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1 あざのある者たち


現代の学生サイドの物語です。

こちらは、サブタイトルに数字を振っていきます。





 チャイムの音が響き渡る。


「起立。・・・さようなら。」

「「「さようなら」」」

 40人前後の学生が、一人の教師に対して別れの挨拶をし、頭を下げた。その光景が異様だと頭の片隅で思いながら、顔を上げる男子学生。


 彼は、愛されている。


 わっと集まる人。男女問わず、口々に彼を誘うクラスメイトに、彼はにこやかに答えた。


「みんなありがとう。でも、先生に呼ばれてるから。また今度誘ってよ。」

 笑顔で、嘘をつく。誰も嘘だと気づかず、彼は解放された。


 職員室へ行くふりをして、彼は屋上へと上がる。

 それに続く黒い影。彼はそれに気づかず、誰も気づかず、黒い影も彼について屋上へと行く。


 誰もいない屋上で、彼はフェンスに手をかけて、グラウンドを見下ろす。

 運動部が活動を始める準備をしているが、人はまだまばらだ。あと10分もすれば、学校のグラウンドらしい掛け声などが上がるだろう。


「お前に、良い知らせと悪い知らせを持ってきたぞ。」

「・・・悪魔か。」

 背後から唐突に聞こえた声に驚くも、その正体を理解し顔をしかめる。


「知らせは一つだ。お前と同じあざの持ち主と、明日出会うだろう。どうだ?良い知らせで、悪い知らせだろう?」

 ケタケタと笑う悪魔の方は見ずに、彼はつぶやいた。


「それは、悪い知らせだ。相手にとってはな・・・」




 冷たい家。

 一人、リビングに立つ少女が、自身の家をそう話したことがある。


 机に置かれたお金は、今日の晩御飯を買うためのもの。メモも何もなく、ただお金だけが置かれている。


「どこのホテルでディナーするのかな、本当。」

 お金を手に取って、ため息をつく。十分すぎる金額だが、愛情あってのことではない。ただ、この家にはお金が有り余っているのだ。それだけのこと。


 持っていたビニール袋を机に置き、ポケットから財布を取り出して、お金を無造作に突っ込んだ。


 毎日毎日、朝と晩に置かれるお金。それは、休日だって同じで、一緒に食事をしたのはもう数年前の話だ。彼女は事情があり、人とかかわるのを嫌がる。なので、外に出ることもほとんどなく、仕方なく学校に通うのと、コンビニでご飯を買う程度しか外に出ない。なので、お金はたまっていく一方だ。


 だが、お金では彼女は満たされない。


 冷たい家と呼んだが、彼女自身の心も冷え切っていた。


 親しい友も作れない彼女は、寂しさにうずくまる。


「全部、このあざのせいだ。」

 心臓のあたりを抑えて、彼女は苦しげにつぶやいた。そこには、いびつな丸いあざがある。まるでどくろの様なシルエット、呪いのようなあざ。実際それは呪いのようなものだ。


 同じあざを持つ人物と出会えば死ぬ。

 それが、このあざの意味だと悪魔は笑って教えてくれたのだ。


「ケタケタケタ。いい顔をするなぁ、本当に。」

 背後から唐突に聞こえた声に、彼女は振り返って苦い顔をした。


「悪魔・・・」

「いいねぇ。俺はこっちの方が好みだな。」

 彼女の目の前には、黒い影に赤い口と目をした悪魔がいた。その悪魔は、椅子に移動し、彼女に掛けるよう促した。

 立っていても仕方がないので、彼女は悪魔と対面の椅子に腰かける。


「お前の悩みも、明日で終わりだぜ。」

「・・・それって、あざが消えるの!?」

「ケタケタケタ!そんなわけあるかよ!本当、面白いなぁ!お前の悩みが消えるってのは、簡単な話だ。お前は、死にたくないから、あざを持っている人間と会いたくない。だけど、そのせいでいろいろ不自由しているのが悩みなんだろ?」

「そうだよ。外に出れないから、友達も作れないし・・・友達ができれば、こんな家にまっすぐ帰ることもない。友達がいなかったとしても、私は家を空けるつもりだけどね。」

 あざを持つ人と会わないために、なるべく人を避けていた。完全に安全なのは家だけで、他は危険だ。学校ですら安心できる場所ではないため、私は帰りたくもない家にまっすぐ帰っている。


 学校では、クラスが比較的安全だ。それは、お互いに一度顔を合わせているから。彼らの中にあざを持つ人がいないのは、私が生きていることで証明されている。


「そう、その悩みが明日から解決だ!喜べよ、明日から外に出かけたい放題だぞ。」

「でも、あざは消えないんでしょ?・・・それとも、あざのある人間が死ぬの?」

「おっ、正解だよ。よくわかったな。」

「・・・それくらいしかないでしょ。私のあざが消えないのに悩みが解決するってことは、あざのある人間が死ぬ・・・その人には悪いけど、ほっとした。私、死ななくていいんだ。」

 彼女の顔が緩んだ。張りつめていたものが解けた今の彼女なら、友達もできることだろう。

 そんな彼女の様子を見て、悪魔は面白くて仕方がなかった。


 明日、この顔が絶望に染まる。見ものだなぁ。


 悪魔がそんなことを考えているとはつゆ知らず、彼女は明日を乗り越え、不自由で冷たい日々を終える決意をした。


 自身が勘違いをしているとも気づかずに。





連載中小説「死神勇者は狂い救う」

     「リアルデス 世界を救うより、妖精を育てよう」 もよろしくお願いします。



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