あと、6日
ことこと。シチューの煮る音だけが、家の中に響く。
スノーは、シチューの味見をして頷き、背後に目をやる。
いかにも孤児。ぼろぼろの服に、汚れと傷のある体の少年フォグが、机の前におとなしく座っている。
唐突に訪れた彼を、スノーは笑って向かい入れた。もちろん、彼とは初めて会った。顔見知りでない者を家に上げるのは、危険な行為だ。だが、それは普通の人間であればの話。
愛される少女に、そんなことは関係ない。だから、物乞いの少年を無警戒に家に入れて、椅子に座らせてあげたのだ。
「できたわ。今、皿に盛るからもう少し待ってね。」
「・・・」
フォグは、何といえばいいのかわからず、口を開いたがそのまま閉じて俯いた。
家に上げられるとは思いもせず、フォグは戸惑っていたのだ。
ここは、魔女の家だろうか。目の前の少女は、魔女だろうか。
そんな考えが浮かぶが、温かいシチューを目の前にして、食欲に負けたフォグは考えることをやめた。
「召し上がれ。」
「・・・ありがとう。」
何とか例だけを口にして、流し込むようにシチューを口に入れた。
「・・・!」
熱いと思った。それはそうだ、出来立てなのだから。
スノーは、その様子を見てコップに冷たい果実水を注いだ。
差し出された果実水を飲むが、舌はやけどしたようで痛い。それでも、フォグはシチューを次々と口に入れる。
「焦らなくても、誰も取らないわ。」
「・・・そうだった。」
スノーの言葉を聞いて、少しだけスピードを落として食べる。ここは、自分の家ではない。金をむしり取って酒に買える父はいない。この食事が奪われることもない。
「あなた、見かけない子ね。どこから来たの?どこへ行くの?」
「・・・隣町から来た。」
どこから来たのかは言えるが、どこへ行くのかは言えない。だって、行く当てなどないのだから。
「そうなんだ・・・なら、帰っちゃうの?」
「・・・帰る場所なんてない。」
「そっか。なら、一緒にここに住まない?」
「え?」
聞き間違いかと思い、フォグは顔を上げて少女を見た。金髪に青色の瞳の、自分と同い年くらいの少女。彼女は笑って、同じことを口にした。
それに、少年は頷いて答え、少女は笑みを深めて手を差し出した。
「改めて、スノーよ。これからよろしくね。」
「・・・フォグ。よろしく。」
うれしいのに、うまく言葉が思いつかずに、フォグは必要最低限のことだけ言って、握手をするために手を伸ばし、やめた。
「?」
「・・・汚れるから。俺、こんなんだし。」
少女の綺麗な手と、自分の傷だらけの手を見比べて、うつむいた。
だが、その傷だらけの手を温かいスノーの手が包む。
「汚くないわ。さっき手を洗ったのを忘れたの?」
「いや、覚えてるけど・・・」
「来て、部屋に案内するわ。使ってなかったから汚れているけど、今から掃除をすれば今晩寝ることはできると思うの。」
「・・・うん。」
スノーに手を引かれながら、フォグは笑った。
それを背後に感じたスノーも、フォグに見られないように笑った。
彼が、きっと私を救ってくれる。そう信じて、彼女は空き部屋の扉を開けた。




