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あと、4日



 目が覚めたフォグは、昨日見慣れた天井を見て、ほっとした。


 僕は、スノーの家にいる。もう、寒くて誰も愛してくれない家には、帰りたくない。


 フォグが起き上がると、ノックの音が聞こえて、スノーが顔をのぞかせた。


「おはよう、フォグ。調子はどう?」

「・・・大丈夫。」

「そう、なら少し待っていて。今パン粥を作るから。」

 フォグが頷いたのを確認して、スノーは扉を閉めた。静けさの戻った部屋に、フォグは言いようのない不安を感じてベッドを出た。


 ドンっ。

 足がもつれて、床に倒れるフォグ。思うように動かないからだに不安がさらに募る。スノーがフォグから逃げれば、フォグはそれを追うことはできない。そしたら、フォグはまた一人になってしまう。


 起き上がろうと、腕に力を入れていたフォグの耳が、扉の外の物音をとらえた。顔を上げれば、ちょうど扉が勢いよく開かれ、焦った様子のスノーが入ってきた。


「フォグ!大丈夫?」

「・・・」

 スノーが肩を貸して、ベッドにフォグを戻そうとするが、うまくいかずに2人で倒れこんだ。


「いったー・・・ごめん、怪我はない?」

「・・・スノー・・・」

「何?どこか痛いの?」

「・・・・で・・・」

「うん?」

 どこにもいかないで。


 怖くて、うまく声が出せないフォグは、うつむいた。

 行かないでと言って、嫌だと言われたら・・・どうしようもない。なら、答えを聞かない方がいい。


 自分はこんなに弱かっただろうか?自分の手を見て、考え込むフォグの手に、スノーは手を重ねた。


「フォグ、大丈夫だから。病気だと気が滅入っちゃうよね。でも、大丈夫だから、安心して。元気になれば、きっとその不安も消えるから。」

「本当?」

「うん。ほら、今度こそベッドに戻ろう。」

「・・・うん。」

 そして、何とかフォグをベッドに戻すと、寝転がったフォグに掛布団をかけてスノーは部屋を出た。今度は扉を開けたままだ。


 離れたところで、スノーが料理をしている物音が聞こえて、フォグは安心して目をつぶった。




 スノーがパン粥を作っていると、後ろからケタケタという悪魔独特の笑い声が聞こえた。


「恐れ入った・・・まさか一日で、たーった一日で、一人の人間を魅了するとはな。お前、悪魔の素質があるぞ。」

「・・・病気で気が弱っているだけでしょう。」

「ケタケタケタ。一理あるな。だが、お前見直したぜ。あの坊主には悪魔の力が働かない。にもかかわらず、魅了しちまうんだからな。守護霊様も真っ青だー。」

「・・・」

「ま、順調で何よりだ。別に我は誰でもいいからな。他の悪魔は、好みの味というものがあるらしいが、我にそれはない。せいぜい、残りの人生あがくがいいさ。」

「・・・私は、死にたくない。」

「なら、どうするんだ?」

「私の望み通り動くだけよ。あなたに願った望み通りにね。」

 話しながらもパン粥を作り終えたスノーは、皿に盛ってトレーに並べた。熱いパン粥の隣には、冷たい水を入れたコップを並べる。


「お前はぶれないな。」

 悪魔はにやりと笑って、霞のように消えていく。


「せいぜい、愛してもらえ。」

「・・・」

 悪魔の最後の言葉を聞き、スノーは悪魔がいた空間を睨みつけた。でも、そこにもうすでに悪魔はいない。ただの床があるだけだ。


 スノーは、パン粥を乗せたトレーを持って、フォグの部屋へ向かった。そこで、扉を開け放していたのを思い出し、悪魔との会話を聞かれていたらどうしようかと焦ったが、部屋に入ればフォグは静かな寝息を立てて眠っていた。


「よかった。」

 部屋にある机の上にトレーを置いて、フォグの眠るベッドの端に腰を掛けて、フォグを見下ろした。その顔に笑みはなく、ただ物を見るような感情のないスノー。


「私と同じで、誰にも愛されていないのでしょうね。可愛そうだけど、だからこそ使える。悪魔の力が働かなかったのもよかったわ・・・これで、最低条件がそろうもの。」

 フォグの額に手を置く。


「熱も下がったし、死ぬことはないわね。よかった、死なれたらどうしようもない。」

「・・・っ」

 身じろぎしたフォグを見て、スノーは微笑んだ。

 そして、フォグが目を開ける。


「・・・スノー?」

「フォグ、朝食ができたよ。食べられる?」

「うん・・・ごめん、寝ちゃってた。」

「いいよ。」

 スノーは笑って立ち、パン粥を持ってフォグのもとへ戻った。

 起き上がったフォグに、スノーは一口分のパン粥をスプーンに乗せて差し出す。


「あーん。」

「・・・」

 少し恥ずかしそうにしながらも、フォグは口を開いた。


「おいしい?」

「・・・うん。でも、自分で食べれるから。」

「本当に?」

「うん・・・大丈夫だから。」

 顔を赤くするフォグに、なんだか心が冷えたスノーは、スプーンをさらに乗せてフォグの膝に置いた。


「なら、私は洗濯物をしてくるわ。残さず食べてね。」

 そして、立ち去ろうとしたスノーの袖を、フォグがつかんだ。

 いい傾向だ。そう思うと同時に、スノーにいら立ちが募る。


「何?」

「・・・ごめん。」

「何が?」

「・・・」

 ここで意地悪するのは悪手だと思い、スノーは考えた。


 正直、この場から離れたいという気持ちがある。でも、この少年に好感を持ってもらわらなければ困る。そして、その好感は、愛と呼べるほどのもの。

 残された時間は少ない。早急すぎるが、時間が無いので進展させるべきだろう。


 考えながらスノーはずっとフォグを見つめていた。そして、見つめられていたフォグは、顔を赤らめてそっぽを向くが、袖からは手を放していない。


 スノーは、フォグの手から袖を解放し、それに気づいてこちらを見たフォグの顔に手を添えた。


「え・・・ん!?」

 唇を重ねて、すぐに離れる。

 顔を赤らめて、走って部屋を出て行く。


 洗濯場まで来て、スノーは胸を抑えた。


「動悸がすごいわ。運動不足かしら?さて、うまく逃げられたことだし、洗濯しましょうか。」

「ケタケタケタ。誰に話しているんだ?我か?」

「・・・」

 唐突に表れた悪魔を無視して、スノーは洗濯を始めた。


 とりあえず、手をつないで、抱き合って、キスまではした。次は、何をすればよかっただろうか?愛の行為を実行に移すため、スノーは次の行動を考えたが、特に思いつかなかった。


 最後まではクリアしたわ。あとは、あの少年が私を愛するかどうか。


 フォグから、手をつないで、抱き合って、キスをすれば・・・フォグはスノーを愛していることになる。そうスノーは信じて、それが叶うことを願った。


「死にたくないもの。」

 スノーのつぶやきを拾った悪魔が、ニタニタと笑って姿を消した。




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