柱の陰に鬼(自称嫁)がいる 序章
聞き分けが意外と良かった姉貴は、休みの日になっても俺の部屋に邪魔することなく、静かに過ごすことが出来た。
そんな休みの日、眠りを妨げた着信音が部屋中に鳴り響く。
「……塚野、明日駅前公園。遅刻許さないから、それとシカトしたら拡散するから!」
「――って、おい!」
ツーツーツー……と、電話が切れた後に声を出しても空しいだけ。
声の主はかりんとうだった。
一応友達ということもあり、連絡先は教えていたが杏はともかく、果梨から連絡を寄こすことなどあり得なかったのに、一体何をさせるつもりがあるのか。
考えても仕方が無いということで、日曜になった。
別に姉貴に言うことでもないし、そのまま外へ出ようとすると……やはり何かを感じた奴が声をかけて来る。
「おや? そこ行く真緒くん。どこへ行くというのかね?」
「外」
「ほっほぅ? 暇なのかね。奇遇よのぅ! わたしも暇だよ?」
「いや、用事だから桃未はついて来たら駄目だ」
「親離れ!? そうなの? 嘘だと言っておくれ!」
「桃未は姉で、親じゃないだろ。嘘じゃなくて外に出かけるだけだぞ。行って来ます。付いて来ないように!」
「ぐあぅっ! 寂しいぞ、真緒くん」
桃未は俺の姉貴であり、彼女では無い。
裏設定で実は血の繋がりが無いとかでもなく、正真正銘の姉弟である。
高校の時に心の内を明かすも、『すまんな』と言われ、俺の姉への恋心は終わりを告げた。
それなのに、大学に進んだ姉貴が何故か俺への庇護欲を掻き立てたらしく、今に至っている。
それは嬉しくもあり、恥ずかしさもあるのだが……。
「遅い! 塚野のくせに女子を待たせるとか、あり得なくないか?」
「あり得ねえな、何で果梨が俺と待ち合わせるんだよ?」
「言っとくけど、あんたにそんな気持ちを抱くのは、数年くらいあり得ないんだからな!」
「数年かよ。で、冴木は?」
「現地で待ってる。塚野にはまだ早い! 杏を待ち合わせさせられるなんて思うなよ?」
「どうでもいいけど」
「偉そうにすんな! ほら、行くからついて来いよ!」
「お前もな」
待ち合わせ場所の駅前公園に行くと、そこにいたのは俺を敵視している果梨だった。
別に冴木に対して意識してないのに、何故かコイツはいつも俺を警戒しては、突っかかって来る。
「塚野! ボサッとしてんなよ! はぐれずにウチに付いて来なよ」
「へいへい」
「早くしろ!」
「うるせーな。全く……」
男では無いが、悪友と呼べる奴に分類されるのだろうか。
こんな日はたまにあってもいいよな……そう思いながら、果梨の後ろをついて歩く自分だった。
「アレは彼女? 彼女なのかい、真緒くん……おのれ」