幽かな光
「うー--」
球場内に無機質な音が響き渡る。その音でのめり込んでいた心が現実に引き戻され、自分は重いキャッチャー防具を身に着けながらグランドの中央に向かう。形だけのお辞儀をし、自身のベンチの戻っていく。周りを見渡すとみんな泣いていた。監督も、コーチも、仲間も、父母会の人たちも。
中学総合体育大会、軟式野球大会地区予選。自分ら3年生最後の大会であり、その大会で負けると引退になってしまう。自分たちのチームは準決勝まで駒を進め、準決勝で延長10回まで健闘したが、最後はあっさり打たれて負けた。まるでドラマの中にいるような展開で、一人一人が主人公と思っているかのような目つきであったが、自分だけは役者Aだった。試合に負けた悔しさもあるが、このどうしょうもない感情は一体何なのだろうか。乾ききった空を見上げ、大きく息を吐く。遠くに薄っすらと虹がみえる。