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濁る

作者: 猪華

 濁る。空気が、視界が、濁る。世界が濁る。

確か昔の言葉に、清い河は住み心地が悪い、元が濁っている方がいい、みたいな言葉があった気がする。でもきれいな場所がないと息ができない。どこもかしこも濁っている。誰も彼も当然のように濁った息を吐く。

ああ、君がいないと、世界が、濁る。


 彼女はただそこにいる。その空間だけが世界から切り取られたみたいに透明で、彼女だけが美しい。ああ、君がいればこの濁った世界に存在することができる。君がその透明な息を吐いているから、僕は呼吸をすることができる。君がその輝く唇で受け止めるから、その水なら飲むことができる。濁った奴らがその濁った頭で考えて書いた本も、君がそのきれいな指でめくるから、その澄んだ目で見つめるから、僕も読むことができる。君がいるから。


 君が濁った奴らと話すのは耐えられない。その目でそんな奴らを見ないでくれ。その口でそんな奴に言葉をかけないでくれ。そんな奴を見つめたら君の目が濁ってしまう。そんな奴らの吐いた息を吸ったら君のその唇が濁ってしまう。ああ、守らないと。君の透明を、守らないと。


 そんな目で僕を見ないでくれ。僕はきみを守りに来たんだから。君の目が濁らないように、君の唇が濁らないように。君を守る。


 ああ、君がいなくなってしまった。君はもうその透明な息を吐いてはくれないのか。君はもうその唇で水は飲んではくれないのか。君はもうこの世界に存在してはくれないのか。こんな世界耐えられない。息ができない。君のところに行かないと。君は今天国にいるよね。あんなに透明だったんだから。きっと今天国には君しかいないよね。待っててね、すぐに会いに行くから。


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