1
二月の、酷く冷えた深夜―午前一時を少し過ぎた辺り、窓にスモークを張ったワンボックスカーが、とある県境の旧道をゆっくりと走らせていた。車の中には、二十代前半から十代後半までの男たちが五人、揃ってまともな人間ではないとひと目で理解出来る容姿だった。まともじゃない、近づいたらなにをされるかわからない…そんな男たちの後ろに、かつて少女だったものが、衣類をすべて剥がされた状態で転がされ、古い舗装道を走る車の振動に合わせて、痙攣のように小刻みに揺れていた。顔や腹部、そして太腿の辺りにひどい打撲痕があり、両足首の腱は切られていた。痣を残した目はぼんやりと半分開いていて、もうなにも見えてはいなかった。
車は道の途切れるところまで来ると、停車し、エンジンをつけたままじっとしていた。若い方の二人が少女を担ぎ、ガードレールの途切れたところから釣り上げた魚をリリースするみたいに下へ滑り落した。
「この下ってなにかあるんすか?」
あまり呂律の回らない、長短の極端なツーブロックを金髪に染めた、鼻の高いパグみたいな顔をした一番若い男がそう呟いた。もうひとりの、やたらに背の高い、ナナフシのような男がなんかの廃墟、と言って車に戻ろうとした。え、廃墟、と、パグみたいな男は楽し気な声を上げた。
「今度見に行きましょうよ。」
入れないよ、と、ナナフシが車に乗りながら首を横に振る。
「そこに行く道はもうないんだ。」
ちぇー、と呟きながらパグもナナフシのあとに続き、車は二人が乗り込むとすぐにアクセルを踏み込んで走り去った。
あとには暗闇と静寂だけが残った。車が去ってからしばらくして、沈黙していた鳥や虫が様子を窺うように鳴声を上げ始めた。
少女は肉体的にはもう完全に死んでいたが、その身体には意識が残っていた。あーあ、と、少女はままならない身体の中で、ため息をついた。
こんな風に自分の人生が終わるなんて想像もしていなかった。
あんな薄汚い男たちにいいようにされて、なにもかも汚されて、その挙句骨が折れるまで首を絞められるなんて。
「悔しいなあ。」
朽ちたコンクリートの壁を見つめながら、そんな思いが溢れ出る。だけど、もうどうしようもない。諦めて、こんなみっともない格好ですべてが終わるのを待つしかない。生まれ変わりってあるだろうか。もしも生まれ変われるのなら、今度は幸せに、おばあちゃんになるまで生きて死にたいな、そんな風に考えた瞬間だった。
(ねえ。)
彼女の頭の中に、そんな風に話しかけてくるものがあった。なによ、と、少女は面倒臭そうに答えた。
(あなた、殺されたの?)
(そうよ、酷い目にあったわ。散々よ。)
(復讐出来るならしたい?)
あはっ、と少女は笑った。
(出来るならね。あいつらみんなひどい目に遭わせてやっつけてやりたいわ。)
(出来るわよ。)
へぇ、と、少女は、どちらかというと否定的なニュアンスで相槌を打った。まったく、もう静かに死なせてほしいのに。これは死ぬ前の錯乱というやつかしら…?
失礼しちゃうわ、と、謎の声は芝居がかった調子でそう答えた。
(あなたの目の前の壁をよく見てごらんなさい。)
その声は確かにそう言った。少女は言われた通り目をこらした。そこには、一匹の女郎蜘蛛が張り付いていた。ただ、それはあまりに大きく、あまりに色濃い、自動車の車輪ほどもあるものだった。
(やっと、気付いてくれたわね。)
そう言いながら、女郎蜘蛛は、まるで挨拶でもするみたいに右の前脚を少し動かして見せるのだった。




