路傍の小石も同然。何も問題は無いっ!』と強く明滅しながら言い返している。


 しかし、その直後に他の2つの光球から『汝、それでも曲がりなりにも源初神なのだから、少しは物言いに威厳をだな……』だの『全く、我ら別天津神の主座に在りし一柱(ひとはしら)の発言とは思えぬ。少し人の子の世に毒され過ぎておるぞ? 少しは自重をだな……』等の突っ込みが即座に入ったとか。


 そんな突っ込みが続々と入り、『皆してそんなに突っ込まなくても良かろうに……』と呟きながら、明らかに意気消沈したかの様に明滅具合が弱々しくなる黄光色の光球を尻目に、眼下の大山脈……"ロッキー"は、隣接する周辺地域もろとも巨大な"砂砂漠(すなさばく)"へと変わっていった。


 コレがのちに、アメリカ側から"ロッキーの悪夢"とも、時期が時期だった事もあってか"恐怖の大王の所業"と恐れられる事となる所謂「ロッキー山脈崩壊事件」に関わった者達の一幕である……






 この"ターニングポイント"と言える大事件により、アメリカはその国土が西海岸と中央部より東側で寸断される事となる。

 東西の交通は道路も鉄道も大量の砂に埋もれ、完全復旧がいつになるか解らない程の期間を要する事が避けられなくなった。


 また、この一件により、ロッキー山脈周辺の火山地帯の活動が活性化してしまう。

 代表格と言える"イエローストーン"は言うに及ばなかったが、カルデラ湖だった"クレーターレイク"、世界最大級のカルデラ火山であり、風化して原型を僅かに保っていた"ラ・ガリータ・カルデラ"など、活動が休眠状態だった火山までもがこの事態に触発されて活動を再開する兆しを見せ始めたのである。


 この為、アメリカ政府はヤマト国との戦争どころではなくなってしまい、翌年の西暦2000年の上半期までにヤマト国との間で終戦及び講和条約を急ぎ結ぶ必要が出てきてしまった。

 そして、それに続く形でイギリスやフランス、イタリア、オランダなどヨーロッパの国々もヤマト国との終戦及び講和条約を続々と結ぶ。


 最終的に西暦2001年9月、大陸の"民国"政府や、朝鮮半島から中国東北部を中心に、所謂"華北(かほく)""中原(ちゅうげん)"と呼ばれる地域や、蒙古高原東部に広大な版図を持つ"高句麗帝国"もアメリカなどからの説得を受けて渋々講和条約をヤマト国と結ぶ事となった。

(もっとも、この二か国に関しては講和条約の交渉過程で文字通りの"身を切る"事態に陥る事となるが、ここでは敢えてその内容を語らない事とする。)


 なお、この条約はハワイの真珠湾に鎮座し、第一次碧蒼戦役序盤の"南鳥島沖海戦"で唯一戦没を免れ、そののち記念艦となっている戦艦"アリゾナ"の甲板上で結ばれた事から"真珠湾条約"とも"アリゾナ条約"とも呼ばれる事となる。

 そして主要交戦国全てとこの条約を締結した事を以て、所謂"第三次碧蒼戦役"は終結を迎えた。


 以降、世界は旧来の欧米列強の弱体化による植民地支配の終焉と、その後の激動の時代へと突入する一方、ヤマト国は高天原との政治・経済的、また国防面での統合を強めていったのだった……






 ―― 後世『第三次碧蒼戦役(だいさんじへきそうせんえき)』と呼ばれる、"諸外国の連合軍"と"ヤマト国及び高天原"の同盟が世界の覇権を賭け……いや、厳密には連合軍がヤマト国を滅ぼそうと試み、高天原がそれを阻止する為に介入したというのが正しいだろう。そんな戦いが嘗て起きた時代があった ――


 開戦以来、数年に渡る戦いの過程で、ヤマト国内での諸外国との関係を巡る対立・陰謀などから生じた政変(碧月事変)の結果、永らくヤマト国の帝の位を世襲してきた一族が、連合軍の進攻を防いできた『鬼の王』達が、高天原側の同意の上で、反旗を翻した。

 その結果、その一族と関係者達は地位を失って高天原側にあるヤマト国の総督領へ追放されてしまい、代わりに高天原側の高貴な一族(長命種)の女性がヤマト国の帝となった。


 この女性以降、ヤマト国の帝は高天原側から迎えられ続けるのであるが、その内容はというと世襲というより『禅譲』という形での即位であった。

 蒼の月(地球)での常識ならば、禅譲による即位は王朝交代を意味するのだが、ヤマト国で起きている事は少し事情が異なっていた。

 ヤマト国の帝となった高天原出身の女性以降の帝達(全員女性である)は、その全てが共通の祖先を持つ親戚であり、その祖先はこれまでのヤマト国の帝を世襲してきた一族の遠い祖先でもあった。






 西暦1950年代初頭、時の帝は自身の崩御後の事を考え、それまで帝の位に就ける事ができる存在に関して、旧来の伝統を破棄するが如き勅命や詔書(厳密には効力の停止)を残していた。

 この勅命詔書により、帝の位に就ける事ができる存在の範囲が一気に広がり、帝と共通の祖先を戴く存在にも帝位継承権が発生する事となったのである。

 当然だが、高天原側にも居た存在にも適用される事となったのだが、碧月事変はその勅命詔書を利用して起きた出来事でもあった。


 戦役勃発から数年、ヤマト国の防衛を一手に引き受けてきた『鬼の王』達であったが、連合軍側の反復攻勢に加え、ヤマト国内での厭戦ムードや当時の帝が戦役を終わらせる為、裏で連合軍側と独自に講和条約を結ぼうと画策している事を知る。

 当然だが、その講和条約は事実上のヤマト国の降伏と高天原に関係する者達の身柄拘束、または追放が含まれていた訳で、鬼の王達は大いに憤ったという。

 何故ならこの頃、ヤマト国の窮地を見て、高天原側から数人の次代の鬼の王候補と、数万の兎人兵(とじんへい)がヤマト国に派遣され、鬼の王達の手の回らない戦域で連合軍側と激闘を繰り広げながら、彼らのヤマト国領域への侵入を阻止し続けていたからであった。

 その為、この帝の行為はまさに裏切りであり、鬼の王らの価値観からすれば許すことは出来なかった。

 先帝との約定でヤマト国を護ってきたのに、斯くなる動きをしていたとなれば程度の差こそあれ、怒り心頭だったのである。


 西暦1996年正月、鬼の王達は高天原側の了解と先帝の勅命詔書を錦の御旗としてクーデターを起こす。

 その結果、降伏工作に関与した帝の一族は尽く身柄を拘束されていく。当時10以上存在する分家に当たる"宮家"が在ったが、その大半の関係者が拘束された事により世情は騒然となった。

 それによる混乱が最小限に収まったのは、皮肉な事に嘗ての陸軍のクーデター未遂事件において、首謀者として奉じられたが為、皇太子の地位を失う事となった人物を初代として創設された『上総宮(かずさのみや)家』の当時の当主だった人物が帝や親族、側近らの画策をマスコミを通じて全てのヤマト国民に向けて公にしたが為であった。


 世が世なら帝になり得た可能性があったであろう人物(実際、優れた人格者だったという。)の告発により、国民は今の帝が理由はどうであれ国を売ろうとしていた事に愕然とし、退位もやむ無しと思うようになったという。

 退位させられた廃帝は一族共々高天原の総督領へと移住(事実上の追放)し、上総宮家もそれに従っている。

(ただし、追放された者達は高天原の隠棲の地においては"高貴な一族の子孫が帰ってきた"という事で、逆に歓迎される事となる。その事を受けて、複雑な感情を持つ者もいたという。)






 そして、それらの代わりとして帝となったのが『碧月帝(へきげつてい)』と呼ばれる事になる存在であった。

 高天原出身の女性でもある碧月帝は、蒼の月(地球)に存在する「穢れ」の関係もあり、戦役終結までに二度同族の女性が禅譲により即位する事となる。

 だが、戦役終結の後、ヤマト国の各地にある『神域』『聖域』とされる神社に特殊な力を持つ『要石(かなめいし)』を配する事で、それより発せられる『退穢(たいわい)の結界』の力により、21世紀以降の碧月帝は蒼の月の穢れに気を配る必要が無くなったという。


 要石による結界……厳密には、結界の影響下に入る土地は悉く高天原と似た環境が形成されたという。その為、穢れの影響が著しく抑えられる事となったのである。

 この要石は特に古い神域・聖域を持つ神社や聖地に配されたが、その東の端は諏訪地方と富士山を結ぶラインとされた。この為、新都を含む関東や東北、北海道は結界の外郭として、旧来の物質文明の影響下に残る事となる。

 また、南西諸島も結界の南の端が霧島連山の高千穂とされた事から、同様に物質文明の影響下となった。

 これらの結果、ヤマト国は結界の内側である『九州・四国・山陰山陽・近畿。及び諏訪富士山ラインより西側の中部北陸』とそれ以外の2つに別れる事となる。


 戦役終結後、時の三代目碧月帝はヤマト国の都をかつての旧都に戻し、名前も古い時代の呼び名である『平安京』へと変更し、ヤマト国と高天原双方の共通の首都とした。

 その一方で、大多数の国々の大使館等は新都側に残したままであり、新都にはヤマト国としての政府機関が残り、外交や内政などを主に司る事となる。


 要石が配された理由が実はもう一つある。

 それはヤマト国を含む蒼の月が高天原と繋がって以降、高天原側の空間に満ちている高密度の精神エネルギーが蒼の月に流れ込んだ為、蒼の月……つまり地球側の各地で異形の怪異が息を吹き返した事による事件が続発したことであった。

 地球各地には色々な神話伝承などがあり、当然だがそれらには怪異の存在が記されていたりする。

 その存在が高天原から流れ込むエネルギーの影響を受けて活性化し、往年の勢いのままに暴れ始めた事が、高天原側としても見過ごせない事案となっていたという。


 即ち、要石をヤマト国の各地に配したのは、高天原のエネルギーがヤマト国の外側に漏れ出さない様にするという理由もあったのである。

 この結果、西暦2010年代にはそれら地球各地の怪異は多くの場合、兵糧攻めを受けた籠城側の将兵の如く、力を喪失した。

 ただし、要石の結界の内側であるヤマト国の領域では怪異の類いは変わらず跳梁跋扈していたという。

 その跳ねっ返りの怪異を鎮め、また睨みをきかせて黙らせるのが、戦役終結以後の鬼の王、もしくはその関係者の役割となったという……






 さて、時は遡って西暦1996年正月の政変後、碧月帝の即位に伴いそれまでヤマト国の暦だった『皇暦(年号を含む)』は『碧蒼暦』という新たな暦に切り替えられ、西暦での1996年を『碧蒼元年』として改暦して以後、碧月帝が禅譲を繰り返しても不動の暦(それに伴い、年号も廃されている。)として馴染んでいく事となる。

(この変更は元々あった"皇暦"が、廃された帝の祖先たる初代の帝の即位に起源があった事とも関係しているとされる。なお、碧蒼戦役の名称もここに由来する。)






 ……そして、その激動の時代から二十数年あまり経過した頃。

 ヤマト国西部、九州島の西の端にある終点の駅へと向けてひた走る急行列車の一席。

 その席に座り、うたた寝をしている一人の少女が、従者と思われる別の少女から眠りを覚まされるところから今の"物語"は始まるのであった……




 ー つづく ー

 


 さて、ここまで読んで貰いまして、改めてありがとうございます。

 数年前から暖めていた作品を(荒削りな駄文雑文ではありますが)ようやく目に見える形で出すこととなり、書き手としては一つの山を越えたと思っております。


 ※令和7年6月19日追記。

 書き貯めた分が尽きているので、現在不定期です。

 『ああ、ネタ切れして、のたうち回っているんだな』くらいに思って頂けましたら幸いに存じます。


 それでは、改めてダメ書き手の綴る物語、見届けて頂ければ幸いです。






※ちょっとした追記。

本編にて『砂漠化』したアメリカ本土の領域に関して、もう少し具体的に記してみる。


具体的に砂漠化したのは、北から『ワシントン州東部』『モンタナ州西部&中部』『オレゴン州東部』『アイダホ州全域』『ワイオミング州西部』『ネバダ州全域』『ユタ州全域』『コロラド州西部&中部』『アリゾナ州全域』『ニューメキシコ州西部&中部』となります。

設定として、カナダ側のロッキー山脈や、メキシコ側の高地は巻き込まれていないというオチ。ピンポイントでアメリカ本土部分だけひどい目に遭うという事になった次第です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ