2 最悪の日
朝、いつもの通学路を歩く彼女。でも、彼女の目から見える景色は、いつもと違って輝いていた。
今日で終わる。
彼女はにっこりと笑った。今までにないほど、浮かれている。気づけばスキップをしたり、鼻歌を歌いだしそうだ。だが、それに気づくたびに口をへの字にして、眉間にしわを寄せた。
だめだめ。まだ、今日は終わってない。今日が終わるまでは安心できない!
気を引きしめて、彼女は歩いた。
だが、それがいけなかったのか、小さな小石に躓いて、彼女は転んでしまい、アスファルトが彼女の膝の皮をめくって、血が流れた。
「痛い・・・」
痛いのと恥ずかしいのとで顔を真っ赤にしながらも、彼女は立ち上がる。
「うぅ・・・」
膝を見れば、なかなかの量の血が流れていて、持っているばんそうこうでは役に立たないだろうとすぐに判断した。
保健室に行くしかないよね。もう、最悪。
彼女は、保健室の前で立ち止まった。
一度もこの場所に足を踏み入れたことがない、ということで少し緊張したが、立っていても仕方がないと、ドアをノックして、開けた。
「失礼します。」
扉を開ければ、中の様子が見える。最初に目に入ったのは男子生徒。こちらを見てきたので目が合うが、彼女は目をそらしてあたりをうかがう。
「先生はいないよ。わ、すごい怪我だね、座って。」
「え、あ・・・そうなんだ。」
気まずいと思いながらも、言われた通り男子生徒の近くにあった椅子に腰を掛けた彼女は、男子生徒を見た。
茶髪の男子生徒というだけで、彼女にとっては苦手な人間だが、彼からは嫌な感じがしなかった。なぜだろうと不思議に思えば、彼と目が合う彼女。
「傷口は洗ってあるよね?」
「うん。外で洗ってきた。」
「わかった。ちょっとしみるけど我慢してね。」
ティッシュと消毒液を持って、彼は彼女の前にしゃがむ。少し恥ずかしいと感じた彼女は、彼を見るのをやめて、保健室に張ってあるポスターを眺める。
すると、膝に冷たさと痛みがきて、足を少し動かした。
「痛かった?」
「・・・ちょっと。ごめん・・・足動かして。」
「いいよ。あとは、ばんそうこうで傷口を覆えばいいね。・・・大きなばんそうこうはどこかな?知ってる?」
「私初めてここに来たから・・・勝手がよくわからない。」
「俺もなんだよね。ガーゼとテープはあるから、とりあえずこれでいい?ばんそうこうがよかったら、後で先生がいる時にもらえばいいよ。」
「うん。ごめん、保健委員なのかと思ってた・・・」
「あー、確かにそう思うよね。俺はキリト。図書委員だよ。」
「・・・ユキノ。委員会には入ってないんだ。」
簡単な自己紹介をしているうちに、ユキノの手当は終わった。
「ありがとう。」
「いいよ。たぶん、この紙に名前書いて、怪我をした部位と場所を書けばいいと思うよ。」
近くにあったサイドテーブルにあった紙を指さして、キリトは説明をする。ユキノはその紙を見て、キリトの名前があることに気づいた。
「キリト君の手当は終わったの?」
「うん、ちょっと紙で指を切っただけだから。ほら。」
差し出された手を見れば、確かに人差し指にばんそうこうが貼ってあった。
「じゃ、俺はこれで。」
「あ、あの、本当にありがとう。助かったよ。」
「気にしないで、助け合うのは当たり前だし。」
笑って扉に手をかけたキリトだが、なぜか扉を開けない。
「?」
「・・・開かない。」
「・・・え!?」
ユキノは立ち上がって、キリトの方へ向かおうとした。
「おめでとう!あざのある者たちよ!」
ユキノの背後から聞こえたのは、悪魔の声だ。
今まで人前に現れなかった悪魔、いつもユキノが一人の時にだけ現れる悪魔。なぜ、今現れたのか?
「「悪魔」」
声が重なり、ユキノとキリトはお互いに目を見合わせた。
「ユキノ、よかったな~今日でお前は苦しみから救われるぜ?なんでかわかるよな、さすがにわかるよな?ケタケタケタ!」
「え・・・え・・・なんで、だって・・・今日で終わるって。」
「嘘は言ってないぜ?終わっただろ?あざのある人間と会うのを恐れて、外に出られないって悩み・・・もう、そんな悩む必要ねーだろ?出会っちまったんだから!」
「いや、嘘・・・そんな、嘘。」
怯えた目で、キリトを見るユキノ。そんなユキノに、キリトは頷いて答えた。
「俺には、あざがある。悪い、ユキノさん・・・君にも、あざがあるんだよね?」
ぐるぐる景色がゆがみ、頭の中に感じが一つ浮かんだ。
死
血の気を失い、ユキノは倒れた。