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ガレイスの誤算

「随分と胸糞悪い趣味をしてるな」

「そ、そんな……魔族の子たちがこんなに」

 わなわなと震えているレウィを見て、ガレイスは満足そうな顔を俺達に向ける。


「そうだ! お前と同じ魔族の娘達だ! どうだ? 素晴らしいだろう? 美しいだろう? うひひひ」


 格好はともかく、狂ったように高笑いをしているガレイスは、まるでマッドサイエンティストそのものだった。


「それを美しいと思える貴方の頭を疑うよ」


 ワタルの侮蔑した言葉にガレイスの高笑いがピタリと止まる。

 それだけでも不気味なのに、無表情でズカズカとワタルの前に近づき、能面の様な顔でワタルの顔を下から覗くその様子は、まるでホラー映画の一場面を見ている様だった。


「そんなに近づかないでほしいね、正直貴方の吐く息の臭いに耐えられそうにないからね」

「ふん、強がりを! 我輩のこの素晴らしいコレクションの価値が分からない下等な者は、生きる価値もない!」

「そう? それなら、あんたのコレクションすげぇって言ってやるからこれを解いてくれよ」

「うひひひ、い、や、だ、ね!」


 また、ご機嫌なガレイスに戻った。


「やっぱりね。まぁ、嘘でもあんたのコレクションを褒めるつもりはないけどな」

「我輩にはもう一つ趣味があってね」

「どうせ碌でもない趣味だろ?」


 そうに違いない。いや、絶対そうだ。


「人間の身体を解剖して、ゆ~っくりと隅々まで観察する事のどこが碌でもない趣味なんだ!」

 

 やっぱり碌でもない……。


「待ちなよ。貴方は僕達がユーヘミア王国の二大将軍の客人だという情報は届いているよね? 僕達にこんな事してただで済むと思っているのかい?」


 国際問題というやつだ。


「知らんな、我輩はただ人攫いの犯罪者を罰しただけだ! あの御者も始末してしまえば貴様らの足取りを掴める者はいなくなるだろう。勇者達も明後日には魔大陸に行きその内魔王に殺される――残念だったな? 証人なんてだれもいない」

「色々と考えてはいるんだね」

「まぁ、貴様らは後でじっくり料理するとして」とガレイスは、無機質なベッドに寝かされているレウィの元へとゆっくり近づく。

「その子に何をする気だ!」

 

 ガレイスは俺の言葉を無視し、レウィが寝かされているベッドの下から箱から注射器の様なものを取り出す。


「この薬は生き物の状態を停滞させる効果を持っているのだよ。我輩は少女が女に成長する事が許せないんだ! 綺麗なものは綺麗なまま残しておきたいだろう?」

「綺麗なものを綺麗なまま残しておきたい、というのは僕も賛成だけど、綺麗なものはいくら時間が経っても綺麗なものだと思うんだけどね」

「そうだ! お前はただのロリコンなんだよ!」

「ほざいていろ、どうせ貴様らには何もできないのだからな。指を咥えてこの娘が我輩のコレクションに加わる様を見ているんだな! やっとだ、やっと我輩のコレクションに念願のヴァンパイア族の娘が!」


 紅潮した顔でガレイスは注射器の針を上に向けると、数滴中身が零れ落ちる。


「やめろおおおお!」と俺は叫びながら、両手両足に付けられた巨大なホッチキスの芯に似た枷を外そうとジタバタする。

「クソ! 外れねぇ! くそ、くそおお!」

「うひゃひゃひゃ、無駄だ! 無駄、無駄! その拘束具は屈強な戦士十人掛かりでも壊せないし、マグマに投げ込んでも溶けない特殊な金属で出来ている! 貴様らはもうお終いなんだよ!」

「くっそおおおお!!」

「うっひゃひゃひゃひゃ「な~んてな!」ひゃひゃ?」


 パキッ! パキン!

 

 ガレイスの顔が面白い事になっている。


「な、な、なにが……「ゴォォォォ!」……」


 ワタルは両手両足に火魔法を発動させると、枷は徐々に溶けていく。


「全く君は……もっとスマートに出来ないのかい?」

「いや~必死な方がもっと絶望を与えられると思ってよ」

「どう、いうこと、だ、どうして枷が! 何なんだ貴様らはッ!」

 

 先程までの余裕たっぷりだった態度とは真逆にパニック状態に陥っているガレイスは、アタフタしながら卓球のラリーを見ているかの様に交互に俺達と壊された枷に目が行く。


「屈強な戦士十人だって? そんなの簡単だよ、俺の力が屈強な戦士十人より強かったって事だ」


 俺は両腕に力こぶを作りポージングを取る。


「マグマに落としても? そんなの僕の魔法の方が圧倒的に高温だったて事だよ」


 ワタルの両手からは発せられた青々とした炎が燃え上がる。


「馬鹿な……ありえん……」

「さて、お仕置きをする前に聞きたい事がある。――ギムレット」

「――ッ!? な、なぜ貴様がその名を!?」


 ギムレットの名を口にしただけでこの反応


「確定だね」

「あぁ、その反応だけで十分だな。夜も遅いし、レウィをちゃんとしたベッドで寝かせて上げたいから早く終わらせよう」と俺がレウィの方へと顎をしゃくり上げると、それにつられたワタルの口元が緩む。


「まったく、大した子だよ」


 レウィはこんな状況にも関わらず、いつの間にかすやすやと寝息を立てていた。

 いくら俺達を信用しているからって無防備すぎるだろう……戻ったら説教だな。


「ワタル彼らを呼んできてくれ」

「分かった」


 ワタルは重厚な扉を開け、俺達が下りてきた階段を駆け足で昇る。


「ま、待ってくれ! 金、そうだ! いくら欲しい! 底辺冒険者では一生拝めない程の金をやろう!」

「なんで金を持ってるやつは、命乞いする時に金をチラつかせるんだろうね? しかも上から目線で……はぁ~金なんていらねぇよ! それよりも、この子達を元に戻す方法を教えろ、正直に教えてくれたら、お前の命云々は考えて上げてもいい」

「…………」

「この期に及んで」

 

 俺から目線を外して黙り込むガレイスにイラっとし、胸ぐらを掴んで持ち上げると首が閉まっているのか、潰れたカエルの様な醜いうめき声がガレイスの口から洩れる。


「このまま締め続けてもいいぜ?」

「うぐぐぐ、ま、って……言う……か、ら」


 言質を取ったので俺は掴んでいた両手を離す。ズトンとガレイスは床に落ち、四つん這いになりゲホゲホと苦しそうな咳を吐く。


「それで? どうすれば元に戻せる?」

「げほっ、す、水槽から出してやれば数日の内に元に戻る」

「本当だな? 嘘じゃないな?」

「あぁ、本当だ! 嘘じゃない!」

 

 そんなやりとりをすると、複数人の足音が聞こえる。


「これはッ!?」


 片瀬達は、室内に飾られている少女達を目の当たりにして驚きを隠せない様子だ。


「来たか、これがこいつのコレクションだとさ。レウィもこの一つに加えるつもりだったらしい」

「そんな……」

 

 ガレイスは、這うようにして片瀬の足にしがみつく。


「ゆ、勇者様助けて下さいっ! こ、この犯罪者共が我輩を殺そうとしているのです!」

 この状況でまだそんな事が言えるのか、ある意味凄いなこのおっさん。


「ガレイスさん、これはどういうことですか?」


 片瀬は怒りと苛立ちを含んだ声で、あえてガレイスに問いかける。


「こ、これは我輩の物ではございません! 元々あったものです!」

「では、なぜレウィシアさんはあんな所で拘束されているんですか?」

「そ、それは! こ、こいつらが!「いい加減にしろっ!」ヒィッ!」


 醜い言い訳を並べるガレイスに堪忍袋の緒が切れた丸山が怒鳴り散らし、殴りかかろうとするのだが、「待て!」と俺が間に入ると「なんで邪魔すんだ!」と丸山が俺を睨む。


「待てって、確認したい事があるんだよ。ワタルあれ持ってるか? こいつが嘘をついてるかどうか確認したい」

「あるよ」とワタルは俺に指輪を手渡す。

 カルロスの本音を聞くために使った遺物と同じもので、水色の宝石が六つはめ込まれている所をみるとまだ使った事がない新品なのだろう。


「なぁ、おっさん」


 いつの間にかおっさんという呼び名がが定着している。

 おっさんは俺を睨みつける。


「もう一度教えてくれ、この子達を元に戻す方法を」


 おっさんに指輪を向けると、宝石が一つ砕け散る。


「さっきも伝え、た――水槽にそこの箱に入っている中和剤を入れると水槽の液体が透明に変わる。それから娘達を出せば数日で元に戻る――ハッ! なぜ、口が勝手に……それは」

「遺物だよ、お前の本音を聞き出すためのな。それにしてもよくも嘘を教えたな?」

「や、やめてくれ! 我輩はただ、コレクションを! うぐえぇッ!」


 もう、おっさんの汚い声を耳にしたくない俺は、おっさんを殴り飛ばした。


 最大限手加減はした。こいつの罪は公にして、裁かれるべき場所で裁いてもらう。

 

 この国がこいつを助けたり、シラを切るのであればグレンさんやミラさんの名を使えばいい。

 ベルガンディ聖国とて、こんなしょうもない貴族のためにユーヘミア王国と事を構えようとはしないだろう。

いつも読んでいただき、ありがとうございます!

次の話は、土日の内に更新するようにいたします。


サブタイトル変更しました。(20.4.25)


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