言葉の意味が違うと言えない件
学内カフェではえらい目に遭わされてしまった上、一瞬にして見知らぬ男たちが敵になった。
自覚の無い綺麗なお姉さんは、大学に入っても健在でいちいち可愛すぎたらしい。
そんな地獄のような昼を終えて、午後の講義を受けていると全く知らない男が隣に座って来た。
「よっ!」
「……どうも」
「アレって、彼女なん?」
「どれ?」
「ほら、カフェでカレー食べさせてた綺麗系彼女のことだよ」
綺麗系ではなく綺麗な姉貴かつ、可愛すぎる桃未なんだが。
「彼女じゃないけど? それが何?」
「ふーん。いや、羨ましいって思った。そういうわけだから、俺は関谷! よろ!」
何がそういうわけなのか、しかしどうやら姉貴狙いでは無さそうで安心である。
尾関と似た名前の男がダチになる運命なのか、何とも気楽そうな奴が声をかけて来たものだ。
「塚野。よろしく」
「おー。他に仲良さげな彼女いんの? いたらよろー!」
「どうだろうな……関谷……は、いないのか?」
「こう見えてモテないのよ~! はははっ……泣けるだろ?」
「俺もモテないタイプだけど」
かなり軽い奴ということは分かったが、悪い奴でも無さそうなのでこっちも適当に返す。
しかし、事態は一変する。
高校の時はそもそも学年で教室が異なっていたからこそ、姉貴の行動は目立ちまくってしまったが、大学では受ける講義にもよるが、たまに学年違いの人も受けている。
単位が足りないものを受けに来るらしいが、そんなまさかの遭遇が起きるなんて思うはずも無かった。
「うおっ!? な、なぁ、一番前に座ってるあの女子! 昼に見た塚野のツレじゃね?」
「いあー……」
「やべぇ、間近で見るとやべえ!」
「背中しか見えないだろ」
「真に綺麗系は後ろ姿でも分かるものだ! マジかー!」
確かに桃未は背中姿でも可愛いが、何でコイツはすぐに分かるんだ。
それにしてもまさか、単位が足りなくて来てるとか、出席の救済は受けられていないのだろうか。
『真緒くーん!! おーい!』
あぁ、間違いなく姉貴の声だ。
それも無自覚な行動で俺の所に向けて、前の席から後ろに歩いて来ている。
「おぉぉ……やべぇ」
「それしか言えないのかよ、関谷」
「やべぇよ」
気づけば講義は終わっていて、何故か他の男どもも姉貴に注目していて、席を立とうとしていない。
「やっほー!」
「どうも……」
「おんやぁ? 気の無い返事じゃないか。こらこら、返事をせい!」
どこの殿様だよと突っ込みたくなるが、ここは大人しくしておく。
「お姉さん! コイツとどういう関係すか?」
やはりナンパ野郎なのかと睨みつけたくなったが、桃未の思うつぼなので机だけに視線を集中させた。
「えーとね、この人は~……」
頼む、ただの知り合いと言ってくれ!
「この人は?」
「真緒くんは、わたしのご主人様なんですよ」
「「「「「ふぁっ!?」」」」」
周りの男連中含め、関谷が素っ頓狂な叫びを上げている。
わたしの旦那様という意味で言ったと思われるが、まさかおかしな方向で勘違いされたのでは。
「ね、わたしの主人様?」
「うう……」
絶対狙っている……可愛すぎる発言なのに、今すぐこの場から逃げ出したい。