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マホウトコロ

七月も終盤の頃。

私はこの夏真っ盛りの時期があまり好きではない。寧ろ苦手だ。

よく照らされた地面からむわっとした熱気が立ちのぼり、少し動くだけでじんわりと背中や額が湿ってくる。

和風の制服に不釣り合いなつばの広い麦藁帽の前を少し持ち上げて、ハンカチで額を拭った。

まるで自分が溶け出しているような、何とも気持ちの悪い感覚だ。

日に焼けるとこれもまた痛いので、日中の外出は極力避けたい。が、しかし。

学校に呼び出されるとなると、そうそう私情で予定を変更するわけにもいかないのがまた煩わしい。

それにしても、わざわざ夏季休暇中に召集とは一体何事だろう。書状では済まない内容なのだろうか。

そんな悶々とした疑問(決して文句などではない)を浮かべつつ、ひたすらに真っ直ぐ続く田園の畦道を歩いた。


私の通う学校はフツウではない。

立地をはじめ、学年制、校則、制服……全てがフツウの学校とは違う。

極め付きは、生徒が学んでいる学科が『魔術』であること、だ。


〈日本国魔呪術研究會陰陽道専修魔法魔術學園〉。

人呼んで〈マホウトコロ〉。

日本国内唯一の魔術を学べる機関。


学校名はとにかく長いし、陰陽道や魔術なんて少し恐怖を感じる名義だが、これでも平安時代から続く歴史と由緒ある陰陽師の学校なのだ。

まぁでも、このやたら長い学校名を噛まずに言えた者は長い歴史の中でもそう多くないはず。


六歳になると、魔術の才能のある陰陽師の卵たちに入学許可証が送られる。

(半強制的に)入学した後は、敷地内の寮で寝起きし、陰陽道をはじめとした魔法・魔術の授業や一般教養など勉強に追われる怒涛の学生生活が始まる。

この辺の制度については英国の魔法使いの少年を題材とした某小説シリーズを読んでいただいて、その日本版だと考えていただくのが一番手っ取り早いだろう。

早くから発展している国は自国の魔法学校を持っていることが多く、学ぶ内容や魔術の種類は若干違うが、学校自体の制度はどこも似たり寄ったりらしい。


それはさておき。

「やっと校門……」

延々と歩き続け、田園の風景が鬱蒼とした森林に変わった。

茂った木々がひんやりとした影を落とすほの暗い道を歩いて行くと、朱色の鳥居と小さな祠が見えてくる。

そう。ここが我が學園の校門だ。

え?校舎なんかないじゃないかって?

フッ、これはまやかしなのさ……!


……キャラじゃないことはしないほうがいいな。こんな森の中でひとり言っていて虚しくなるだけだ。

実際、ここに校舎がある。ただ見えないだけだ。

これこそ陰陽道の得意とする分野のひとつ、〈まとはせ〉である。

複雑な結界を鳥居周辺に巡らせて、場所を違う次元に重複させて存在させている。

簡単に説明すると、地元の村人たちはこの神社にお参りすることができ、通常学園の姿を見ることは出来ないが、同時におなじ場所にマホウトコロも存在していて、そこで生徒たちは学んでいるという訳だ。

まぁ、たまに迷い込んでくる人もいるので、完全なものではないようだ。うん。複雑だからこの話はもうやめよう。


パンッ!と音を鳴らして手を結び、呪文を唱える。


「開けゴマ!」


結んだ手を解き、空気に触れるように手を伸ばすと、陽炎のように景色が歪み始める。

ハリボテの世界が溶けるが如く現れたのは、五重塔の法隆寺、否、私たちの學園マホウトコロだ。


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