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4 都市



 この町を出よう。

 それは、キリトが言い出したことだ。そして、ユキノはその提案に乗って、出会ったその日のうちに、町を出た。この町に未練はない。


 新幹線に乗った。新幹線なんて、修学旅行でしか乗ったことがない。キリトが手早くチケットを用意して、気づけば新幹線の座席に座っていた。

 キリトは、隣でスマホをいじっている。


「そういえば、泊るところは旅館とホテルどっちがいい?」

「うーん・・・旅館の温泉も入りたいけど、ホテルの朝食バイキングにも憧れるし・・・うーん。」

「くすっ。明日も明後日もあるから、どっちも行けるよ?ようは、先に行くのはどっちかって決めればいいよ。」

「それもそうだね!・・・なら、ホテルで。」

「わかった。バイキングがあるところがいいんだよね。あとは、何か希望はある?」

「・・・高いところがいいな。夜景を見てみたい。」

「高いところ・・・そういえば、お金は有り余っているって言ってたね。」

「うん。毎日2万円もらってるからね。」

「ふーん・・・は?」

「顔が怖いよキリト。」

「・・・いや、バイトでお金を貯金した身としては・・・いや、何でもない。君を楽しませることができるなら、誰のお金でもいいか。なら、お金はユキノさんもちでいいかな?」

「うん。」

「なら・・・ここにするかな。あ、お金はどれくらい持ってきた?」

 この質問はさすがに周りにきかれてはまずいと思ったユキノは、キリトにこそっと耳打ちした。


「・・・贅沢な旅ができそうだ。」

「嬉しいことだよね?なんでそんなに疲れた顔してるの?」

「いや、もっと早く知っておきたかったなと。ま、この話はいいや。はいこれ、ガイドブックね。行きたいところがあったら教えて。」

「・・・え、都市に行くの?」

「そうだけど、嫌だった?」

「人が多そうだなって・・・あ、もう気にしなくていいのか。」

「そうだよ。」

 もう、人におびえる必要がないと思い出したユキノは、楽しそうにガイドブックを読み始めた。


 その横で、キリトは確認をする。

 自分の両親には、部活の合宿だったことを言い忘れていたと話し、学校には体調不良で休むことを伝えた。宿に泊まるための、保護者の同意書は、以前数枚書いてもらったものを持っているし、お金は不安があったがユキノが持っているので心配はない。


 問題は、ユキノの両親。

 一応、部活の合宿書類を作ってユキノの家に置いてきたが、それでごまかされてくれるかどうかわからなかった。そして、ユキノは学校側に友人の葬式に出る名目で欠席にした。それも海外の友人ということで、若干無理がある。

 キリトと同じで体調不良にするかどうか迷ったが、唐突に2人も体調不良になって休み始めるのはどうかと思って、このような理由にした。


 ユキノもキリトも、無理がある嘘を両親と学校に伝えたが、心配はしていない。


 バレたとしても、数日逃げればいいこと。そして、死んだ後のことは知らない。


「キリト君、甘いものって平気?」

「・・・何、スイーツバイキング?」

「うん、おいしそうだなーって。キリト君がよければ・・・」

 バイキング好きだな、と微笑ましくユキノを見て、キリトは自分が甘いものが得意でないことを伏せて、スイーツバイキングに行くことを了承した。


「楽しみ!あーあと、この屋内遊技場に行きたいな。」

「屋内遊技場?・・・ここは明日がいいかな。一日たっぷり遊ぼう。」

「うん!あとは・・・」

 次々に行きたい場所を決めていくユキノ。2日で都市を出ようと考えていたキリトだが、2日では足りないようだ。


「バレた時が大変だよな・・・カツラとか買った方がいいな。あとは、マスク・・・グラサンはやりすぎだな。」

 万が一にも、警察が自分たちを探すことがあった場合、都市では逃げるのが大変そうだと考えていたキリトは、田舎でのんびりしようと考えていた。だが、ユキノが都市でやりたいことがあるのならそれが優先、捕まらない方法を考える。


「どうしたの、キリト君?」

「何でもないよ。そうだ、美容院に行かない?ユキノさんは髪が短くても似合うと思うよ。あとは、服も買って・・・」

 ユキノの長い髪も好きだが、そうはいっていられない。バレていないうちに、印象を変えておく必要があった。


「うーん・・・そこまで言うなら、切ろうかな。」

「なら、美容院の予約をして・・・行きたいとことかある?」

「ないよ。あ、でも女の人がいいな・・・切ってくれるの。」

「もちろん。男とか許せないよ。」

「え?」

 真顔でそう言ったキリトに寒気を感じ、ユキノはキリトを見るが、そこには微笑んだキリトがユキノを見ているだけだった。

 

 見間違いだったのかな?


「ほら、男はがさつだから、ね。」

「・・・そうなの?」

「そうなんだよ。俺も予約しようかな。」

「今のままで十分だと思うけど・・・」

 ユキノから見て、キリトの髪は上手にセットされていて手を加える余地が見られなかった。


「・・・ユキノさんは、今の俺がいいの?」

「え・・・いや、これ以上どうかっこよくするのかなって?」

「かっこいい?俺って、かっこいいの?」

 とりあえず褒めないとと思ったユキノは、かっこいいと口にしたが、改めて聞かれたのでまじまじとキリトを見る。かっこ悪くはないと思う。それに、この髪と顔がキリトという認識になったので、変わると違和感がありそうだと思った。


「私は、そのままがいいな。」

「・・・そう、ならこのままにするよ。」

 かっこいいとは言わなかったが、キリトはユキノの言葉に満足して、スマホに目をやりながら微笑んだ。




 都市に着き、ユキノを美容院に送ったキリトは、近くのデパートに向かった。


 カツラを買う理由は、文化祭の劇で使う・・・無理があるな。やっぱりコスプレイヤーだとかいうしかないかな。でも、それだと奇抜な髪形になるか?うーん。


 結局、彼女にドッキリを仕掛けたい彼氏という設定で、黒髪のカツラを買った。キリトの髪は茶色なので、印象がだいぶ変わるだろう。


 会計を終えると、ちょうどユキノから連絡があった。

 髪を切り終わったということなので、すぐに迎えに行くと連絡を入れて、キリトは軽い足取りで向かった。


 残り6日の命とは思えない、軽い足取りで。




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