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あと、5日



 熱い熱い熱い熱い

 フライパンの上に立っているような熱さ。転がされているような熱さ。フォグは、荒い息をついて、涙を流した。


 そこへ、ひんやりとしたものが額に乗る。


「フォグ・・・気持ちいい?」

「う・・・けほけほっ。・・・スノー・・・」

 目を開ければ、心配そうにこちらを見るスノーがいた。

 そこで、フォグは自分が熱を出しているのだと気づく。ここ最近調子が悪かったのは、この予兆だったのかと、妙に納得した。


 額の冷たさがなくなった。おそらく、ぬれタオルを置いてくれたのだろうが、自分の熱ですぐにぬるくなってしまうようだとフォグが考えていたら、そのタオルをスノーが取って、近くで水音が聞こえたかと思えば、また冷たくなった濡れタオルを置かれた。


「はぁ・・・」

「何か食べれそう?・・・果物なら食べられるかな。ちょっと待っていてね。」

 心配そうにフォグを見て立ち上がり、スノーは部屋を出て行った。そんなスノーの後姿を見て、フォグは昨日の夜のことを思い出す。


 やっぱり信じられない。スノーが、僕を苦しめるなんて。




 昨晩のこと。

 掃除した部屋に一人で入ったフォグは、すでに部屋にいる兄を見て驚いた。


「兄さん!?」

「静かに。あの子が来てしまう。」

「あっ・・・兄さん、本当に兄さんなんだ。けほっけほっ。」

「大丈夫?もうベッドに横になったほうがいいよ、ほら。」

 ベッドを指さした兄に従い、フォグは寝そべった。


「フォグ、よく聞いて。今日のところはここに泊まるしかないけど、明日になったらここを出るんだ。」

「なんで?せっかく居場所を見つけたのに・・・」

「あの子は、よくない。嫌な気配を感じるんだ。フォグのことは俺が守るけど・・・きっと、フォグはここにいたら傷つくことになると思う。あの子は、危険だ。」

「兄さん、よくわからないよ。あの子って、スノーだよね?スノーは、温かいご飯と寝床を用意してくれたんだよ?いい人だと僕は思うよ。」

「いい行いをするからいい人だとは限らない。まだ、出会って間もないうちに、別れたほうがいい。でないと、苦しむことになる。」

 そんなことはないと、兄に言いたいフォグだったが、そこまでスノーのことを知っているわけではないので、否定できなかった。


「・・・でも、ここを出てどうするの?」

「もう少し行けば町があるし、そこで居場所を見つければいい。」

「わかった。明日、出るよ。」

「うん、そうした方がいい。なら、明日に備えて今日は寝るんだ。そうだ、久しぶりに寝物語を聞かせてあげよう。」

 そんな子供ではないと、フォグは思いながらも何も口に出さずに目を閉じた。それは、聞かせてほしいという合図だ。

 兄は、いつも読み聞かせていた騎士の物語を語りだす。


 懐かしくて、温かくて、フォグの頬には涙が流れて、いつの間にか眠っていた。




「フォグ、起きて。果物を持ってきたわ。少しでも食べて。」

「ん・・・」

 目を開けて、起き上がろうとするが、だるい。


「そのままでいいわ。はい。」

 果物をひと切れフォークにさして、スノーはフォグの口に運ぶ。それを見て、フォグは口を開けた。


 ひんやりと冷たい、みずみずしくて甘い。


 おいしい。


「もっと食べてね。それで早く元気になって?今日は町に案内しようと思っていたの。そこで、あなたの着替えを買ったり、おそろいのコップを買ったりとか、いろいろ考えていたのよ。元気になったら一緒に行こうね。」

「・・・」

 楽しそうに話すスノーに、申し訳なく感じたフォグは困った顔をする。すると、スノーは、悲しそうな顔をして聞いた。


「私と一緒は嫌?」

「そんなこと・・・ない。」

「よかった!」

 たちまち悲しみの色は消えて、笑顔になるスノー。


 フォグは、自分自身を殴りたかった。

 期待をさせて、裏切るのか?なんてひどい奴だ。苦しめるのは、スノーではなく、僕だ。


 つらそうにしていたら、また額の濡れタオルを冷やすスノー。それを見て、迷うフォグ。


 ここを、僕の居場所にしてはだめなのだろうか?




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