朝のピンチといちゃつき姉弟
姉貴はいくつになっても変わらない……いや、変わって欲しくないと常々思っている。
しかし最近、朝から騒がしい日が連続していて、出来れば大人になって欲しいと思い始めた。
『真緒ぐぅぅぅぅん!! だーずーげーでー!』
またかよと言いたくなるくらい、やかましい朝。
『今行くから!』
『はーやーくーー!!』
二階の住人は俺と姉貴だけということもあり、下階の両親は放任してくれているというありがた迷惑。
俺しか頼れる人がいないという意味では、嬉しいわけだが……。
「……今日は何ですか?」
「これ!!」
「んー?」
「早~く!! やってやっておくれっ!」
姉貴の部屋に入ると顔を見る間に、携帯で腹を攻撃……ではなく、勢いよく渡して来た。
メールで出席問題の件があるだけに、携帯を上手く使えないのだろうという悩みは予想出来るが、それにもかかわらず桃未の携帯は最新機種であり、俺のより操作が面倒なタイプだ。
「何をやれと?」
「桃未さんの口から言わせるつもりがあるというのかい?」
「それなら部屋に戻る」
「わー待って、待って!! パターンを忘れちゃった……だから助けておくれ!」
「無理だ」
「えーどうしてどうして?」
「自分で設定するものはどこかにメモっておくもんだろうし、いくら弟でも桃未のパターンなんか分かるはずも無いぞ」
朝から呼ばれる時の用は、そのほとんどは顔が見たいだの頭を撫でたいだの……姉貴の活力に協力するものばかりだったのに、今日の悩みはさすがに無理だろう。
「ねえねえねえねえ!」
「何?」
「わたしが考えるパターンって何だと思う?」
「分からん」
「つ、冷たいじゃないか、こんにゃろう!」
「いてっ! いててて!! や、やめろって……」
「こんにゃろこんにゃろ~!」
大袈裟にするほど痛くも無いが、桃未にヘッドロックされると、妙な緊張を覚えてしまう。
「さぁ、お願いするぜ!」
「だから無理だって言ってるだろ!」
「よぉし、分かった! もし解除してくれたら、桃未さんの恥ずかしい待ち受け画面を、好きなだけ見ていいから!」
一瞬ドキッとしそうになったが、どうせ大したことじゃない。
どうせ無理だろう……そう思って、思いつくパターンをなぞってみた。
「どうだい、どうだい?」
「……桃未の好きなものは?」
「真緒くん」
「いや、そうじゃなくて……」
「バケツいっぱいのプリンさね」
「他には?」
「大甘なカレーライス!」
単純なパターンほど忘れがちだが、この流れで行くと……。
「……ほれ、解除出来た。というか、暗証番号とかにしといたほうがいいぞ」
「あれぇ? 恥ずかしい画面は見ないのかい?」
「もう見た。じゃ、支度するから戻る」
「み、見やがりやがったんだな?」
「そりゃ見るだろ。解除と同時に見たくなくても見られるんだから」
「真緒くんの生まれた時間は?」
「知らん」
「むっふふ……ならば、誕生日にしておくぜ」
「よく分からんけど、もう忘れるなよ」
朝っぱらから大騒ぎな姉貴のロック解除パターンは、モノの見事に『真緒のM』だった。
桃未のMだったのだろうが、真っ先に俺の名前を口にするとか、本当に勘弁して欲しい。
恋をしてはいけない相手なのに、どうして俺を掻き乱すのか……そんな姉貴は朝から可愛すぎる。