桃未さん、大物を捕まえてしまう!? 後編
姉貴の怒りを鎮めるためにお金を下ろして、その流れでケーキ屋にでも……そう思っていたら、とんでもないことになっていた。
外に出たら姉貴は誰か分からない男を確保していて、しかも背負い投げからの絞め技で、男はなす術がなくなっているようだ。
そこに来て俺と目が合ったので、姉貴は目を丸くしながら俺と男を交互に見てパニクっている。
「ま、真緒くんですか?」
「うん。俺です」
「そうすると、あたしが捕まえたコレは誰?」
「さ、さぁ……」
俺も姉貴も何が起きているのか首を傾げるままだが、姉貴の周りには人だかりが出来ていて、少し騒がしくなっている。
『ご協力感謝します!! あなたが捕まえてくれたおかげです! 失礼ですがお名前は?』
『つ、塚野桃未ですけど……』
『では、後ほど!』
などと、明らかに警察の人が声をかけて来たことで、姉貴が確保した男はどこかへ連れて行かれてしまった。
「――で? 罪も無い……いや、ありそうな男を捕まえてしまったワケを聞こうか?」
「むぅぅ……元はと言えば真緒くんが悪いんだぞ!!」
「い、いや、まぁ……」
◇
「おのれ~真緒くんめぇぇ~~ど~こだぁぁぁ!?」
「どけっ!! 女!!!」
「こらこらこら、あたしのどこを見て言っているのかね? 確かに女だけど、そういう物言いは良くないぞ? 駄目だなぁ、逃げまくった挙句、反抗期がピークを迎えたのかい?」
「どけぇぇぇ!!」
「――わっ!? ほっほぅ! 武器を手にして刃向かうつもりなのだな? それが真緒くんの返事なのだね? よかろう! あたしが全てを受け止めて、捕まえてあげるぜ!! 覚悟ぉぉ!」
「ぐあっ!? ぎゃああっ!!」
「大袈裟だなぁ。そんなやわなメンズに育てたつもりは――あれぇ!?」
話をまとめると、姉貴に向かって来た男を俺だと思い、投げ技と絞め技を発揮して撃退してしまったらしい。
◇◇
『お手柄でしたね。塚野さん、後ほど感謝状をお渡ししますので、署にお越しください』
そしてどうやら俺にぶつかって来た男は、未遂で逃げようとした奴らしい。
その男が逃げようとした先に姉貴がいて、見事に捕まってしまった。
「い、いやぁ~てっきり真緒くんだとばかり」
「武器を手にしてって……いくら相手が桃未でも、俺がそんなことをするはずが無いだろ。何かあったらどうするんだよ?」
「むっふん! あたしはこう見えても有段者なのだぜ? 投げも蹴りもいつでもカモーン!」
俺じゃなくて大物を捕まえるとか、どれだけ燃えてるんだか。
「俺が襲ったら絞め技をするつもりが?」
「ノンノンノン! 武器を手にした奴には容赦しないのであって、最初から真緒くんだと分かっていれば、永遠に寝技をしてあげたところさね!」
「それもよせ」
「ぶ~~! つまらん回答は求めてなーい! というか、お金を手にして何をしようとしていたのかね?」
「え、何で?」
「だって銀行から出て来たでしょ?」
見ていないようでそこはきちんと見ていた。
強いしあざといし、マジで桃未には勝てる気がしない。
「お、奢ろうと思って……」
「ほぅ? ほぅほぅほぅ? ははーん、だから銀行に……むふっ!」
「な、何だよ?」
「そういうことなら、今日はこのまま帰ろうぜ~」
「な、何で……」
「次の休みに燃やしに行こうじゃないか!」
「は?」
「楽しみ、楽しみ~! じゃあ、真緒くん。帰ろう~!」
よく分からないが、どうやら怒っていない……のか。
そしてもう桃未から逃げるのは控えよう……そう思った日だった。




