とある日の始まり
【彼氏のフリをしてと言われても。~姉貴は今日も可愛すぎた~】の続編新作です。
地道に書いていきます。
『いってぇな!! てめええええ! 逆らうんじゃねええええ!!』
何て恐ろしい人だ……俺は素直にそう思ってしまった。
激安ショップで買った縄跳びを改造し、パーティー会場でしか着けそうにない変なメガネを身に付けるこの人は、何故か俺に向かって檄を飛ばす。
事の始まりはカラ返事で『うん、それくらいなら』なんてことを言ってからだと記憶している。
しかしどこからこの脅迫染みた言葉を拾い、そして一体この人は何を目指しているというのか。
もしかして鬼を目指しているのか、それとも女王様になろうとしているのか……今は聞いちゃいけない。
『な、何とか言いやがれぇぇ!! オラオラァ!』
何の劇なのだろうかと首を傾げそうになるが、彼女の大げさな表現力は歳を重ねて更に倍増。
それでも……やはり可愛すぎて、何も言えない。
「それは、こうやって持った方が力を込められると思うんだけど……」
「ええっ!? あ、あらまぁ~ありがとね、真緒くん!」
「どういたしまして……って、気が済んだ? 姉貴」
「ちっっがーーーーう!! お姉様とお呼び! 桃未さん、激おこだぞ?」
「はいはい、可愛い可愛い!」
「て、照れるぜ、ちくしょうめ!」
とんだ茶番であると言われても仕方が無いが、ここは俺と姉貴の自宅の中の出来事であり、誰にも迷惑はかかっていない。
塚野真緒18歳。高校卒業を果たし、彼女はいないが姉貴の教えが効いて、同じ大学に進むことに。
そして姉貴こと塚野桃未20歳は、自称鬼嫁を名乗っている……いや、独身だし彼氏もいないわけだが。
姉貴は女子大生となって、ますます可愛くなった。
それはいい、いいのだが、何かがパワーアップしたらしく、弟の俺に無理ゲーなお願いをして来た。
『真緒ぎゅーん!!』
などと可愛すぎる声は、益々甲高くなっている。
「何ですか?」
「彼氏のフリをしてくれて嬉しかったぜ! そんな真緒くんに新たなミッションを与えようじゃないか!」
「断る」
「うるうるうるうる……」
「いや、涙を擬音で表現されても困るんだけど」
「ちきしょう!! グレてやるかんね! いいんだな? 桃未さん、グレるぜ?」
「どうぞ、勝手に」
「あっ! そ、そうだ~! 真緒くん、大学でも外でもどこでも、ダンナのフリをしてくれるかな?」
この時の俺は生返事かつ、空返事であり全く記憶に無い。
「うーん、それくらいなら別に……」
もはや姉貴の話を全く聞いていなかったし、どうせ大したことを言っていないだろうと思っていた。
「うおおおお! おっしゃぁぁぁ!! ふふん、覆さねえぜ~? これで華の女子大生は安泰だ!」
「いつの時代の話なんだか……で、何の話?」
「ふっふっふ……明日から! 桃未さん、やっちゃうよ~!!」
一体何が始まるのか、それはともかく姉貴は今日も可愛いかった。




