姉貴のハリキリなアルバイト!
『真緒くん、じゃじゃーーん!!』
とある休日、姉貴は何かの通知書を俺に見せびらかして来た。
大抵はよく分からない手作りの絵を自慢してきたりするのだが、今日は何かが違う。
「あん? 採用通知書……桃未が? どこに?」
「むっふっふ……桃未ではなーい! これからはわたしを……いやっ、あたしのことを女将さんとお呼び!!」
「……桃未じゃなくて、何だって?」
「あたしは女将さんだよっ!」
「あーはいはい。ごっごシリーズを再開したわけか。今回はどこの宿に模様替えを?」
「ちっがーーう!! 本当なの! 嘘じゃないの! 真緒くんはいつからこんな疑り深い男の子に育ってしまったというのかしら?」
姉貴のごっこシリーズとは、高校時代の時から突発的に開催されている遊びだ。
彼氏のフリをしている時はその頻度が恐ろしく高く、ほぼ全ての休日と自由が奪われたと言っても、過言ではない。
それだけに、今回も手の込んだ『採用通知書』なるモノまで用意したかとばかり思っていたのに。
「いらっしゃいまし……どうぞ、おこしくださいやした……」
「違う違う……言葉遣い気を付けて」
「あっごめんなさい。え、えと、あたしはこの宿の女将をしておりおり……」
めちゃくちゃ噛みまくりの桃未と、注意する仲居さんが塚野家を出迎えてくれた。
まさか本当で本物の採用通知書だったとは、俺の想像を遥かに上回り過ぎた。
雇われの女将というか、見習いアルバイトとして入ったらしいが、本人はよく分かっていなさそうだ。
「桃ちゃん、頑張ってね!」
「桃、凛々しいな、うん」
などと、普段は声すら聞く機会の無い両親が、姉貴の為に宿に泊まるとかどれだけ娘想いなのか。
「えへへ……女将さんだよっ!」
「塚野さん、そうじゃなくて」
「ほ、ほほ……失礼致しましたでございまする」
いやいや、言葉遣いどころか日本語もおかしくなり始めてるぞ。
「こ、こちらの桃の間におこしやす」
それもおかしいが、突っ込むのはやめてあげよう。
恐らく竹の間くらいのクラスだと思われる部屋に案内されると、親たちは仲居さんと廊下へ出て、雑談を始めた。
女将の桃未はどういうわけか、気合い入れまくった表情で俺を睨んでいる。
これはまさか、本気で女将になろうとしているのか。
髪型もいつも見る長くて綺麗なストレートではなく、簪を挿した髪型になっていて、何となく色気がある。
しかしそんな素晴らしい光景と、桃未の理想は長く続かなかった。
「ま、真緒くん……足が、足がぁぁぁぁ!!」
「は?」
「無理無理無理!! 女将さんって正座を長くするんだよ? 無理だぁぁぁ!」
「……まさか、それで俺を睨んでいたと?」
「睨んでないよぉ……だってだって、気合い入れないと崩れちゃうんだよぉぉぉ」
「女将さん、しっかり!」
「あ、あたぼうよ!」
「その言葉遣いも世界の違う女将さんのような気がするが……まぁ、桃未は着飾らなくても」
「ぐ、ぐおおおお……足がぁぁぁぁ」
結局、一日見学兼お試し女将という、桃未のアルバイトは終わりを告げた。
姉貴は普通に何をしても可愛いのだから、カフェとかのアルバイトがいい……そう思った日だった。




