赤になれないカメレオン
──はぁ、キレイだなぁ。
今日もカメレオンは赤い花を見上げて、溜め息をついた。
そこはジャングルの奥深く。
緑濃い場所に、一輪の大きな赤い花が咲いていた。
それは瑞々しい赤、鮮やかな赤、深い赤。
カメレオンはひと目でそれが気に入って、毎日そこへ通っていた。
──この色を写し取りたい。
そう思って、体の色を変えるけど、彼になれるのはせいぜい朱色まで。どうやっても、その赤を再現できない。
願っても願っても手に入らない色。
でも、魅了され惹かれずにはいられない色。
切望し、模倣し、絶望した。
──くやしいなぁ。どうしてこれ以上、赤くなれないんだろう。
それでも、あきらめきれず、カメレオンは赤い花の前にやってきては、朱色に染まるのだった。
いつかその赤を手に入れられるんじゃないかと乞い願って。
緑の中で朱色の彼はとても目立った。
あるとき、腹を空かせたチーターがザシュッと爪をひと薙ぎ、カメレオンを切り裂いた。
──あぁ、キレイだ。ここにあったのか、僕の赤。
薄れゆく意識のなかで、自らの血の色を見たカメレオンは、満足そうに微笑んだ。
ポトン
彼の死を悼むように、赤い花が落ちて、カメレオンの体に寄り添った。
お読みいただき、ありがとうございました!
これは随分昔に書いた話を思い出しながら、書いてみました。
もっと長かった気がするんですが……。